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誤字修正させていただきました!
いつも本当にありがとうございます☺️
「……しかし結局は男爵がラッフィナート商会をお継ぎになるのですから、赤字はすぐに補填できてしまうのでは……?」
リアーヌの考えやゼクスの性格をまだあまり知らないアロイスは、リアーヌの発言の意味がいまいち理解できず首を傾げる。
「それはそうなんですけど……――今は別々の家で、男爵家はゼクス様が代表者で……――ものすごく極端なことを言うとラッフィナート商会はよその家ってことになりますよね? もちろんゆくゆくはゼクス様が継ぎますし、工事の援助も受けてはいるんですけど……――でもゼクス様の中ではもうよその家ってことになるので、儲け話を横から掻っ攫われると、商人のプライドが刺激されるみたいです」
「……それは――難しい問題ですね……?」
商人のプライドのなんたるかを理解できていないアロイスは、困ったように頷きながらも答えを濁すのだった。
「ねーちゃん、おかわりー」
「もう⁉︎ ……てか、あんなでっかいの食べたのにまだ食べんの? 今日はもうやめといたら……?」
リアーヌはケロリとしているザームと、その前に置かれた空っぽの器を見比べながら顔をしかめた。
「……んじゃソフィーナに一つ」
「それ結局、あんたの腹に収納されるやつじゃん……」
リアーヌに呆れた顔で言われ、面白くなさそうに顔をしかめたザームはソフィーナに向かって口を開く。
「ソフィーナだって食いたいよな?」
「えっ⁉︎ ええと……はい……?」
「――だってさ」
そんなソフィーナの返事に、勝ち誇ったような顔でリアーヌにニヤリと笑顔を向けるザーム。
「――別にいいけど、お腹壊さないようにね」
肩をすくめながらそう言ったリアーヌは、慣れた手つきで器に手をかざすと、ほんの数秒で真っ白なかき氷の山を作り出し、そして慣れた手つきでレモンのシロップに手を伸ばす――
そこでザームが慌てて言葉を付け加えた。
「それはイチゴ! ……あと練乳もつけて……」
気まずそうにモゴモゴと注文を追加するザームに、リアーヌはによによとだらしなく歪みそうになる口元を叱咤しつつ、いつも通りを心がけながらイチゴのシロップに手を伸ばした。
リアーヌは知っていた。
ザームはイチゴのシロップをそこまで好んでおらず、練乳もほとんどかけようとしないことを。
リアーヌは理解していた。
今作っているかき氷が正真正銘、ソフィーナのためのものであることを。
(――落ち着いてリアーヌ! ダメ。 絶対ダメ! ここでザームをからかうような発言な行動を取ってはいけない……! これは単なる弟カップルの甘酸っぱい恋の一ページとかじゃないっ! あの2人は家と家を繋ぐために、なにがなんでもうまくまとめないといけない婚約者同士! せっかく良好な関係なんだから、ギクシャクさせるダメ絶対!)
自分に言い聞かせるように心の中で唱えてから、さりげなく出来上がったばかりのかき氷に二つのスプーンを添えて二人の間に差し出す。
ザームたちはそれを二人で仲良く食べ始め――やはりその大半がザームの腹に収納されたようだったが、それでも仲睦まじく食べさせ合う様子に、リアーヌどころかビアンカやアロイスまで、笑顔を浮かべていた――
そんな和やかな空気のままお茶会が終了するかと思われたが、会の終了を感じ取ったアロイスが、そっと声をひそめリアーヌに話しかけたことで、和やかなひと時は終わりを迎えた。
「かのお方があなたを探っておりますよ。 ――お気をつけを」
「それは……ギフト関連、ということでしょうか……?」
その警告に身に覚えがありすぎたリアーヌは顔をこわばらせながらも、詳しい説明を求める。
「それが……――ボスハウト家に入られる前の話や、花園のこと、リアーヌ様たちが発端となった流行のこのなどを中心に質問されまして……」
「――質問されまして……?」
「はい……なぜか、かの方は私とリアーヌ様との間に面識があるかのように質問をしてきまして……もちろん否定はしたのですが……おそらく信じてはいないかと……」
「――ザームの友人だから、でしょうか……?」
「――可能性はあるやも……私にも婚約者がおりますし、これが火種となり妙なウワサをたてられるわけにもいきませんでしたので、何度も「リアーヌ様と個人的な面識はございません」と伝えたつもりではいるのですが……」
「あら……では今回のこと、大丈夫だったんでしょうか……?」
アロイスの言葉に不安そうに眉を下げたのはビアンカだった。
「それはお気になさらず。 この茶会のことはライネッケ家にも話を通してありますし、アマーリエ嬢にも了承をもらっています――それに今回は、他の方には内密に……という私のわがまままで叶えていただいたんです。 ビアンカ嬢が気に病む話ではありませんよ」
「そう、ですか? ご迷惑でなければいいのですけれど……」
「迷惑だなんて……――ビアンカ嬢にはそんな感情、向けたことなどございませんよ」
(……じゃあ誰にだったら、その感情を向けたことがあるんですかね……?)
そう考えたリアーヌは気まずそうに視線を動かし、同じ考えに至ったであろうソフィーナと目が合うと曖昧な微笑みを交わし合い、その疑問をごまかした。
「……あいもかわらず、台風のようなお方ですこと……」
ビアンカの発言にアロイスはクスリと笑いながら言葉を続けた。
「近づかれた者の被害は甚大……ですが、ご本人は中心にいらっしゃるからなんの被害も被らない……――なんとも的を射ておりますね?」
(ネジだったり台風だったり……忙しいな主人公。 そろそろ目を回して大人しくしててくれてもいいのよ……)




