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 そんなゼクスを見上げ、少しホッとしたような顔つきになったリアーヌだったが、どう答えるべきかまでは判断出来ず、助けを求めるようにカチヤたちに視線を送るった。


「……何かお困りですか、お嬢様?」

「なんでも言ってくださいませ」

「ええと……」


 カチヤたちこの言葉にリアーヌは戸惑いながら視線を揺らす。


「――この場では言い難いことですか?」

「なんというか……まぁ?」


 カチヤが小さな声でたずね、リアーヌは曖昧に頷く。

 そんなリアーヌの態度に視線を交わし合ったカチヤたちは睨みつけるようにチラリとフィリップたちを見つめ、リアーヌに向き直る。

 そしてニコリと笑いながら両手を合わせるようパチリと音を出す。


「――ではこんな時こそお嬢様の直感力に頼ってみませんか⁉︎」

「あら、それは良い考えね!」

「……え?」

「ヴァルム様に教えていただきました。 お嬢様は大変直感力(・・・)に優れていらっしゃるのだと!」

「……そう、なんです?」

「はい!」


 身に覚えのない話に、首を傾げながらたずねるリアーヌに、胸を張りながら大きく頷き返すカチヤとコリアンナ。


「私たちもお嬢様のそのお力を見てみたいですわ⁉︎」

「ええ……?」


(……私のどこにそんな力があると……? ――無駄に高い私への信頼がツライ……)


 戸惑うリアーヌだったが、カチヤたちはキャラキャラと楽しそうに「では私からいきますわ!」「次は私ですからね?」と話し合っている。


 ――この部屋の中のリアーヌ以外の者たちは、カチヤたちがリアーヌにスキルを使わせようとしていることに気がついていた。

 ゼクスは興味深そうに、フィリップやレオンもにこやかに眺めてはいるが、内心では苦虫を噛み潰したかのように顔をしかめていた。


「では――今からお嬢様が説明しようとしていることは、お嬢様の不利益になりそうでしょうか?」

「……――いや、そんな気は……?」


 漠然とした不安を感じていたリアーヌだったが、そう聞かれてしまえば、そんな予感は一切しなかった。


「……ではボスハウト家はどうでしょう?」


 そう聞かれた瞬間、リアーヌの足元にゾワゾワとした気持ちの悪い感触が湧き起こる。


「……っ」

「いかがなさいましたか?」


 リアーヌの変化を的確に読み取り、コリアンナは何気なさを装いながらたずねる。


「あの……ゾワってしたんで……?」


 視線を揺らし、前髪をいじくりながら、リアーヌは不安そうにそう答える。

「だからなんだ?」と、たずね返されたくはないな……と思いながら。

 ――しかし、その言葉を聞いたカチヤたちは、リアーヌが戸惑ってしまうほどに、大袈裟に反応して見せる。


「――ゾワですか⁉︎」

「それはダメな合図ですね⁉︎」

「絶対に口にしてはいけません!」


 その勢いに押されるように身体をソファーへ沈み込ませたリアーヌはそのままの体制でなんどもコクコクと頷く。


「……わ、分かりました」


(私なんかよりも、メイドさんのほうが私の直感力を熟知している件について……)


「……場所を変えてなら教えてもらえる……?」

「えっと……」


 ゼクスが少し拗ねたようにリアーヌにたずねた。

 その質問に戸惑うリアーヌ。

 いまだに自分からは、スキルを上手く扱えない様子だった。


「――例えば馬車の中ではどうでしょう?」


 今度はコリアンナがリアーヌにたずねた。


「……平気、そう?」


 その質問に首を傾げながら答えるリアーヌ。

 本当にこんなことで決めて良いんだろうか……と少しだけ不安になり始めていた。


「――ではお家で旦那様や奥様と一緒に聞いていただくのは?」


 しかし、コリアンナからのその質問を聞いた時、初めての感覚に襲われ、リアーヌは少しだけ自分の直感を信じてみよう見ようという気になっていた。


「――今、ふわってしました!」

「まぁ!」

「素晴らしいですわお嬢様!」


(――初めてのふわっ、を感じ取った!

――私の直感力、意外に出来る子かもしれない⁉︎) 


「――ではそれでよろしいでしょうか?」


 満面の笑顔で喜ぶリアーヌに微笑みを返してから、カチヤはゼクスにそっとたずねた。


「お邪魔させていただきます――というわけですので、我々はそろそろ……」


 カチヤに答えてから、ゼクスはフィリップに視線を向け、退席する旨を伝えた。


「――そうですか。 ……今回の一件、リアーヌ嬢のウワサ話は人々の口に登ることはないとパラディールの名に誓う――」

「……少しでもオレの耳に入ったら街中で先ほどのお話が、面白おかしく人々の口に登ると覚悟してください」


 ゼクスは「リアーヌの名誉に少しでも傷をつけたら、お前たちの外聞にも決して少なくはない傷をつけてやるからな」という脅しをかける。

 ――国中に販路を、店舗を持つラッフィナート商会の時期頭取であるゼクス。

 そんな相手からされるこの手の脅しは、下手な貴族からの脅しよりも効果が高かった。


「――肝に銘じよう」

「――貸しも二つ程度覚悟しておいてください?」

「……治癒とメッセンジャーなんてどうだろう?」


 フィリップからの提案にゼクスは軽く目を見開くが、すぐさまニコリと笑い、その驚愕を取り繕う。

 ――明らかにフィリップ側の落ち度ではあったが、こんなに簡単に条件を提示してくるとは思ってもいなかったようだ。

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