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 ◇


「――あれ? ゼクス様どうしました?」


 ザームたちに回復をかけ終わり、ザームの元にスクラップブックを持ってきたソフィーナを交えてささやかなお茶会を開いていたリアーヌだったが、オリバーたちと入れ違いに控え室にやってきたゼクスに、リアーヌは目を丸くした。


 ――ちなみにオリバーとエドガーがこの部屋を出て行ったのは、護衛訓練の一環で、通路のどの辺りに不審者が潜んでいて、どのような場所から襲ってくるのか、またその対処法は? ということのレクチャーだった。


 「ちょっと顔が見たくって……――リアーヌ今日誰かに絡まれたりした?」

「あー……」


 タイムリーなゼクスからの質問に、リアーヌは言葉を濁しながら「なんで知ってるんです?」と視線ですたずねる。

 しかしゼクスはその反応を見て、リアーヌが絡まれていた事実を知ると、大きなため息を吐き出しながらグシャリと髪を乱暴にかきあげる。


「あーもう……マジかよあの女……なにしてくれてんだ……」


 吐き捨てるように言い放ったゼクスを横目に、リアーヌは視界の端で困惑したように首を傾げているソフィーナに向かって、軽く会釈をするようにお詫びの気持ちを表す。


(突発的なお茶会とはいえ、突然の訪問だけでもちょっとな対応なのに、挨拶も無しでいきなりドデカいため息はアウト以外の何ものでもないのよ……)


 ソフィーナから、返事がわりの会釈を受け取りつつ、リアーヌはそっとゼクスを誘導して空いている席に案内しつつ、カチヤたちにお茶の準備を頼む。


(――待って? 今の感じ結構良かったんじゃない⁉︎ 私ってば今とってもお嬢様なんじゃない⁉︎)


 そう心の中で自画自賛しながら。




「……じゃああの方、私と別れてすぐゼクス様のところに行ったんですねぇ」


 困ったように頬に手を当てながら口を開くリアーヌ。

 ソフィーナとザームにも先ほどの話を簡単に説明してから一緒にゼクスの話を聞いた。


「来やがりましたとも……」


 深々とソファーに沈み込むように背中を預け、天井を見上げながらゼクスは少々投げやりな態度で答える。

 眉をひそめられても文句の言えない態度だったが、事情を聞かされたソフィーナは気の毒そうに眉を下げ、ザームは面白くなさそうにフンッと鼻を鳴らして不快感を表にする。


「それは……――止められなくて、なんかごめんなさい……」


 リアーヌとて本気で自分が悪いとは考えてはいなかったが、それでも目の前でげんなりとしているゼクスが気の毒で、そんな言葉をかけていた。


「……リアーヌのせいじゃないでしょ」

「それはそうなんですけど……もう少しうまい躱しかたがあったかも……? とか思ったりしました」

「――君がどんなに言葉をつくしたって、どうせあいつはこっちに来てたと思うよ?」


 ゼクスは面白くなさそうに顔をしかめ、肩をすくめる。


「……そんな印象は受けました」


 困ったように笑いながらリアーヌは曖昧に頷いた。

 心の中で(きっと私がなに言っても「適当なウソ付いてる!」ってなったんだろうな……)とボヤキながら。


「……ひどいこと言われた?」


 リアーヌの答えに感じるものがあったのか、ゼクスは眉をひそめながらたずねた。


「……特には?」


 リアーヌとしては気を使って答えたつもりだったのだが、その答えにゼクスは面白くなさそうに眉を寄せた。


「――俺頼りない?」

「ぇ……?」

「リアーヌがなにかのトラブルに巻き込まれたなら一番に相談して欲しい。 言いたくないならムリには聞かないけど……でも俺を一番に頼って欲しいんだ」


 その言葉にリアーヌは迷うようにキョドキョドと視線を揺らしたのち、そっと口を開いた。


「……別に私は気にしてないですよ?」

「……“なにか”は言われたんだ?」

「私が……権力を使って無理やり婚約した――的なことは……?」


 リアーヌの言葉にゼクスは盛大にため息を漏らしながら「やっぱり……」と小さく呟いていた。

 その言葉を拾ったリアーヌは首を傾げ視線で詳しい説明を促した。


「――俺にも言ってきたんだ……」


 げんなりと言いながら小さく肩をすくめるゼクス。

 自分の後にゼクスにも同じことを言ったということで、リアーヌは急に自分の対処法がお粗末だったからゼクスにまで迷惑をかけてしまったのかも……と、不安に襲われ気まずそうに口を開いた。


「その……捨て台詞のように言われて、ちゃんと否定できなくて……」

「否定の言葉なんて必要ない!」


 ゼクスはリアーヌの言葉を遮るように言った。

 この件に関して、少しでもリアーヌが気に病む必要など無いと考えていた。


「でも……」と不安げなリアーヌに言い聞かせるようにゼクスは言葉を重ねる。


「この婚約は俺から――ラッフィナート家から、是非にと望んだ婚約だ。 それは王家の記録にも残ってる。 たとえリアーヌが否定しなかったところで君にはなんの非もないし、うちだってなんの不利益も被らない……――もちろん、こんな簡単な情報さえ拾えないマヌケな家のことなんて君が気にしてやる必要なんかない、だろう?」

「……多分?」


 ゼクスの言葉に混じり込んだ毒に頬をひきつらせながらもリアーヌ同意するように頷いた。

 しかし、頭を掠めた小さな疑問に、ゆっくりと首を傾げた。


(……こんな簡単な情報? ――でもあの子は【情報収集】のギフトを持ってるのに……?)


 そんなことを考えていたリアーヌの耳に特大のため息が聞こえる。

 その主はゼクスで、さらにソファーに沈み込むように頭や背中を押しつけていた。

 そんなゼクス様子にリアーヌは(そのソファーそんなに柔らかかったんだ……)と場違いな感想を持ち、苦笑しながら口を開いた。

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