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「――そういえばスパの開店準備はどうなっておりますの?」


 その質問にリアーヌは答えを譲るようにゼクスを見つめ、ゼクスは少し言いにくそうに口を開いた。


「夏休暇の終わりに頃にはどうにか……?」


 これはラッフィナート商会やボスハウト家の名前やツテを使い、急ぎに急いだ結果なんとか夏休暇期間ギリギリに間に合わせられる目処(めど)が立ったところだったのだが――

 レジアンナ的には少々時間がかかり過ぎていたのか「そうなんですの……?」と、あからさまにがっかりした態度をとった。


「……レジアンナの家、スパのギフトを持つ人雇ったって言ってなかったっけ?」


 肩を落としてしまったレジアンナに、リアーヌは不思議そうに首を傾げる。

 嬉しそうにそう報告して来たのを覚えていた。


「ーー一人(ひとり)だけね? ……あまり強くないみたいで……いつもお母様が優先なの……」

「あー……」


 似たような話をゼクスから聞いた覚えのあったリアーヌはチラリとそちらに視線を走らせながら小さく肩をすくめた。


「今までその真価を見出されていなかったギフトなので、こちらも情報がなかなか集まらず……うちも人をかき集めるのに苦労しました」

「あんまり使ってこなかったから力も伸びてないし、使い方にも慣れてないんですよねー」


 ゼクスのグチに合わせるように、リアーヌが相槌を打つが、その言葉に大きく反応した人物が一人――


「……そう、なんですか?」


 レジアンナの隣に佇むフィリップだった。


「あー……私はそう思ってるんです。 でも父さんたちからは『成長して身体が大きくなると力も同じに増える』って説明されましたけど……」

「ならばそれが真実なのでは? 子爵様がそう判断なさっているんでしょう……?」


 不可解そうに首を傾げながら紡がれたフィリップの言葉に、リアーヌも意味がわからない……と首を捻る。

 そしてハッとなにかに気がついたように口を開いた。


「あ、うちの父さん結構思い込み激しいタイプですよ? ウワサ話とかすぐに信じちゃうんです」

「――それは、その話が偽りであっても、ということかな?」

「偽りというか……眉唾な話でも結構信じてること多いですね? ……そして一度信じるとなかなか曲げてくれません……」

「……例えばどんなことを信じていらっしゃるんだい?」

「例えば……――茶色い牛のミルクはちょっと甘い、とか……オレンジの種は二日酔いに効く、とかですかね?」

「……効くの?」


 そう話しかけて来たのはゼクスだった。

 子爵が信じているならば、可能性はあるんじゃないかと考えていた。


「ええ……? でもその話、父さんにしたの母さんですよ?」

「……ごめん、そこ詳しく聞いても?」

「えっと……父さんが二日酔いになった時、母さんが父さんにオレンジを出してあげたんですよ「これなら食べられる?」って……父さんはそれを食べて、だいぶ楽になったみたいなんですけど、その時横着して外の分厚い皮以外、全部食べちゃって……呆れた母さんが「もしかしたらこの種が二日酔いに聞いたのかもね?」って冗談を言ったんです。 そしたら「そうかもしれない……!」って父さん信じ込んじゃって……」

「――でも子爵様はそれが正解だ(・・・)って思われたんだろう?」

「……うちの父さんが良いって思ってること全部が本物だったら、みんなが迷信だって思ってる殆どのこと、本物になっちゃいますよ?」

「……なっちゃうんだ?」

「はい。 そういうのすぐ信じちゃうんで。 ――あ、それによって父さんや家族に害が出るなら「なんかダメだ」って判断になりますけど……」

「害になる時?」

「はい。 例えば……オレンジのタネ食べたらお腹が痛くなっちゃうとか、二日酔いが悪化する、とかの時ですね」

「――つまり意外に効果がある……?」

「さぁ? 害にならない、ってのには現状維持も入ってると思うんで」

「現状維持……――悪くはならないけど良くもなってない……?」

「……体調不良の時って「あれ? 良くなったかも⁉︎」って思い込み、結構重要じゃないですか?」

「思い込みなんだ……」


 ゼクスとの会話に肩をすくめるだけで区切りをつけたリアーヌは、そもそもフィリップと話していたことをようやく思い出し、慌ててフィリップに言葉をかけた。


「――そういう性格なんで、父さんが『成長によってギフトの力が増える』って話を信じてたとしても、それが真実だってことにはならないと思います。 ……それともフィリップ様、うちの父が『茶色い牛のミルクはちょっと甘い』って言ったら信じます?」

「――残念ながらミルクの味は鮮度によると信じていてね……しかし、力のほうは……幼い頃よりそう教育されて育ったからね……」

「……? でも、そもそもそれだってって有力な説の一つ、ですよね?」

「そ、れは……その通りですね?」


 フィリップは座学だけ(・・)は成績優秀なリアーヌの片鱗を感じ、少し戸惑いながらも(そういえば才女だったな……)と再確認していた。


「未だに、ギフトがどうして発動するのか、どうして持っている人と持っていない人がいるのかも解明されてないのに、力の増やし方だけは解明されてるっての、ちょっと違和感覚えません?」

「――確かに解明はされていないが……」

「……でも子供より大人のほうが力が強いのは事実――つまり解明されているんじゃなくて?」


 フィリップの隣にいたレジアンナが気づかうように口を開く。

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