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「その……言葉がだね?」


 内心の動揺を隠しながら、なおもビアンカに話しかけるパトリックだったが、ニコリと意味ありげに微笑まれその口をゆっくりと閉ざした。


「あらパトリック様、(わたくし)は今“女性が徒党を組むと恐ろしい”と言いましたのよ? 聞こえませんでしたか?」

「聞こえていたとも。 だからこそ――」

「――私が男性に見えまして?」


 ピシャリと言われ、言葉を詰まらせるパトリック。

 ようやくビアンカも自分に対してかなりの憤りを感じているというのだということを理解した。


「……恐ろしいという見本ですわよねぇ?」


 誰にいうでもなく再び呟いたビアンカの言葉に、パトリックがため息混じりに「そのようだね……」と返し、ビアンカはその唇に綺麗な弧を作って見せたのだった。


 リアーヌはそんな頼もしい友人たちと、それによってきっちりとダメージを負っている犯人たちの様子にほくそ笑みながら(……なんかビアンカもちゃんと味方のまんまだし、レジアンナやクラリーチェも私の暗殺は阻止してくれそうだし……こいつらが私に関わってこないっていうなら――まぁ、無かったことにしてやったっていいの……かも?)などと考えていた。




 リアーヌの問題が片付いた後のサロンでは、いつも通りごくごく普通のお茶会が繰り広げられていた。

 そして話題はリアーヌが欲しがった【スパ】というギフトの話になった頃、本能で金儲けの匂いを嗅ぎ取ったのか、ゼクスがだいぶ前のめりでリアーヌにたずねていた。


「それでスパってどんなギフトなの? リアーヌはどんな風に使うつもりなのかな⁇」

「どんな風って……お風呂にするんですよ?」


(温泉だもん。 それ以外に使い道無い――こともないけど、王道は温泉でしょ!)


 リアーヌの答えに思わずキュッと眉をひそめるゼクス、そしてフィリップたち。

 ――リアーヌの態度を受けて、フィリップたちも実際にスパを目の前で出してもらい、その匂いのキツさを知っていた。


「……結構な香りがしたけど?」


 戸惑うように声をかけるゼクス。

 そのほほが引きつるのは堪えきれないようだ。


「でも入ったら、お肌とぅるっとぅるっですよ?」


 その言葉にゼクスが反応するよりも早く、反応を見せたのはレジアンナやクラリーチェ、そしてビアンカの女性陣だった。

 ――それほどまでにボスハウト家の美容法は女性たちの社交界で注目の的だった。


「お肌……」

「スパ……」


 ギラリと目を輝かせて自分を見てくるレジアンナとクラリーチェに思わず身を引くリアーヌだったが、誰かが助け舟を出す前にビアンカが短く言い放つ。


「――詳しく話して」

「イエス、マム」


 条件反射のように返事をかえすリアーヌ。

 ――その後、フィリップの計らいにより、リアーヌはサロン内で覚えたばかりのスパを披露することになったのだった。


(……みんなの目つきが違うんだもの……――クラリーチェ様もあんな目つきとかするんだ……)


 流石にサロンの中に浴槽の準備は出来なかったが、リアーヌの言葉に従い、素早く銀製の洗面器やはちみつに塩、そしてたくさんのタオルを準備されたのを見て、リアーヌは少し引きながらもスパの説明を始めた。

 ――その説明のために、リアーヌが袖のボタンを外し、腕まくりをしようとしたところで、カチヤたちから苦情が出たが、それはすぐにオリバーによって宥められ、リアーヌへの許可が下りた。


 「婚約者様の許可もあるようですし……――ボスハウト家はパラディール家の時期当主様が、うちのお嬢様に対しそのような好色の目(・・・・)を向けるなんてことがないと信用して(・・・・)おりますとも……」


 という、少々の(・・・)嫌味と共に。


(……よく分かんないけど、オリバーさんがいいって言ったんだから、なにがあってもオリバーさんの責任ってことで……)


 そんなことを考えながら、リアーヌは腕まくりをし、塩と蜂蜜で特製のスクラブを作っていく。


「あ、これ付けてあんまり力入れて擦っちゃダメだよ? こう……肌の上で塩の粒を転がすぐらい? 難しかったらはちみつ多めでやってみて?」

「……力を入れると痛いから?」


 そんなレジアンナの質問に肩をすくめながらリアーヌは答える。


「それもあるけど、肌に傷が付いちゃうから。 綺麗になりたいのに肌を傷だらけにするとか、意味わかんないでしょ?」

「確かに……優しく擦るのね」


 納得したように呟いたレジアンナに頷き返しながら、リアーヌは洗面器にスパを使いお湯を張る。


「順番としては、まずは入浴……今日は腕だけ……で、違いが分かるように片手だけね」

「……結構な匂いね……?」


 初めてスパの匂いを嗅いだビアンカは、うめくようにそう言いながら鼻に手を添え眉をひそめる。

 サロンの中にいた者たちも、少し距離を取りながらその匂いに忌避感を示している。


「たくさんの成分が入ってるからね。 だからお肌とぅるとぅるになるわけ」

「たくさんの成分……――良薬口に苦し、かしら?」

「飲まないどそんなとこー」


 ビアンカとの話に相槌を打ちながら、リアーヌは洗面器につけていた手を出し、軽くタオルで水気を拭うとスクラブを手で掬い取った。


「お風呂でやるときは濡れたまんまで大丈夫。 肌がお湯で柔くなってるから傷つけないように優しくねー。 気になるところは何度もマッサージするといい感じになるよ」


 そんな説明を聞きながら、興味深そうにリアーヌの周りに集まり始めるのは、やはり女性陣と、そして金の匂いを嗅ぎ取っているゼクスだった。

最近感想をたくさんもらえて嬉しい☺️

ただワタクシ、返信を考えるのにものすごい時間がかかってしまう性格なので、返信とかは控えさせていただきます。


でも自分の作品に反応してもらえて、わざわざ文字まで残してくれる人は神様だと思ってます!

これからもたくさん反応してもらえると嬉しいです☺️

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