表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
357/524

357


 ◇


 夏休暇が始まり、すぐに開かれた王城でのダンスパーティー。

 ゼクスと共に登城したリアーヌは、入り口につながる広い廊下でビアンカたちと合流していた。


「ごきげんよう。 今日のドレスも素敵ね?」

「ありがと! ビアンカのも可愛いねー? すごく似合ってる!」


 リアーヌのドレスは白地のシフォンのような薄手の布に赤い薔薇の刺繍が無数に散りばめられたデザインで、その軽やかな見た目に反し、ずいぶんな重量のあるドレスとなっていた。

 そしてビアンカの纏うドレスは鮮やかで艶やかな青地のマーメイドラインのドレスで、色白でスタイルのいいビアンカの魅力をよく引き立てていた。

 そのドレスの生地は、以前リアーヌが某プリンセスドレスを作った時に使っていたもので、あれをきっかけに少し流行しているようで、同じ生地を使ったドレスを着ている者がチラホラと見受けられた。

 リアーヌ自身も、白い長手袋にその生地を使っている。


 リアーヌはニコニコと笑いながら繁々とビアンカのドレスを眺め回す。

 しかしビアンカは、困ったように笑いながら眉を下げ、小さく肩をすくめる。


「嬉しい言葉だけれど、もう少し取り繕いなさいな」


 リアーヌの言葉が心からの賛辞であると理解しているビアンカは、によによと歪みそうになる口元をセンスで隠しながら、一応のたしなめの言葉を送った。


「……ビアンカ様のドレス、とても素敵でいらっしゃいますわ?」

「――まぁ、ありがとう存じます」


 そう軽く頭を下げながら言外に「やればできるじゃない?」と視線や態度で示すビアンカ。

 それは正しくリアーヌに伝わったようで、その器用な技にリアーヌは吹き出すのを堪えるように唇を引き結んだ。


「――せっかくですのでご一緒致しませんか?」


 リアーヌたちの会話がひと段落したところでゼクスがパトリックに声をかけた。

 それに了承するようにパトリックがにこやかに頷き返したことをきっかけに、四人揃って廊下の先、会場であるダンスホールまで進んで行った。


(この入場、うっかり父さんたちと入ると「ボスハウト子爵、子爵夫人、ご令嬢、ご入室ー!」ってめちゃくちゃデカい声で宣言されちゃうんだよね……――立ち振る舞いなんてギリギリの及第点しか取れないんだから、こっち見ないでほしい……一応ゼクスが現役男爵だったりするけど、男爵は数が多すぎたり、平民上がりで立ち振る舞いに不安が残る人が多いから省略だし……――ゼクスが男爵で良かった!)

「やっぱりお城でのパーティーは規模が違いますねぇ……?」


 会場に入り、ビアンカたちと共にまだ人もまばらな会場内をぐるりと見回しながら呟くリアーヌ。

 

「そりゃこの国で一番偉い家が主催するわけだし? メンツの問題も出てきちゃうからねぇ」


 そんな言葉を返していたゼクスがチラリと入り口に視線を走らせたあと、パトリックたちに向かって合図しながらまた会場内を歩き始めた。


「……誰かにご挨拶ですか?」

「――フォルステル伯爵がご入室されたんだ」

「えっ⁉︎」


(全然聞こえなかった……そういえば中に入ってからほとんど入室合図の声聞こえてなかったけど……――こんなに気にならないのにみんなこっちを見てきてたってこと……⁉︎ 貴族の耳が良すぎる……)


「……お二人はフォルステル伯爵にご挨拶を?」


 伯爵から離れるように歩き出したゼクスたちだったが、その会話の流れからか、一緒に歩き出したパトリックが探るような視線でたずねる。


「えっ? 私は接近禁止ですけど……」

「誤解させてしまいましたか? 近付くのも禁じられているので移動させていただいたのですが……」


 リアーヌが驚いたように答え、パトリックの勘違いを理解したゼクスが申し訳なさそうに説明する。


「……そうでしたか、これはとんだ早とちりを……」

「誤解が解けてなによりです」


 少し気恥ずかしそうに鼻に触れたパトリックに、にこやかな笑顔を浮かべながら歩き続けるゼクス。

 ――伯爵夫妻の姿が見えなくなるぐらいのギリギリの場所まで離れるようだった。


「……あなたに非は無いでしょう?」


 ビアンカが眉を寄せながらリアーヌに話しかける。

 この対応が伯爵から逃げているように思えて不愉快さを覚えていた。


「……非とか関係ないよ? 今日のパーティーであの一家に近付いたら、これからの夏休暇中ずっとデザート無しにされるんだからね? 私、帰ったらヴァルムさんからの質問に答えなきゃいけないんだからっ⁉︎」


 ――ここは王城。

 王家のメンツにかけ、滅多なことなど起こらないはず(・・)の場所だったが、王妃に近しい者たちが多く入り込めてしまう懸念も大いにある場所だった。

 さらには王家が安全を保障するパーティーに、護衛を同伴させるような無礼ができるわけもなく――少しのトラブルにも巻き込まれないよう、些細な言質も取られないようにと、さまざまな事情からリアーヌとフォルステル家の人間たちとの接触が禁じられたのだった。


「……お菓子の一つや二つ、買えないわけじゃないでしょう?」

「そりゃそうだけど……――でもその辺のお店で買って帰ったのより、うちのデザートのほうが豪華でキラキラしてて美味しそうだし……――お店のはたまに見た目だけの微妙なの混じってるし……」


 その言葉にビアンカだけではなく、ゼクスやパトリックも苦笑いを浮かべ、無意識にその言葉を肯定した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ