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その後、なんとか挨拶回りやダンスなど、予定をこなし終えたリアーヌたちは、再び友人たちと合流し、未だかつてないほど上機嫌なレジアンナの武勇伝に面白おかしく相槌を打ちながら、お城の豪華な料理に舌鼓をうった。
そしてその後場所を移動し、いくつか存在するバルコニーの中で、ほんの少しだけ眺めの悪い場所の一つを占領しながら、他の友人たちとも合流して情報交換をしつつ、しばしの間友人同士の会話で盛り上がっていた。
「そういえば! 次の脱走は外なんですって⁉︎」
「……脱走?」
思い出したかのように楽しげな声で話しかけて来たレジアンナに、リアーヌはキョトンと首を傾げた。
「……とぼけてもダメよ? クラリーチェから詳しく聞いたんだから!」
「――なにを?」
「だから脱走の話よ! 次は街に行くんでしょう⁉︎ 楽しみだわ!」
「はい! とっても」
レジアンナの言葉に同意するようにクラリーチェが頬をほんのりと色づかせながら答える。
「……えっ⁉︎ なんで脱走⁉︎ 普通に遊びに行こうよ⁉︎」
「……それじゃ当たり前でつまらないじゃない……――また授業をサボって街に繰り出すほうがずっと刺激的だわ⁉︎」
「――街に皆様だけで行くなんて……きっと前回よりもっとずっとドキドキしてしまいますわね⁉︎」
キャッキャと盛り上がる二人を茫然と眺めていたリアーヌは、ゆっくりとビアンカに視線を送る。
「……タスケテ?」
「――紛らわしい言い方をした自分を呪いなさい?」
「……これ絶対ビアンカも強制参加なお話ですけど⁉︎」
「――レジアンナが行くなら私も当然同行しましてよ? きっと両親も褒めてくれるわ?」
「うわぁ……」
早々に特大の免罪符を発見したビアンカだったが、それでも困ったように肩をすくめながら答えた。
その免罪符が機能するのは、レジアンナが何事もなく無事に家まで帰り着くことが出来た場合のみだと、正しく理解出来ていたからなのかもしれない。
(最大の味方がそちら側に回っているだと……――くそう……! なんでお城のパーティーは護衛やお付きを入れないんだ⁉︎ あの人たちがいたら絶対に私の味方になってくれるっていうのにっ!)
「……レジアンナ? さすがに外は危険すぎるんじゃ……?」
フィリップがやんわりとレジアンナに制止の声をかける。
その声にリアーヌが期待で瞳を輝かせると同時に、レジアンナが唇を尖らせながら咎めるように答えた。
「あらフィリップ様はダメですわ? だってこれはお友達同士の脱走なんですもの」
「――この間は護衛さんやお付きの皆さんも一緒だったんだから、今回だって一緒でいいと思う! 外だし! 危ないしっ! ――万が一何かあったら家が取り潰しになるし‼︎」
すかさず言葉をねじ込むリアーヌ。
――本来のフィリップであれば、レジアンナとの会話中に割り込む者を、歓迎することなどなかったのだが、今回ばかりはリアーヌを歓迎し、その言葉に大きく同意してみせた。
「……まぁ、問題が起こるのはダメですわよね……?」
「――じゃあちゃんと護衛の人たち頼んで、万全の体制で行こうよ! ――休みの日に!」
「――それはつまらないからイヤ。 また皆様と授業をサボってしまいますのっ! ふふっどうしましょう今から楽しみですわ」
「……クセになってんじゃねぇと……」
しかしその気持ちが分からないわけでもないリアーヌは、ちゃんと護衛が付いてくるなら、まぁ……? と、肩をすくめ――そこで呆れた視線を自分に向けているゼクスと目があった。
「――俺の婚約者さんは……意外に不良さんだねぇ……?」
「……どうしても、って止めてくださるんなら、私今から不参加表明しますけど……」
ゼクスにそう答えたリアーヌだったが、それにいち早く反応したのはビアンカだった。
「言い出したのはあなたでしょう? これで不参加だなんて許さなくてよ?」
「……最終的な責任を私に被せたいだけのくせにぃ……」
リアーヌはそう言いながらビアンカに恨みがましい視線を送るが、意外にもビアンカの本心は別のところにあり、万が一にも危険な目になどあわないよう、リアーヌの持つ直感力――豪運のギフトの恩恵にあやかりたい、というものだった。
「いつ頃がいいかしら?」
「休みが明けてすぐはいかがでしょう? その辺りならば授業的にも巻き返しやすいかと……」
「――そうですわね? 今回は外ですもの……一日がかりの計画になりますわね⁉︎」
盛り上がり始めたレジアンナとクラリーチェの会話にリアーヌが全力で水を注ぎ込む。
「なんで⁉︎ そんなの本気のボイコットになっちゃうよ⁉︎ ――あ、いっそこうしない⁉︎ その日の最後の授業をみんなで早退しちゃうの。 で、街に繰り出す! ほらこれならみんなで早退だから誰も怒られないよ⁉︎」
「……それは」
「ねぇ?」
「ちょっと違うような……?」
「全然違うわ! やっぱり脱出するのが良いんですの! また皆様でサロン棟に潜みましょうね⁉︎」
「あれもドキドキしましたわね⁉︎ 皆様で廊下を歩いている時もでしたけれど!」
(……どうしよう。 生粋のお嬢様がたが悪い遊びを覚えてしまわれたんですけれど……――あれ? これ……先生がたに許されたとしても、みんなのご両親には許してもらえなくて、結果家が取り潰し、とかいうパターンあるくない……?)




