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「へい、かき氷二丁お待ちぃ!」
そう言いながらリアーヌはビアンカたちの座るテーブルに真っ白なかき氷とボスハウト家自慢のシェフが作った数種類のフルーツシロップを並べていく。
「シロップはお好みでかけちゃってー」
「……扉の外に聞こえていたら、あなたの夏休みが減りそうなほどには言葉が乱れていますけれど?」
「っ⁉︎ そ、そんなことございませんですわ? 今のは全て弟が言ったことですのよ⁉︎」
そんな少々苦しいリアーヌの言い分に、呆れ顔で首を横に振ったビアンカは、そのまま何も言わずに自分の好みに合ったシロップをかけていく。
「――これは……これもリアーヌ様のギフトで?」
「はい。 氷魔法も持っておりますので」
リアーヌはアロイスからの質問に、気合を入れてチラチラとドアの向こうにアピールするように答えた。
「素晴らしい……」
そう言いながら器を手に取り、じっくりと中の氷を観察し始めるアロイス。
(私の知ってるかき氷の楽しみかたと違うんだけど……? ――まぁこの子、ギフトマニアだからなぁ……――そしてそれがきっかけで主人公との恋に落ちる……――学院始まって以来の秀才と謳われる、弟属性イケメンのアロイス・コルターマン……どうして君のような学者肌の人間がザームの友達なんてしているんだ……――いや、説明は受けてるよ? 入学前にいった狩りの交流会なんでしょ? ……意気投合する要素はあんまりないと思うけど……――それでもビアンカから今回の勉強会の打診がきた時に「あなたが主催してくれたなら、弟の友人と自分の友人を招くという名目で、ごくごく自然に集まれるの」って言われたんだから、ちゃんと友達やってるんだとは思うけど…… それにしても、そっちもこっちも友人同士って……世間って狭いよね?)
――アロイスとザームの交流のきっかけは狩りを楽しむ交流会の最中だった。
学者肌なアロイスは狩りを苦手としていたが、しかし重要な社交である交流会に参加しないという選択は取れなかった。
しかしヘタなことは周知の事実で、アロイスの内心は不快感でいっぱいだったのだが……――偶然狩場で顔を合わせたザームから「お前ヘッタクソだなぁ?」という暴言を投げつけられ、頼んでもいないのに狩りの手ほどきを受けたのが交流のきっかけだった。
反発や言い争いを経て友人を作って帰ったザームに家族は大喜びし、アストやオリバーは頭を抱えていたのだが、最終的には気の置けない友人を得られたのは大きいと、どうにか自分たちを納得させていた。
リアーヌは感慨深げに、ザームの初めてのおともだちを見つめ――いまだに真っ白なかき氷を眺めながらブツブツ呟いているアロイスの姿に、少しだけ頬を引きつらせた。
(――溶けたらまた作ればいいんだよ。 それに、ちょっとくらいおかしいところがあったほうがザームの友達っぽい!)
そう自分を納得させながら、そっと視線を逸らすと、かき氷を口に運びながら愉快そうにアロイスを観察していたビアンカと目が合い、二人は盛大な苦笑いを浮かべあった。
今回の会が開催された主な理由は、ビアンカとアロイスが議論を交わす場所の確保が難しいことが原因だった。
二人ともすでに将来を見越して研究学科へ出入りしていて、そこで何度か顔を合わせているうちに意気投合したのだが、運の悪いことに二人は婚約者を持つ異性同士――
お互いに恋愛感情など持ってはいなかったのだが、それでも周りから見れば未婚の男女、しかもほかに婚約者がいるとあっては、ただ話し合っている所でも頻繁に目撃されるのは外聞が悪く、自分の婚約者に対しても礼を欠く行為だった。
研究学科の生徒になってしまえば、個人の研究室を与えられ、教授たちの講義の合間に、好きな研究や討論を好きなだけ行えるのだが――ビアンカもアロイスも今、意見を聞きたいことや語り合いたいことが山ほどあるようだった。
(……いくら好きなことだからって、授業終わりに勉強会開いてまでお勉強とか……――二人からしたら趣味の時間かもしれないけど……あの分厚そうな学術書にノートにペン走らせつつの討論会ですよ……? 控えめに言ったって罰ゲームなんですよ……――個人の趣味趣向に文句なんかつけないけどー)
二人の席から離れたリアーヌは、かき氷をザームの口に運びながら満足そうにしているソフィーナを視界に入れ、再度(個人の趣味趣向に文句なんかつけないし……)と呟いて、自分の分のかき氷を作り始めた。
「リアーヌ様はどの程度のギフトをコピー出来るのか把握してらっしゃるんでしょうか?」
少し時間も経ち打ち解けてきたのか、大きなテーブルに移動して、全員が同じテーブルでお茶を楽しみながら語り合う。
そのテーブルには、なんとか話を盛り上げようとしたビアンカやソフィーナ、そして微力ながらもリアーヌの努力や、ザームにも分かりやすく噛み砕いて説明するアロイスの気づかいもあった。
「把握は……まだ出来そうだな、とは思っていますけど……」
今回のお茶会開催にあたり、リアーヌはアロイスとギフトコピーの話をすることの許可を両親とゼクスからもらっていた。
――と言っても、リアーヌからギフトコピーの説明をしたわけではなく、ギフトマニアであるアロイスは、研究学科でビアンカと顔を合わせた頃にはすでに、コピーのギフトが、ギフト自体のコピーも出来るギフトだとという知識を持っていた。
その話をビアンカから聞いていたゼクスは、ヘタに隠し立てするよりは……と、子爵家と話し合い、リアーヌに許可を出したのだ。
「素晴らしい……!」
「確か……【複写】というギフトならば、54が最高でしたかしら?」
「すげ……」
ビアンカのあいずちに、ザームが驚きの声を漏らす。
「ですがリアーヌ様はコピーですから……――これはやはり、呼び名が違うギフトであっても、効果は同一のものが存在する――という証明に他ならないのでは……?」
アロイスは真剣な顔つきでビアンカに語りかける。




