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 そしてそろそろと振り返り――再び邪魔される前にとノブ下のつまみ錠をガチャガチャと捻りながらノブを動かして扉を開けようと奮闘する。

 つまみ錠を縦にしても横にしても、扉を押しても引いてもびくともしない状況に、リアーヌはようやくこの扉が外側から何者かによって開けられないように細工されているのだということに気がついた。


(……ちょっと⁉︎ これ本当に誰かに見られたら私の外聞なんか木っ端微塵なんですけど⁉︎ 王族や有名貴族だからってなにしても許されるとか思ってる⁉︎ ……絶対に道連れにしてやるからな……――フィリップがレオンを襲ってたとか、レオンはエーゴンと付き合ってて、私がその現場を見ちゃったから閉じ込められたとか……無いこと無いこと騒ぎ立ててやるからな! 火も煙も無くったって、燃やそうと思ったら疑惑や憶測だけでも大炎上させられるって見せつけてやるんだからなっ‼︎ ――想像力だけでビラを大量生産してバラ撒いてやる……写真か⁉︎ ってぐらい精密な想像をしてお前たちの外聞をズタボロにしてやるっ!)


 ギッと射殺さんばかりにフィリップたちを睨みつけながら扉にしがみつくリアーヌ。

 そんな姿にフィリップたちはため息をつきながら、なるべくリアーヌを刺激しないように優しく話しかけた。


「……ずいぶんと長い間拘束しているのは理解している。 あなたの我慢も限界だということも……――けれど、その扉は私が命じないと開かないんだ」

「じゃあさっさと命じてください」

「――分かった。 ラルフご案内を」


 フィリップの口からその言葉が発せられた瞬間、なにをどうやっても開かなかった扉がうっすらと開き……

 そして扉の真ん前に立っていたリアーヌの目の前には、フィリップのお付きでもある男子生徒ラルフが立っていたのだった。


 その距離感にジリリ……と距離をとるリアーヌ。

 そんなリアーヌを横目にラルフはフィリップに向かってスッと頭を下げる。


「かしこまりました。 ――リアーヌ様、どうぞこちらへ」

「……え? わ、私一人で戻れますけど……」


 差し伸べられたラルフの手から距離を取るように身体をのけぞらせながらボソボソと答える。

 先ほどまでかろうじて張り付いていたはずのご令嬢の仮面は、様々な衝撃で綺麗さっぱり砕け散ってしまったようだ。


(リアーヌわりと一人とか平気。 一人で廊下も歩けるし教室まで戻れる。 別にお見送りもお土産もいらない……)


「さすがに……すぐにここから自由には……ね?」


(すぐに自由には……ってなに⁉︎ もう出てっていいよって話してたんじゃないの⁉︎)


「こちらできちんとアリバイは作ってある。 だから心配しないで欲しい。 妙なウワサなど立たせはしないよ」


 リアーヌの反応を伺うように喋るフィリップ。

 リアーヌはそんなフィリップの態度に心底苛立っていた。

(確かにそこも心配ではあるけど、もう閉じ込められること自体が嫌なんだけど⁉︎ もうやだ! 本当にイヤだ! ビアンカんトコ帰る! お家でもいいっ‼︎)


 色々と限界を迎えているリアーヌが涙目で周りを睨みつけていると、ため息をついたフィリップがラルフに向かって一度軽く頷いた。

 それに頷き返したラルフはにこやかな笑顔を浮かべながらゆっくり慎重にリアーヌに向かって足を進める――


「……なんですか? あの……来ないで欲しいんですけど……!」

「この部屋から出るだけですよ。 ――さぁお手を」


 丁重にエスコートしようとしたラルフが、ゆっくりと手を差し伸べた瞬間――

 拘束されると勘違いしたリアーヌの口から、悲鳴が漏れ出ていた。


「だっ誰かぁぁぁぁぁっ‼︎」

「ぅえっ⁉︎」


 まさかこんな場面でこんな大声を上げる令嬢がいるとは思わなかったラルフはビクリと身体を震わせると、キョドキョドと視線を彷徨わせ、助けを求めるようにフィリップを見つめる。


「えっと、だね……? リアーヌ嬢……」


 こんな状況の想定も対処法も考えていなかったフィリップは混乱しながらも、大声で助けを求め続けるリアーヌに焦りを感じていた。


 このサロン棟にある部屋は、防音がしっかりしているとはいえ、こんな大声を出す想定などされていない。

 そしてこの状況がウワサとして出回って仕舞えば、自分たちも無傷ではいられない――そんな考えに至ったフィリップは、動揺しながらもリアーヌを説得するために数歩彼女に歩み寄る――

 しかし、ラルフに捕まえられることを恐怖しているリアーヌに、さらに別の人物が近づいて行くのは悪手でしかなく――


「ひ……」


 と、顔をひきつらせたリアーヌはその動揺のままに声を発し続けた。


「ヘンタイぃぃぃぃぃ! 人殺しぃぃぃぃぃっ!」

「ま、待ってくれ、落ち着いて! 本当に人が来てしまう⁉︎」


 そんな慌てたフィリップの言葉にリアーヌは心の中で(人を呼んでるんですけど⁉︎)と、毒付きながら更に助けを求めるため、大きく空気を吸い込んだ。


(――はっ⁉︎ そうだ、こういう時に最適な言葉を知っているっ‼︎)


「火事だぞおぉぉぉぉぉっ‼︎」

「どうして⁉︎」


 ――大混乱に陥ったサロンの中だったが、エーゴンがリアーヌの口を無理やり塞ぎ、物理的に黙らせたことで、静けさだけは取り戻し、少年たちは顔色を悪くしながらも、予定通り次の話し合いに向けて準備を進めるのだった――

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