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 (騎士科なのに……?)と、その考えを顔に貼り付けたまま首を傾げるリアーヌにクスリと笑いを漏らしたオリバーは「はい」と答えながら詳しい説明を始めた。


「この訓練は……――言ってしまえば、どれほど貴族の暮らしを捨てられるのか――という訓練なんです」

「……その訓練にどんな意味があるのかは分かりませんけど、ザームにはとても向いている訓練だってことは分かりました……!」

「……俺もそう思ってる」

「……その認識だけは改めて参りましょう……?」


 姉弟の会話に困ったように眉を寄せるオリバー。

 大きなため息をつきながら再び説明を始めた。


「騎士たる者、いつ何時戦いに出向くことになるか分かりません。 その日野営になってしまったとして、テントは自分たちで貼れるのか、水や食料の調達は出来るのか? ……風呂やトイレ……満足に出来ない場所でどれほど耐えられるのか――と言ったところを見て、そして鍛えるための訓練なんです」

「……ますますザームのための訓練な気がする」

「……むしろ俺には必要無いまである」

「確かに」

「……ですが森の中、しかも武器を持った多数の者たちとの合同訓練です……――決して油断なさいませんよう」

「――はい」


 野営ならば自信のあるザームも、悪意ある第三者からの攻撃を交わす自身は持っていないのか、神妙な面持ちで頷いた。

 ――もしかしたら、父サージュから『油断しなきゃ平気だろ』等の助言をもらっていたのかもしれない。


「――……思ってるより危険?」


 そんなやりとりにリアーヌは心配そうに眉をひそめる。


「……周りの奴らがなにもしてこなきゃ余裕だ」

「……それはあんまり安心できないかもよ……?」

「油断しなきゃいいんだ。 あとはヤベェ奴に近づかなきゃ平気だ」

「……ザーム昔から感は鋭いもんねぇ……?」


(小さい頃は父さんから『豪運』も引き継いでるんじゃ……? って何回も疑ったぐらいには感が鋭い……――ってかリアルラックが高い)


「父さんが教えてくれた」

「……――え、父さんが分かるのはギフトのおかげでしょ? 教わったり出来る?」

「……でも教わった通りにやればちゃんと出来るぞ?」

「……――ちなみにどうやるの?」

「ゾワッてした時はすぐ離れる」

「ゾワ……それはなんか分かる……かも?」

「ピリッの時もある」

「ピリ……」

「ふわっは良い時だ」

「……それ、いつか私にも分かるようになるかなぁ?」


(多分だけど、私も『豪運』使ってるはずなのに、ゾワ以外の感覚に覚えが無いんだけど……?)


 そんなリアーヌの言葉に、ザームは気の毒なものを見る目つきを向けてため息混じりに答えた。


「――姉ちゃん鈍臭せぇからなぁ……」


 そんなしみじみとしたザームの言葉に、リアーヌは目を釣り上げながら反論する。


「はぁー? そんな風に言われるほどじゃありませんけどー⁉︎」


 なんなら「クラスメイトたちと比べれば、自分は運動が出来るほうである」という自信すら持っていた。


「……よく色んなところで足ぶつけたり壁に激突してんじゃん」

「あ、あれは……人とか物とかを避けた先に壁や障害物があるからで……」


 身に覚えのありすぎる事実を突きつけられ、リアーヌはモゴモゴと言葉を濁しながら反論する。


「よく扉に袖やスカート挟んだりひっかけたりしてんじゃん」

「……だって、普段使いのドレスがあんなにピラピラしてるから……」


 言いながら肩を落としてしまったリアーヌ。

 そんな姉の姿を見つめ、ザームはハッキリと自分の考えを伝える。


「――無理だ」

「……そんな気はしてる」


 リアーヌはしばらく考えを巡らせた結果“鈍臭い”という不名誉な形容詞を受け入れることにしたようだった。

 

「……つきましてはお嬢様」


 話が終わったところで、オリバーが頭を下げながら話しかけた。


「え、はい……?」

「こちらの訓練に同行することが決まりましたので、その間はカチヤとコリアンナの二名をお連れください」

「……え、ザーム一年生なのにいいんですか?」


 首を傾げながらたずねるリアーヌに答えたのはザームだった。


「なんか一年でも、外の時は良いらしい」

「へぇー……」


(……まぁ、確かに「学校行事なんだから平気でしょ!」とか言って護衛無しで、簡単に誘拐や暗殺されてたら大問題だもんね……――それに男の子だって、命に別条がなくても、目立つところに大きな傷や怪我をするのはダメージ大きいだろうし)


「そういうわけでございます。 その三日間はくれぐれもカチヤたちの側を離れませんよう」

「はーい。 ……でも一年の頃は一人でしたし、そこまで心配しなくても……」

「――くれぐれもそばを離れませんように」

「……はい」


(……なんか最近、オリバーさんの圧かけがヴァルムさんに似てきている気がする……)


 ――オリバーがここまで注意を促すくらいには現在のあの学園は危険であり、そしてこれ以上ないほど安全な場所でもあった。


 不審者や不審物は見かけない日が無いほどに多く、そしてそれら全ては学園を守る警備部の者たちによって発見され、拘束、無効化されていた。


 ――しかし、護衛を持てる二年以上になってしまうと、その警備部からの守りが多少薄くなってしまう。

 多くの護衛やお付きが出入りするので、警備部の者たちが把握しきれない、拘束することに躊躇ってしまう――という場面が多発するためだ。

 それに加え……今年は王子の入学――さらには未来の王族となることが確実視されている女生徒が入学している――

 ……二学年以上の生徒に対する警備が薄くなることは、容易に想像がついた。

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