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「……あの国は布や工芸品も人気高いよねー?」

「――でも食べ物はこの国じゃほとんど見ないんで、やっぱり珍しいものが……」

「……それは、そうなんだけど……」


 リアーヌの答えに言葉を詰まらせるゼクス。

 その主張になにも間違ったことは無かったからなのだが……――リアーヌの好みを理解しているゼクスとしては、安易に了承できるものでは無かった。


「どっちも買ってこいよ」


 会話を止めてしまったゼクスたちに声をかけたのはザームだった。


「――それだ!」


 弟の言葉にパチン! と手を叩いて、その意見に瞳を輝かせる。


「……じゃ、どっちもで」


 そんなリアーヌの様子にゼクスは肩をすくめながら了承の言葉を口にする。

 ここで譲歩した方が、向こうでのお土産選びに口を挟みやすいと考えたためだ。


「――よろしいのでしょうか?」


 ソフィーナは頬に手を当てながら首を傾げ、礼儀の一環として控えめに遠慮して見せる。

 ゼクスはそんなソフィーナに笑顔を向けながら頷きながら口を開いた。


「もちろんですとも。 ボスハウト家の大奥様や子爵家夫人に贈る分もございます。 なんの手間でもございませんよ」

「まぁ、ではお言葉に甘えさせていただきますわ」

「楽しみにしててくださいね!」


 それから授業のことや取り留めのない雑談などで会話を楽しんでいると、オリバーたちが戻ってきて、リアーヌたちに恭しく頭を下げた。


「ご歓談中失礼致します。 馬車の準備が整いましてございます」


 その言葉でお茶会もお開きとし、最後の挨拶を交わし合いながら席を立つ。

 そしてエスコートのためにザームはソフィーナに、ゼクスはリアーヌに腕を差し出した。


「乗り場までご一緒しても?」

「ぜひ」


 教えられた言葉で答え、教えられた動作を取りながら答えるリアーヌ。

 そんな二人が部屋を出る瞬間、ドアの所に立っていたオリバーが、少し小さめな声でゼクスに話しかけた。


「……お寄りになりませんか?」


 作法的には褒められた行為では無かったが、今回のリアーヌのトラブルを知っている者たちは、当然のようにその行為を黙殺した。


「――後日改めて寄らせていただきます。 誰が出どころなのかこちらでも探らせます」

「……あの年頃の少女が友人の話をホイホイ他人に話すとは考えにくいですがねぇ?」

 ベッティ・レーレンに揺さぶりをかけ、話を聞くことを滲ませたゼクスに、オリバーは少し眉をひそめながら答えた。


「――とっておき(・・・・)の方法(・・・)もあるんで……まぁ見ててくださいよ」


 ニヤリと笑いながら答えたゼクス。

 オリバーはボスハウト家の情報網によってもたらされた知識からゼクスのギフトの内容を知っていたため、少し目を細めて「ほどほどになさって下さい……」と声をかけた。


(……え? ゼクスのとっておきってギフトのことでしょ? ……つまりゼクスは「これからベッティを誘惑して話聞いてくる!」って話してる……? ぇ、クズ……)


 この二人の――ゼクスの想定と違っていたのは、リアーヌがゼクスのギフトの内容を、誰に教えられるまでもなく知っていたということだろう。


「――じゃあ、行きましょうかお嬢様?」


 オリバーとの会話を切り上げたゼクスはリアーヌに向かい、冗談めかしてウインクと共に笑いかけるが――


「……ぁ、はぃ」


 リアーヌは実によそよそしい態度で会釈を返す。


「――リアーヌ? どうかした?」

「や、別になにも……」

「…………もしかして、その――」


 今の話の流れから、ゼクスが最悪を想像しつつ探るように言葉をかけるが、そう話し始めた瞬間、ビクリと身体を震わせたリアーヌの反応でゼクスは自分のギフト内容を知られていることを察知した。


「……あのね、リアーヌ?」

「ぁ、大丈夫です。 気にしないんで……」

「うん、そこは気にして欲しいんだけど、そうじゃなくってね?」

「――なんか……頑張って下さい?」


 どこか警戒したような、冷たいリアーヌからの視線にゼクスは思い切り頬を引きつらせると、オリバーに向かって口を開いた。


「やっぱり寄らせてもらっても⁉︎」

「ーーおや、よろしいので?」


 ゼクスはすぐさまオリバーにボスハウト邸へ訪問することを伝え、オリバーもそのやり取りから、リアーヌがゼクスのギフトを知っていたことを理解して、ニヤニヤと顔を歪めながら、からかうように返した。


「――ぜひ」

「ではそのように……」


 オリバーからの許可をもぎ取ったゼクスはすぐさまリアーヌに向かって言い放つ。


「情報収集は他の人に任せようと思うんだ?」

「あー……なるほど……?」


(――つまり他の人に誘惑させるってこと……? え、仕事の一環でそんなことさせるの……? ――さすがに無くない?)


「――もうあの子に関わるのはやめようか⁉︎ うん。 俺もリアーヌもノータッチ! それが一番良いよね⁉︎」


 どれだけ言葉を重ねても一向にその瞳を冷たさを消さないリアーヌに、ゼクスは白旗を上げるようにそう言い切った。

 そしてボスハウト邸に辿り着くまでの道中を全て使い、さまざまな案を出してリアーヌの機嫌を取り始めた。

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