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 そして、スッと表情を改めるとフィリップに向かいおざなりに言い放つ。


「ではスパも追加ということで」


 リアーヌを害し、ボスハウト家を怒らせたという自覚のあるフィリップだったが、ここまであからさまな態度を取られるとは思ってもおらず、頬をひきつらせた。


「あ、ダメなら私お金払います! ……分割払いってできますか?」

「――この状況下でリアーヌ嬢にお金など払わせられないかな? ……けれど本当に構わないのかい? その……――本人を前に言うのも失礼だとは思うが……他に希望があるなら、もっと別のものでも可能だよ?」


 フィリップは言いにくそうに視線を逸らし、メイドも気まずそうに視線を彷徨わせる。

 それほどまでに【スパ】というギフトは不遇の扱いを受けていたのだ。

 ――これまでは。


「……それは――このメイドさんを下さいって言ったら、明日からボスハウト家で雇えるって話ですか?」

「それは……」


 フィリップにはメイドの一人程度、勝手に解雇できる程度の権限はあったが、そのメイドがすぐさまボスハウトに雇われるのであれば話は変わってくる。

 メイドとはいえ、どの家の使用人たちも自分が仕えている家の情報に詳しく、そしてウワサ話程度であったとしても、情報の流出は避けるべきだった。


「――たとえパラディール家のメイドであろうとも、メイドを勝手に増やすのは……」

「ヴァルム様に叱られてしまいますわ……?」


 おずおずと申し出たカチヤたちの言葉にリアーヌはサッと顔色を悪くするとすぐさま「今の聞かなかったことにして下さい!」と言い放っていた。


「――うちとしてもメイドを引き抜かれたくはないが……――リアーヌ嬢、交渉時にあまり声を大にして「欲しい!」とは言わないほうが良いんじゃないのかな……?」


 フィリップは困ったように笑いながら、肩をすくめてリアーヌに注意を促す。

 この状況下でリアーヌの願いを蔑ろになどするつもりなど全く無かったが、リアーヌがこうも簡単に、あっさりと願いを口にしてしまう素直な態度を少々、軽率だと感じていた。


「……そりゃ私だって市場やお店の前では静かにしてますけど?」

「……そう、なのかい?」

「――だってここで出し渋られたとしても……それはフィリップ様が、ただのドケチだった。 ってことの証明にしかならないですよね……?」


 不思議そうに首を傾げながらたずねるリアーヌ。

 ――母リエンヌからの教育は着実にリアーヌの中に息づいているようだった。 


「――その通りだね……?」


 リアーヌの言葉を受け、カチヤたちやゼクスから挑戦的な視線を向けられ、レオンやパトリックからは同情的な視線を向けられたフィリップは、ゆっくりと息を吐き出しながら、ため息をつくのをなんとか堪えながら、無理やり口を開く。


「――さすがはラッフィナート家の婚約者様だね……?」

「自慢の婚約者ですとも……――リアーヌもう少しゴネたらもう少し巻き上げられるかもよ?」


 少しくたびれた様子のフィリップに、ゼクスは内心でほくそ笑みながらも、リアーヌに向け内緒話をするように更なる追撃を企てる。


「もう少し……?」


(――というか……私多分、この人たちに対する最大の切り札持ってたな……?)


 リアーヌは閉じ込められていた時のことを思い出し、顔をしかめながらゼクスに向かって言い放つ。


「――私、この人たちに触られそうになりました。 もちろんこのメイドさんはいなくって部屋には鍵もかかってて……」

「――なにしてんだアンタら……?」


 リアーヌの言葉に、ゼクスがギロリとフィリップたちを睨みつけながら凄むように言う。

 そのすぐ側では、カチヤたちが美しくも壮絶に恐ろしい笑顔をフィリップたちに向けていた。

 それに慌てたフィリップは、言い訳をするように口を開く。


「それはリアーヌ嬢がパニックを起こしてしまったからで……いや、もちろん我々に咎がないとは言わないが……」


 オロオロとしているフィリップの態度に、少しだけあの時の恐怖が和らいだ気がしたリアーヌは、ハッとしたようにエーゴンに視線を向け、言い付けるようにゼクスに向かって口を開いた。


「あとあの人! 私の口押さえて声を出させなくしたんですよっ!」

「はぁ⁉︎」


 その言葉にギョッと目を剥き、リアーヌを見つめるゼクス。

 カチヤたちも少し青ざめた顔色で視線を交わし合っている。


「それにアイツ、ウソつきなんですっ! ウソ見抜けるとか言ったのにウソで、ウソなんてついてないのに「ウソです」ってウソついてっ!」

「――……ごめんリアーヌ、俺にはなにがなんだか……」


 ヒートアップするリアーヌの言葉を理解しきれず、困ったように視線を揺らすゼクス。

 しかし、そんな――ある意味では元気なリアーヌの様子に(さっきの発言にはなんの裏もなく、ただただ口を塞がれただけなんだ……)と理解し、ホッと静かに息を漏らしていた。


 ――そんな風に勘ぐられてしまうほどには、先ほどのリアーヌの発言はギリギリだった。

 しかし自分が思っていた反応が返ってこなかったリアーヌは、ムッとしたように眉間にシワを寄せ、ビシリッと指を突きつけ癇癪を起こした子供のように言い募った。


「――アイツは! すごい、イヤなっヤツなんですっ!」


 エーゴンに向かって力いっぱい指を突きつけるて怒りをあらわにするリアーヌにゼクスは自分が対応を間違えたことを悟りながら沈むに近づく。

 そしてその指を絡め取りながら宥めるように声をかけた。

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