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「……――そうだったかな?」

「おや、記憶すら曖昧か?」


 レオンの指摘にとぼけて見せたフィリップだったが、レオンはその言葉にさらにその視線をジトリと湿っぽくする。


「……何故だかは不明だが、どうもユリア嬢はレジアンナを恐れている様子でね? ……どうもご友人たちになにやら囁かれたことが理由なようだが……あまりハッキリはしていないんだ」

「……させなかった、の間違いじゃないのか?」


 レオンの指摘は正しかったが、フィリップは笑顔を浮かべるだけで答えるつもりは無いようだった。


「――レジアンナ嬢はずいぶんと素直(・・)な方だと評判だが……?」


 レオンはさらに質問を重ね、言外にレジアンナを使ってユリアを遠ざけたな? と、フィリップを(なじ)っていた。

 しかしこの言葉に対するフィリップの反応はレオンの想像していたものとは違っていた。


「――確かに私のレジアンナはとても素直な素晴らしい女性だが、同時に完璧なレディでもあるんだよ? 毒も悪意もあの愛らしい笑顔で覆い隠す程度、造作もないことさ」


 そう、少しの怒りを滲ませてレオンをたしなめた。


「――そう、なのか?」


 予想とは違った反応に、レオンは大きく戸惑う。

 そんなレオンにフィリップは困ったように笑いながら肩をすくめた。


「さっきも言っただろう? ご友人たちになにやら(・・・・)囁かれていた(・・・・・・)――とね?」

「……その者たちが?」

「専門学科のご友人たちからすれば、侯爵家ご令嬢で――少々感情を表に出しやすいレジアンナは、恐ろしいから関わらないほうがいい相手、となるんじゃないかな?」

「……彼女がウワサを信じた……?」


 フィリップの話に違和感を感じるのかレオンはまた困惑したように首を傾げる。


「この場合、ウワサというよりも“友人たちからの助言”を信じたんだろうね? ――彼女とレジアンナの相性が良くないことくらい、ほとんどの人間が分かることだろう? そしてお互いの周りもなんのフォローもしなかった――その結果が今だ」

「……クラリーチェとて、公爵家の令嬢なんだが?」


 フィリップの話にレオンはボヤくように呟いた。


(確かにクラリーチェは心優しい人だが……だからといってあそこまで軽んじられていい人では無いというのに……!)


 レオンはいつもユリアからのぞんざいな扱いを受けながらも、自分のためにジッと耐え続けてくれている少女を思い、キツくその手を握り締める。

 フィリップはそんなレオンに気がつき、ゆっくりと息を吐き出しながら語りかけた。


「……ユリア嬢に貴族の常識は通用しない――しかし彼女は貴族の娘だ。 正真正銘のね? ならば我々には敬意を払う必要性が出てきてしまう――にも関わらず、あちらは我々に敬意を払わない……」

「そうだな……――敬語すら使えないご令嬢がこの世に存在したとはな?」


 レオンはその鬱憤を込め、吐き捨てるように言い放った。


「知識不足で満足に使えなかったご令嬢は知ってるが……――それでも彼女には敬意があった」

「……そうなのか?」


 フィリップは一人のご令嬢を思い浮かべながら冗談めかして答え、レオンもそのご令嬢に心当たりがあったのかニヤリと笑って応えた。


「だからこそ――レジアンナのストレスは相当だ。 ……彼女は知っているんだ。 教育不足なりに必死に努力してきたご令嬢を、美しい言い回しではなくとも、彼女なりの言葉で自分たちを不快にしまいと心を砕いた存在を……」

「……それはきっとクラリーチェもだろうな……――だった一つのギフトごときで情けないことだ……」

「――我々としての最善はリアーヌ嬢にコピーしていただき、彼女とあちらの縁を結んだ上で、親子夫婦仲良く退場していただくことだが――何事も理想どりには運ばないものだからねぇ……――少なくともボスハウト子爵がユリア嬢を敵とみなしてくれるのならば、子爵にならう家は少なくはない」

「――ボスハウト子爵はそこまで発言権を取り戻したのか?」

「いや、例のギフトだ。 ラッフィナートのヤツが再三リアーヌ嬢に助言を求めるように、すでに子爵に助言を求めている方々は多い」

「なるほど……その子爵がユリアを敵と定めれば……そして、その時あいつらとの縁が結ばれていれば……」

「――理想、だがな? けれどすでにボスハウト家はフォルステル家を許さないだろう。 万が一、子爵が許すようなことがあっても使用人たちが――ヴァルム殿もオリバー殿も許しはしない」

「敵の敵は味方、か?」

「この場合はそうなる見込みは高いだろう?」

「――……我々もボスハウト家に睨まれているんだぞ?」

「ボスハウト家からの助けは難しいだろうが……――子爵の決定にならう方々ならばどうだ?」

「それは……――働きかけるだけの価値はある、か?」

「損はない、だろう?」

「……子爵がそれを許さなければ?」

「諦めるしかないが……――その対処はあちらがアクションを起こしてからでも遅くないと考えている。 ……それに――この案はあまり使いたくはないが……レジアンナたちに頼み込み、リアーヌ嬢を通して子爵に働きかける、という手も……あるにはある」


 フィリップはバツが悪そうに頭を抱えるように髪をかき上げた。

 その顔はどこか納得がいかないように歪んでいて――


「巻き込みたくはないが……ままならないものだな……?」


 レオンも大きく息を吐き出しながら微妙な顔つきで肩をすくめた。

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