表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
320/524

320


 ◇


「……あの女が親戚だと……?」


 リアーヌだけよそに移し、アリバイ工作も兼ね場所パラディール家のサロンに変えたレオンたち。

 紅茶を一口飲み、ようやく人心地ついたところで、レオンがぐったりと疲れた様子で呟いた。

 その言葉にピクリと反応を見せたパトリックたちだったが、互いに視線を交わしあいながら無言を貫く。

 そんな友人たちの様子に気がついていたフィリップは、困ったように肩をすくめながら冗談めかして答えた。


「ボスハウトもうちも王家に連なる血だから、親戚といえば親戚なんだけど……――彼女は市井(しせい)育ちだからねぇ? そうなると根本とする常識が我々とは違ってしまうのだろうねぇ?」


 その言葉でレオンは自分の失言に気がつき、キュッと唇を噛み締める。

 そして大きくため息をつきながらフィリップに視線を向けた。


「……――本当に本物なのか?」


 これは、ボスハウト家のご令嬢としてのリアーヌも、自分の“再従姉(はとこ)”としてのリアーヌも、どちらも疑った発言だった。

 レオンの常識の中で、あの状況であのような暴挙に出るご令嬢など存在しなかったためだ。

 彼女は偽物であり、本物のリアーヌのために自分を排除しようと動いたのだ――そう説明されたほうがまだ納得ができた。

 ――そしてその気持ちが大いにわかってしまうフィリップも、苦笑を浮かべながら肩をすくめる。


「……おそらくは? うちの者でも、証拠らしい証拠は掴めなかった……――けれど、陛下の態度こそが証拠になりえると考えているよ」

「陛下か……」

「ああ。 誰の目から見ても、陛下は今の(・・)ボスハウト一家に格別の配慮を見せている――まぁ、今まで優遇してやれなかった罪滅ぼしといえば納得してしまえるほどのものだけれど……――それでも配慮していることは事実だ」

「……それすらもフェイクということは?」

「……そのフェイクでオリバー殿を――王家にしか傅かない者たちを下げ渡すとは……ましてやまだ若いとはいえ、陛下の侍従を? ……そこまでする必要はないと思っているよ」

「……どう思う?」


 レオンは後ろに控えるエーゴンに――オリバーと同じく、王家にしか傅かない者たちの一人に意見を求めた。


「――主人を陛下と定めているならば、監視という可能性もありますが……」

「……続けろ」

「どちらにしろこれ以上探ることは得策ではないかと愚考いたします」


 陛下がボスハウト家に格別な配慮を見せていようがいまいが、それらを明らかにすることを陛下もボスハウト家とも良しとはしない。

 これ以上踏み込むということは最低でも陛下の考えを蔑ろにする行為であり、そして……正真正銘リアーヌがレオンの再従姉であり、オリバーがボスハウト家に忠誠を誓っているのであれば、陛下の考えを蔑ろにした上、ボスハウト家を――ボスハウト家の使用人たちを完全に敵に回すということに他ならなかったからだ。


 ――もし仮に(・・・・)オリバーがリアーヌを生涯ほ主人と定めていたならば、そのような情報が事前にパラディールにもたらされていたならば、パラディール家の使用人やエーゴンがこの計画の中止を訴えていたほどには、王家に忠誠を誓う者たちの忠誠心は決して軽はずみに刺激してはいけないものだった。


「陛下の不興も買いたくはないけれど……あの家の使用人と敵対するのもねぇ……――うちの者たちでも内情を探れないのだから、実力は折り紙つきだよ」

「……オリバーという男だけではないのか?」

「ボスハウトが子爵で留まっていられたのは、その者たちが居たからだと、もっぱらの評判だよ。 ――実際、なぜそこまでボスハウト家に忠誠を誓うのかと、首を傾げるほどの実力者たちがゴロゴロしている――ラッフィナートのほうの護衛も曲者揃いだし……リアーヌ嬢に新しく付いたメイドたちも相当だ……――オリバー殿のいない日をついて正解だったかもね? ――少なくともリアーヌ嬢が情報漏洩をしていないということがハッキリした」


 フィリップの言葉にサロン内にいた者たちが一斉に、気まずそうに髪をいじったり大きく息をついたりして顔をしかめる。

 それが分かってしまったということは、自分たちはなんの罪もないご令嬢を密室に閉じ込めた不届者である――という事実を突きつけられたも同然だった。


「……ボスハウト家との和解はできるだろうか?」


 大きく息をつきながらレオンはたずねる。

 しかし悲壮感すら漂うその様子からは、レオン自身がその可能性を否定しているように見受けられる。


「――あそこの子爵夫妻は本当に読みきれなくてね……」

「夫人もか?」

「ああ。 必要最低限しか社交界に姿を表さないお方だから、子爵よりも情報は少ないが……やはりだいぶ独創的な考えかたをなさる方のようだ……――今回のことについてはリアーヌ嬢の気持ちも大いに加味されるだろうから……我々が動くよりもレジアンナたちから働きかけてもらうほうが効果が期待できるかもしれないな……」

「……クラリーチェにも頼んだほうが良いだろうか?」

「どう、なんだろうね……?」


 フィリップは首を傾げながらパトリックたちに意見を求める。

 リアーヌがSクラス入りしてからの様子を見ているフィリップたちは、リアーヌが親しい友人とみなす人物がビアンカやレジアンナの周りだけだと気がついていた。

 ――そしてその理由が、気を抜いて対応しても許してくれる人物だからだということにも……

 クラリーチェがどこまで許せるのか把握しきれていない今、不用意に働きかけを打診するのは逆効果にもなり得ると考えていた。


「悪手なのでは、と……」


 パトリックはレオンの反応を伺いながら静かに答える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
男共が揃いも揃って、貴族的野蛮人なのはなんなの?フィリップなんてレオンを理由に同じようなことをやってるしさぁ 正直、リアーヌは両親とかに報告した方がいいよこれ 今後にも関わる
リアーヌの「火事だぁあ~」に吹いてしまった(爆)たしかに「人殺し~」と叫んでもかえって怖がって近付かないよねぇ、それにしてもさ…これがレジアンナやビアンカに知れたら自分達の首を絞めることになりゃしませ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ