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 レジアンナに向けての言葉だったが、その宣言はフィリップにこそ聞かせておきたい言葉だった。


(あんたが私から派閥に入る系の言質を取りたいことだけは分かったからな……私、こういうのは根に持つタイプだからな! ヴァルムさんに言いつけてやるんだからっ!)


「――つまり、ボスハウト家は今まで通り中立……いえ、決して味方をしないという意味であれば限りなくこちら側に近い中立ということでいいかしら?」


 ビアンカが確認するようにたずねるその言葉からはなんの悪寒も違和感も感じなかったリアーヌだったが、それでも念の為……と、「あくまで中立ね? 絶対にそっちには行かないの。 うちは中立だから」そう、何度も“中立”であることを強調しながら同意した。


「――(はた)から見れば、それはこちら側と言えそうなものですが……」


 いまだに諦められないのか、それとも単なる冗談の一つなのか、にこやかな顔で揺さぶりをかけてくるフィリップ。


 リアーヌがその言葉を聞き不愉快そうに顔をしかめた時――

 フィリップを嗜めるように声をかけたのはゼクスでもレジアンナでも無くビアンカだった。


「……ボスハウト家には多大なる借り(・・)がある状況で、リアーヌをはめようと画策なさるのは悪手であると存じますが……」

「――はめるだなんて人聞きの悪い……私は素直に感じたことを口にしたまでですよ」


 ビアンカに嗜められたのが面白く無かったのか、フィリップは笑顔を貼り付けながらも眉を引き上げ不愉快さを表した。


「私には嬉々として言質取りに来てるように見えましたけど……?」


 呆れたように呟いたリアーヌの言葉に、ゼクスもケラケラと声をあげて笑いながら「俺もー」と同意する。

 しかしフィリップは笑顔に少々の圧をかけながら「誤解ですよ」という短い言葉で言い逃れて見せたのだった――


(……あれ? でもなんでうちは中立を続けるの?)


 その話題に一区切りついたことにホッと胸を撫で下ろしながらも、リアーヌは改めて自分の家の――父の対応に疑問を感じたようでは一人大きく首を傾げた。


「……どうかしまして?」


 リアーヌの微妙な変化に気がついたビアンカは首を傾げながらたずねる。


「あー……なんでうちは中立なのかなって……」

「こちら側に来るのなら歓迎致しましてよ⁉︎」


 リアーヌの言葉に顔を輝かせたレジアンナは、前のめりになりながらも嬉しそうに勧誘する。


「――うん、ならないんだけど」

「ええ……」

「……でも――向こうはダメなんだから応援したいのはそっちじゃ無い?」

「……そうなりますわよね?」

「なのにうちは中立なの、なんでなのかなって……」


 リアーヌの疑問を聞き、レジアンナもしっくりくる答えが思い浮かばなかったのか「それは……」と言葉を濁しながら首を捻った。


「――子爵様はこれ以上の影響力を望まないんじゃ無いかな?」


 リアーヌの疑問に答えたのはゼクスだった。


「……そうなんです?」

「あくまでも俺の予想だけどね? でも今の状況で子爵様がそちら側に付くと明言すると、それにならう家が多々出てくる――そうなった場合、派閥内でのパワーバランスが多少なりとも動くんだ」

「パワーバランス……」

「子爵が動いたからこそ旗色を明らかにする人間が増えたなら、動かないわけがない。 ……でもそうすると、それを嫌ったり快く思わない方々も出てきてしまう」

「……それがイヤ?」

「権力や影響力は持ちすぎると毒になる場合もある――子爵様はそれを嫌ったんじゃないかなぁ?」

「なるほど……」

「――まぁ、今のは全部俺が勝手にそう思ってるだけなんだけどね」

「……合ってそうですけどね?」

「――答え合わせも兼ねて、この後お邪魔しても?」

「あ、多分大丈夫だと……?」


 リアーヌがそう返事を返したところで、フィリップの困ったような呆れたような声がかけられた。


「わざわざ我々の前でその話をしますかね……?」

「ぁ……ごめんなさい……?」

「いや、責めているわけでは無いんだ……――ボスハウト家の考えを知るいい機会になった。 こちらとしてはあちらに決して付かないならば味方も同然なんでね」


 フィリップのその言葉に嫌な予感を覚えたリアーヌは扇子で口元を隠しながら視線を伏せて首を傾げて見せた。

 これでリアーヌがこの会話の内容を不快に感じているという意思表示になるはずだったのだが――


「――つまりリアーヌはほぼ味方ですわよね⁉︎」


 それがうまく伝わらないままに、レジアンナが嬉しそうに声を上げ、喜んでいた。


「ぇ、ちが……レジアンナ」

「違いませんわ? ほぼなんて誤差みたいなものよ! つまりあなたは(わたくし)の味方なの! ……だからねリアーヌ?」


 そんなレジアンナの猫撫で声に、リアーヌの背筋にはギフトで感じるものとはまた違った悪寒が走っていた。


「……なに?」

「ご一緒にイタズラ(・・・・)はいかが?」


 無邪気で愛らしい笑顔で言い放ったレジアンナだったが、その恐ろしさを身をもって知っているリアーヌは、ヒクリと頬を引きつらせた。


「……レジアンナ、とても楽しそうなところ水を差したくはないんだが……手出しはいけないよ?」


 楽しげなレジアンナに待ったをかけたのはフィリップだった。


「……少しくらい」

「やめておくれ」

「ええ……」


 不本意そうに唇を尖らせるレジアンナに、フィリップは困ったように笑うと、レジアンナを宥めるように優しい口調で話しかける。

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