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「いやぁ、耳が痛いねぇ……――ああ、そういえばその彼女もギフト持ちだよ? 彼女のも付けようか? えっとギフト名は……なんといったかな?」


 ゼクスが切り出した話題は、フィリップにとって少々都合の悪いものだったようで、愛想よく笑いながら強引にでも話題を変えてしまおうと、目についたメイドに話しかける。


「……スパでございます」


 いきなり話しかけられ、少しの動揺を見せたメイドだったが、すぐさま取り繕い軽く頭を下げながら答える。

 この答えにゼクスは小さく鼻を鳴らす。

 一般的にあまり聞かないギフト名ではあったが、ゼクスはそのギフトのことをしっかりと知っていた。

 ――その上で、あまりにも浅はかすぎるフィリップの話題変換の拙さを嘲笑っていたのだったが――


「――スパ……?」


 その言葉に聞き覚えがあったリアーヌはゆっくりと目を見開くと、熱のこもった視線をメイドに向けた。

 メイドはそんなリアーヌの反応に、少し気まずさを感じながら、言いにくそうに自分のギフトの能力を説明し始める。


「――はい。 ……お湯を出すことができます」


 その言葉に真っ先に反応を見せたのはフィリップだった。

 ――スパという名前だけでは思い出せなかったが、その名前に“お湯が出せる”という情報が加われば、フィリップとてそれがどんなギフトなのか思い出すことが出来た……その上でフィリップは、なんとか顔をしかめることを我慢したのだ。


「スパかぁ……――お湯が出せるだなんて素晴らしい力だと思いますが……確かその匂いがかなり……独特(・・)だとか?」


 ゼクスは苦笑いを浮かべながら盛大に肩をすくめ、リアーヌ向けて言外に「君がコピーするような能力じゃないよ」と伝える。


「独特な匂いのするお湯で……名前がスパ……?」


 リアーヌはどこか呆然としたように呟きながら瞳をギラギラと輝かせ始めた。

 その視線をメイドから一才動かそうともせずに――


「その……おっしゃる通りでございます……」


 その視線に耐えきれず、メイドは質問に答えながら頭を下げ、リアーヌの視線から逃れるように頭を下げ続けた。


「……リアーヌには必要ないギフト――」

「ありますけど⁉︎」


 ゼクスが苦笑混じりに言った言葉を遮るようにリアーヌが言い返す。


「ええ……?」

「――食いついた……?」


 ゼクスの困惑したような声とフィリップが思わず口にしてしまった言葉が発せられたのは同時だった。


「いや、水魔法も火魔法もほぼ決まってるからね? ……そんな――その、だからいらないだろ?」

「いりますけど⁉︎」


(――温泉だ。 絶対に温泉だ! しかもスパ……きっと肌や髪にも良いやつに違いない……!)


 困惑顔のゼクスを置き去りに、リアーヌはグッと手を握り締めて、この出会いに感謝していた。


(――リアーヌ温泉好き! ……行った記憶とかはあんまりないけど、ネットとかで調べていた記憶は山ほどある。 ――この世界、美容品が本当に少ないんだ……どうしてそんな所を中世レベルにしてしまったのかと……  うちにはパールパックがあるからまだマシだけど、そこに温泉が加われば我が家の美容事情はさらに上昇する!)


 鼻息も荒く一人ほくそ笑んでいると、そんなリアーヌにカチヤがそっと声をかけてきた。


「――その……お嬢様?」

「なんですしょう?」

「――実際に匂いを嗅いでから決めてもよろしいのでは?」

「そうですわね! その……臭いがありますとお茶やお料理には不向きですし……」


 カチヤに続きコリアンナも言いにくそうにリアーヌに伝える。


「えっ飲んだりしませんよ! もったいない」

「もったいない……?」


(……あれ? 飲んで体に良い温泉もあるんだっけ? ――いやでも私、健康になりたいわけじゃないし……――だって温泉宿の女将さんって、七十歳なのに肌年齢は驚異の二十代! とかテレビでやってたの見たし! 滑らかな土とかと混ぜたらパックにだってなっちゃうらしいじゃん⁉︎)


 急に現れたスパというギフトの存在に大興奮のリアーヌは、周りの人間たちの戸惑いに全く気がついていなかった。


「……飲むわけじゃない?」


 戸惑いがちに問いかけてきたゼクスに、リアーヌも(なんで温泉が飲み物だって思ってるんだろう?)と首を傾げながら返事を返す。


「? はい」

「でも欲しい……?」

「はい! 私きれいになりますねっ!」

「えっと……――頑張れ……!」

「はいっ!」


 上機嫌でニコニコとしているリアーヌのすぐそばでは、困惑したカチヤたちとゼクスが視線と少しの仕草だけで会話を繰り広げていた。


『無責任なことを……!』

『俺には止められませんよ⁉︎』

『頼りにならない……!』


 そんな無言の会話を終え、大きく深呼吸したカチヤはリアーヌの側に跪き、ジッとその瞳を見ながら改めてたずねた。


「――お嬢様、本当に欲しいのですね?」

「はい! 絶対欲しいです。 私にはスパが必要です!」


 ここで反対されるわけにはいかないと必死に言い募るリアーヌ。

 そんなリアーヌの答えに、カチヤはもう一度大きく息をつくと、腹を決めたように頷いた。


「――かしこまりました」

「カチヤ⁉︎」


 その答えに、コリアンナは咎めるようにカチヤの名前を呼ぶ。


「これで良いの」

「でも……」

「お嬢様がお望みなのよ?」


 その言葉にグッと答えを詰まらせたコリアンナは、しばらく迷うように視線を揺らしていた。

 が――コリアンナもカチヤ同様大きく息を吐き出すと「それもそうね……」と苦笑いを浮かべながら同意する。

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