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「……まぁ、否定はしませんけれど」
「話題の店のものでも、少々口に合わないものも少なくはないですし……ね?」
そんな会話で話に花を咲かせていると、大方の参加者が入場し終えたのか、王族たちの入場を知らせるファンファーレが鳴り響いた。
数多くの貴族たちが礼の姿勢をとる中入場した国王とその妻子。
国王からの簡単な挨拶ののち、パーティーの開催が宣言された。
(あれが王妃と第一王子……初めて見た。 あんな顔してたんだ……)
パーティーが、スタートするとダンスを一曲ゼクスと踊り、パートナーを入れ替えて一曲。 その後はパトリックたちと別れ、あらかじめ決めてあった相手への挨拶回りをこなし、これまた決まっている相手とダンスをこなしていく。
そして再びゼクスと合流したリアーヌが(そういえば、私フォルステル伯爵夫妻どころかユリアのドレスの確認してないんだけど、うっかりエンカウントしちゃわないかな……?)と、少しの不安を感じていた時だった――
ざわざわざわっと入り口付近が一際騒がし
くなり、多くの参加者たちの関心をひいた。
(……――いやいやいや、まさか。 だってここは王城――王様がいる目の前ですよ? いくら平民だろうと、この世界であの年まで生きてきたんだったらそんな自殺行為できるわけないって! さすがにそこまでじゃないって!)
にこやかな笑顔を貼り付けながらも、周りの貴族たち同様チラチラと騒ぎの方向を見つめていたリアーヌは、ふと感じてしまったとある可能性を否定するようにその笑顔を深くする。
そんなリアーヌをエスコートしながらゼクスもまた葛藤していた。
情報を得るためにあの騒ぎに近付くか、安全を取るためにこの場で待機するか……
少し悩んだゼクスがリアーヌに意見を求めようとした時だった――
パーティーの給仕人、王城の使用人の一人が、そっとゼクスの耳元で伝言を囁いた。
それに小さく頷いて見せるゼクス。
その給仕人はその仕草を肯定と捉えたのか、そのままゼクスたちを誘導するような仕草を見せた。
ゼクスはチラリとリアーヌに視線を送りニコリと笑って腕を差し出す。 戸惑いながらもリアーヌがその腕を取ると、その手をポンポンと優しく触れながら安心させるようにゆっくりと歩き出し、給仕人の後について行った。
(……なんだろう? 多分誰かからのお呼び出しだと思うけど……――お城の給仕人ってのが不穏じゃない……? だってほとんどの家、そんなこと出来ないよ? ……いや、ゼクスが大丈夫だって判断したからこうしてついて行ってるんだとは思うけど……――え、これゾワってしてないから平気! とかの判断で大丈夫? ふわっと感はゼロなんだけど、ゾワがなければ安全? ……誰か⁉︎ うちの父以外で豪運に詳しい人はいらっしゃいませんか⁉︎)
頭の中でそんな葛藤をしていたリアーヌ。
しかしどんどん会場から離れ人気もまばらな廊下に差し掛かった時、ゼクスから小さな声で説明を受けた。
「パラディール家のご嫡男からお招きいただいたよ」
ゼクスからの説明に(ああ……フィリップなら給仕人の一人ぐらいは動かせるか……)と納得しながらも、ゼクスの謎のこだわりを感じ取り、クスリと笑いながら口を開いた。
「……頑なに名前では呼ばないですね?」
「……そんな関係じゃないからね?」
そう答え不本意そうに眉を吊り上げて見せた。
(うわべを取り繕って、仲の良いふりして見せるのが貴族――というか大人としての立ち振る舞なのでは? とか思わないこともないけど……――この二人に関しては、にこやかにしてたところで周りの空気はヒェッヒエだからな……こっちに被害が少ないなら、もうそれでいっか……)
「――このタイミングってことは、さっきの騒ぎと関係があるんですかねぇ?」
「どうなんだろうね? 伝言内容は『なにかあればパラディールの控え室まで』で、今そこに案内されてるわけだけど……」
「……公爵家ともなると王家のパーティーで控え室が用意されるんですね?」
「……ね?」
(そんなわけないでしょ……――大方、パラディールが面倒見てる、第二王子がいるからだと思うけど……――この情報をこんなとこでペロッと喋っちゃうのもマズいから、そういうことにしておこう……)
ゼクスは簡単な相槌を打ちながら決意すると、話題を変えるために会話を続けた。
「会場を離れる時、チラリと見えたんだけど、あの騒ぎの中心に向かってフォルステル伯爵が進んで行ったんだ。 だからあの騒ぎには、かの方が関わってる可能性が高いと思う」
その言葉を聞き、リアーヌが真っ先に心配したのはクラリーチェだった。
あんな入り口にクラリーチェたちが居るとは思えなかったが、ユリアが騒ぎを起こす理由で、一番可能性が高いのはレオン関係だと思えてならなかった。
「……ちなみにクラリーチェ様たちはフィリップ様とご一緒なんでしょうか……?」
リアーヌは言外に自分の不安を伝えようと、少しの仕草を交えて話しかける。
「――レオン様は初めての王城だと聞いてるからねぇ? さすがにご一緒なんじゃないかなぁ? 顔合わせや紹介だってたくさん予定されてるんだろうし……」
ゼクスはリアーヌの意図を正確に読み取り、まさか……と顔をひきつらせながらも、あの四人は一緒に行動しているであろうとの推測を口にする。
(ここは王城だ。 王妃の子飼いがわんさか出入りしている場所で、まさかパラディール家が第二王子から目を離すことはないだろ……)
「ですよね……?」
ゼクスの言葉を聞き、ホッとしように胸を撫で下ろすリアーヌ。
(じゃあ例えユリアに突撃されたとしてもきっと平気だよ。 なんだってレジアンナが付いてるんだもん! ……レジアンナが……付いてる……? ――待って? これって……シナリオ通りに進むなら……ちょっかいかけるのは悪役令嬢側からなのでは……?)




