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「助けてくれたりとか……してもいいのよ?」
リアーヌからすると、少々他人事なビアンカの対応に、なにかをねだるようにチラチラと視線を送りながら言った。
「――私出来ないことは口にしない主義なの」
「……アドバイスとか……何卒」
綺麗な笑顔で拒否するビアンカにリアーヌは物理的に縋りつきながら言う。
「すぐにボロを出しそうで怖いわ……?」
「それが一番怖いの私ですけどね⁉︎」
その言葉に、ビアンカは肩をすくめながら目をグルリと回して呆れてみせた。
そして「……はぁ」と小さくため息をつくと、顔を引き締めリアーヌに向かって真剣な顔を向けながら口を開いた。
「私たちの口裏合わせは終わったわ。 一緒に話しながら帰った。 話が終わらなくてここで少しおしゃべりして帰った。 あなたのギフトのことは知らない。 見てない聞いてない。 でしょ?」
「うぃ」
「なら、あなたがこれからやるべきことは、さっさと家に帰ってご両親に早く相談して、ボスハウト家の動向を明確にするの。 ……問題がない範囲で私にも教えてもらえると助言はしやすくなるとは思ってる」
「ラジャ! 絶対に教える!」
ビアンカはリアーヌの言葉づかいに一瞬顔をしかめたが、なにを言うこともなく話を続けた。
「それを教えてもらえるなら、ラッフィナート殿がどのように考えているのか探りを入れてみるわ。 ……そこまで深く聞くつもりはないから、ごまかされないよう願っていてちょうだい」
「全力で祈り続ける!」
顔を輝かせ満面の笑みで答えるリアーヌに、ビアンカは小さく吹き出してクスクスと笑いながら話を続けた。
「それと――これはあくまでも私の意見で、あなたは絶対にボスハウト家の決定に従った方がいいと思うけれど……――ギフトがコピー出来る条件……状況? なぜお茶会では出来なくて廊下では出来てしまったのか、それをきちんと調べておいたほうがいいと思っているわ」
「え……――でもそんなの調べてたんだって、後から誰かに知られたら……」
「……そうね。 その危険はある。 けれど方法が分からなければ自衛することも出来ないでしょう? ――例えばコピーの条件が、目の前でギフトの能力を披露してもらうこ――なんて場合、あなたの前では絶対に披露しない、という自衛手段が取れる。 万が一にもあなたの能力が周りにバレてしまった時でも、自衛の手段があるか無いかで周りの反応も変わってくるはずよ」
「あー……確かに。 そう言われると、ちゃんと分かってた方が良さそう……」
「幸い、ご家族がギフト持ちなんだから、色々試してみればいいと思うわ」
この意見にリアーヌは目を丸くしてビアンカの顔を見つめ返した。
「なるほど⁉︎」
「ご家族ならば、家やあなたの不利益になることはなさらないでしょうし……」
「だよね! 私、コピーする方法ちゃんと調べてみる!」
むんっ! と握り拳を作りながら言ったリアーヌに少し呆れたように小さくため息を漏らすビアンカ。
その決意が空回りしそうなリアーヌに向かって言い聞かせるようにゆっくりと言葉を紡いでいく。
「……覚えているわよね? あくまでも最初は相談よ?」
「――あ……そうだった」
そう、ペロリと小さく舌を出したリアーヌに、ビアンカは今度こそはっきりとため息をつくのだった――
「私もギフトについて書かれている本なんかで、なにか情報が書いてないかどうか調べてみるわ」
そう言いながら(ラッフィナート家がなにかを知っているというなら、絶対にその元となった文献、もしくはそれに準ずるものがあるはずなのよ……)と、予測を立てていた。
「助かるぅぅぅ! お願いしますっ‼︎」
ビアンカがそこまでしてくれるとは考えていなかったリアーヌは(なんだかんだ言って友達思いなんだからっ!)と喜び、ビアンカに飛びつくように抱きついた。
「ちょっと⁉︎」
そこまで広くもない部屋の中、ビアンカの驚愕と非難に満ちた悲鳴と「照れることないじゃーん」という能天気なリアーヌの声で満たされていたのだった――




