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 ――ザームが合同訓練へ行って三日目。

 大まかな訓練は大きな問題もなく終了したとの報告を受け、家族全員で胸を撫で下ろし、あとは帰ってくるだけだね、と笑い合った次の日――


 リアーヌはフィリップたちに急遽サロン棟の一室に呼び出され、閉じ込められていた。


「――えっと……?」


 なぜこんな目に遭わなければいけないのかと、怯える眼差しで自分を取り囲むいつもの面々――フィリップ、パトリック、そして目の前に立っているレオンとその背後を守る男子生徒――レオンの護衛役でもあるエーゴンに視線を走らせていた。


(……え、これ冗談じゃ済まないよね? なんで? 私なんでこんなことされてるの⁉︎)


 混乱しながらも必死に表情を取り繕うリアーヌにフィリップが申し訳なさそうに声をかける。


「――すまないねリアーヌ嬢、レオンがどうしても話がしたいと言っていてね?」

「話……――いや、あの困ります……メイドたちを……」


 そう言いながらフィリップたちを避けるように部屋の中を大きく迂回しながら、サロンの入り口に走り――高く閉ざされた扉に飛びつきその扉を開こうとするが、ガチャガチャと音を立てるだけで開く気配は微塵もなかった。


(鍵⁉︎ なんで⁉︎ なんでこの人たち私にこんなことすんの⁉︎ 私この人たちに何にもしてないじゃん⁉︎)


「質問に答えてくれればすぐに済む」

「すまない気がしますけど⁉︎」


 レオンが発した言葉に反射的に言い返すリアーヌ。

 ――その言葉を口に出したことが正しかったのかはさておいて、その言葉自体は正しかった。


 男性と密室で二人きりになる――これだけでも大問題となる貴族社会において、大人数の男子生徒たちにより女生徒が一人閉じ込められた――と言われてしまうこの状況は……どう見繕っても大問題でしかなかった。


(なんで付いてきちゃったの⁉︎ 私のバカッ! ゾワッてしたじゃん! ちゃんとゾワッてしたのにっ‼︎)


「……時間が伸びて傷がつくのはそちらだが?」

「……ならさっさと終わらせてもらっても?」


 リアーヌは冷たい視線でこちらを見ているレオンを睨みつけながら答えた。


(なんなのコイツなんなのコイツなんなのコイツーッ‼︎)


「このエーゴンはウソを見抜くギフトを所持している」

「……それが?」


(うちのヴァルムさんだって持ってるもん! きっとお前の従者の力よりずっと強いギフト持ってるもんっ!)


「……君は私の本名を知っているか?」


 レオンからの質問にリアーヌは動きを止め、たっぷりの時間をかけて思案したのち、迷いながらも答えを口にした。


「…………いいえ?」


(なにこれ? なんなの⁉︎ 何かのテスト⁉︎ コイツ私たちの前であんなにもあからさまに『僕が王子ですっ!』って態度とっておいて、今更『……お前僕の正体を知っているな……⁉︎』とか言い出してんの⁉︎ 頭沸いてらっしゃる⁉︎)


「……ウソです」


 エーゴンの静かな宣言にリアーヌ自身も納得するしかなかった。


(まぁ、そうなりますよ。 だってウソだからね!)


「……リアーヌ嬢、こんなことすぐに終わらせるべきだと思うだろう?」


 まるでたしなめるかのようなフィリップの言い方に、リアーヌはその頭にカッと血が登ったのを自覚した。


「――お前に言われたくは無いんですけど?」


 ギロリとフィリップを睨みつけながら答えたリアーヌに、困ったように顔を見合わせるフィリップたち。

 そしてレオンが再び口を開いた。


「……正直に答えてほしい」

「……――知ってます」

「口に出して言ってみてくれないか?」


 なんの譲歩もせずただ一方的に自分たちの都合だけを押し付けるレオンたちの態度にリアーヌの苛立ちや怒りも爆発寸前だった。


(クソ)「レオンハルト」

(人でなし)「ディスティアス」


 心の中で思い切り罵りながら答えた。


「……誰に聞いた」

「……誰?」

「ああ。 執事か? 両親か? それとも――他の人物だろうか?」

「それは――」


 と、思い出そうとしたリアーヌだったが、あることに気がつき、その喉からヒュッと息を呑む音が聞こえた。


(……え? これ――)


「……どうした? なぜ答えない?」

「それ、は……」


(待って……? 私これ答えられる……?)


 リアーヌは嫌な予感をひしひしと感じながらも、ゆっくりと答えを紡いでいく。


「その……両親からだったような……? 執事だったのかも……?」

「――ウソです」


(ですよねー⁉︎ どうしよう……この場合、なにが正解なのよ⁉︎)


「――もう一度聞く。 君は誰に私のことを聞いた? ……親戚からなのか?」


 レオンはリアーヌに――ボスハウト家が王妃の派閥に属している、もしくは現国王がリアーヌに守護のギフトをコピーさせ、王族入りさせるのでは無いか――そうなってしまった場合、自分は王座に座れなくなるのでは――? と、そんな未来が来てしまうことを恐れていた。


 すでに王妃に取り込まれているならば、それなりの対応をしなくてはいけないし、国王が王族入りさせることを視野に入れて自分の情報を漏らしたのであれば、そちらとの意思の疎通や根回しなども必要になってくる。

 だからこそ、リアーヌが言い淀む情報の出所を探りたかった。

 ――のだが……


「――いや、それは無いですね?」


 そう、あっけらかんとリアーヌが言い放つほどには、ボスハウト家と王家に接点は――リアーヌの知る限り――ありはしなかった。


「――ウソです」

「……は?」


 エーゴンが淡々と紡いだ言葉に、リアーヌは驚愕に目を見開いてそちらを見つめ返す。


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