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「先日の暴言というと――」

「リアーヌが具合を悪くして授業を休んでしまった日のことよね?」


 ビアンカの話にフィリップが少し首を傾げ、そんな婚約者にレジアンナが詳しい説明を口にした。


「あー多分その時の話」


 リアーヌは少し遠い目になりながら、レジアンナの言葉に曖昧に頷いた。

 そしてそっと後ろを振り返ると、壁際に佇むオリバーの顔色を伺う。


(……首を振られないってことは多分喋ってもいいよってこと……――ってか、まだ怒ってんなぁ……あの手紙届いた時のヴァルムさんたちも相当怒ってたけど……)


「えっと……一応、謝罪はされた……のかな?」

「……そんなに微妙な対応でしたの?」


 言いづらそうに話し始めたリアーヌに、話を振ったビアンカも驚きながらたずね返す。

 その言葉に隣のゼクスの口からも不機嫌そうなため息が漏れ出る。


(……そうだね? ゼクスんトコもおんなじ内容だったって聞いてるよ……――うちはともかくラッフィナート商会を敵に回すとか……あの家の度胸はスゲェよ……)



「言葉づかいがなっておりませんで、って内容の謝罪が書かれた手紙が……郵送で届いたよ……?」

「……郵送で?」


 リアーヌの言葉にビアンカが不可解そうにたずね返し、そのほかの者たちも困惑した表情を浮かべながらリアーヌを見つめていた。


「――ちなみに届いた手紙には家紋すら押されてされて無かったもんね? ……うちなんか伯爵の署名なんか知らないから、偽物かと思って確認の手紙出しちゃったよー……――まぁ、本物だったわけだけど?」


 冷ややかなゼクスの言葉にビアンカやレジアンナは視線だけでリアーヌに事実なのかと問う。


「――……うちは署名の確認が取れる書類があったから……うちの手紙にも家紋は無かったけど」


 その答えにサロン内のそこかしこから呆れたような吐息がいくつも漏れ聞こえる。


(内容の段階で「言葉づかいの話とかじゃなくない……?」ってなってるのに、正式書類にはほぼ確実に入れるべき家紋は入ってないわ、確実に届けたよって証人代わりの使者もつけないわ……――謝る気ゼロどころか、もはや挑発行為だよ。 普段は全然細かくないことまで気にしないうちの父さんが、ザームに向かって「……ここまで舐められたら、ぜってぇ黙ってんじゃねぇぞ?」とか忠告してたんだから相当なんだって……)


「それはつまり……?」


 ビアンカがなにかを探るようにゼクスに向かって言葉少なにたずねる、ゼクスはそれに吐き捨てるように少々乱暴な口調で答える。


「……どうやらフォレステル家はボスハウト家及びラフィナート家……商会もですけど……争われる覚悟をお決めになったんでしょうねぇ?」


 そのゼクスの発言はその言葉とは裏腹に、ラッフィナート家がフォルステル家と敵対する、ということを明言するものだった。


「――そう、なんでしょうね?」


 あまりの情報に頬をひきつらせるビアンカを横目にフィリップは険しい顔で何事かを思案しながら口を開く。


「……秘密裏に王家辺りとなにかしらの話し合いでも持ちましたかね?」

「――可能性が高いのは王妃ですかね」


 ゼクスからの情報にフィリップやレオンの瞳がギラリと光った。


「そう思う根拠をお聞きしたいね?」

「最近、王家御用達の店が――王妃が贔屓にしている店が一気に増えたのですが……――そのほとんどがフォルステル領の店なんですよ。 例外もありましたが……それも伯爵夫人の実家の領からですからね……――なにかしらの繋がりが出来たと思うのが自然では?」


 ゼクスの答えにフィリップたちは視線を揺らしながら顔を見合わせ合う。


「……御用達店」

「盲点だったな……」

「――そちらとの繋がりがあるのであれば、そんな対応をとるのも……納得――と言いますか……おそらく先方のご意向、ですかしら……?」


 ビアンカの言葉にゼクスは頷きながら口を開いた。


「かの方が王家との……お兄様との縁に恵まれるのであれば、そちらとしてもフォルステル家としてもリアーヌは邪魔な存在にしかなりません。 ……――さらに言うなら、守護のギフト持ちを手に入れて仕舞えば――王太子任命は間違い無いかと……――決着付けにきたんじゃないんですか?」


 ゼクスの言葉に、各々が難しい顔をしながら自分や婚約者のこれからに考えを巡らせる。


「……あの方が王家の中枢に食い込む……?」


 レジアンナが顔を歪めながら忌々しそうに呟けば、その肩を抱くように腕を背中に回したフィリップが優しくその背中を撫で、苦笑混じりに言った。


「中枢に食い込んだところで、その発言力は皆無に近い。 それに……伯爵家など吹けば飛ぶような地位の家――後ろ盾にすらならないよ」


 フィリップの言葉は各方面に敵を作るかのような発言だったが、ここに集まる多くの者たちにとって、たんなる伯爵家の一つ程度の家柄は、吹けば飛ばせる程度の家に過ぎなかった――


「……そう考えると――あの方のせいで王家の名にも傷が付きそうですわね……?」

「――その場合は……“王家”ではなく“王妃”となってくれれば好都合なんだけどね?」


 レジアンナの言葉に肩をすくめて答えるフィリップ。

 ゼクスやボスハウト家がハッキリとフォルステル家やユリアとの敵対を表明したことで、自分たちも敵意も隠すことをやめたようだった。


「……先のことは先のこととして……――彼女がパーティー来るなら、リアーヌ今回は最後まで俺の隣にいてね?」

「……え?」


 ゼクスの言葉に驚愕に目を見開き、バッとゼクスを見つめ返すリアーヌ。


(――あの素敵空間に逃げ込めない……だと……?)

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