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 前代未聞の、教養学科のしかもSクラスの女生徒たちによる集団ボイコット事件は、偶然にも(・・・・)集団で気分を悪くしてしまった生徒たちが大事を取り、午後の授業を休んだだけ――ということで取り扱われることに決まった。

 ――が、その情報を真実と受け取る生徒の方が少数であり、ましてや教師ともなれば真実を知らない者は皆無であった。

 ――けれど、このような処置が行われたのには、彼女たちの置かれた立場や今年になって現れた女生徒(・・・)の存在や婚約者との関係性が考慮された結果なのかも知れない。




「まったく! そのように制服を泥で汚すなど前代未聞ですっ! どうなさるおつもりですの⁉︎」

「……染み抜きは得意です……?」


 リアーヌは、想定していた以外の質問を受け、戸惑いながらもそっと答えを口にする。


「――そんな話ではございませんことよ⁉︎」

「はいっ! すみませんっ‼︎」


 リアーヌとしては至って真面目な返答だったのだが、そんなやりとりを聞いていた友人たち、そしてそれを見守っていた護衛やお付きの者たちの一部からクスクスという忍び笑いが聞こえてくる。


(……絶対オリバーさんも笑ってるもん……こういう時、あの人は率先して笑うんだもん……――っていうか! この立ち位置が本当におかしいよ⁉︎ なんで一緒に遊んでたのに、他のみんなは私の後に控えてて、私一人が先生の前に立ってお叱りを一身に受け続けているわけっ⁉︎」


「――とはいえ……――諸々の事情を考慮し、今回は口頭注意に留めます。 ですが、今後はこのようなことが無いように!」

「はいっ!」


 リアーヌの返事に大きく鼻を鳴らした教師は、その後ろに控える生徒たちを見回し大きく深呼吸したのち、声をかけた。


「――皆様もよろしいですね?」

「――はい先生」


 ――さすがのお嬢様方、その返事や立ち振る舞いに文句のつけようも無かった。

 ……その靴の所々、そして制服のあちこちには泥が跳ねているようだったが――


 教師からの注意を聞き終わり廊下に出ると、各家のお付きたちが各々のお嬢様を出迎え、そして思い思いに労いの言葉をかけていく。

 それはオリバーも例外ではなく困ったように笑いながらリアーヌに話しかける。


「ずいぶんな大冒険をされたご様子ですね?」

「えへへ……?」


(……――まぁ、イヤイヤ付いていった割には、ノリノリで楽しんだ自覚はありますよねー……)


 そして、そんなふうに考えている者たちは意外に多いようで、そこかしこから自分の武勇伝をメイドたちに聞かせているお嬢様たちの声が聞こえて来た。


(わたくし)の髪に蝶が止まりましたのよ!」

「蜂が目の前をっ!」

「バラの棘に触ってみましたの!」


 そんな興奮冷めやらぬ状態のお嬢様たちに苦笑を浮かべながらも大きく頷いて話を聞いているメイドや護衛たち。

 ――中には本当にバラ園でのことを知らない者もいたのが、ほとんどの者はその動向を見守っていたのでほとんど把握していたにも関わらず、うんうんと頷きながら黙って話を聞いている。

 どのお嬢様に至っても、ここ最近見ることが減っていた、心からの笑顔を浮かべていたから――なのかもしれない。


「とっても楽しかったわ! ねぇクラリーチェ?」

「はいっ!」


 レジアンナが満面の笑みでたずね、それに弾けんばかりの笑顔で同意するクラリーチェ。

 ――この二人の護衛やお付きの者たちなど、苦笑すら浮かべず、ホッと安心したような優しい笑顔を浮かべている。


「それはそれは……――しかし、お家に戻られましたら、奥様のお叱りはお覚悟下さいませ?」


 レジアンナに付いている侍女が冗談めかして……しかし、しっかりと釘を刺す。

 その言葉に心当たりのありすぎるご令嬢たちは、みんないっせいにギクリと身体を硬くした。

 そんな周りを見てクラリーチェは申し訳なさそうに眉を下げた。


「みなさま(わたくし)のせいで……」

「なにを言いますの? 私たちみんな同罪ですし……巻き込んだのは私たちの方でしてよ?」


 そんなレジアンナの呆れた声に、周りも苦笑しながら同意を示す。


「……怒られるくらいはしゃいだ自覚がありますもの」

「ふふふっ とっても楽しかったです!」

「本当に! ……私たちみんな同罪ですわよ」


 そんな言葉にリアーヌはピクリと眉を引き上げる。


「……同罪って言う割には、私だけが怒られてませんでした?」


 そんな恨みがましいリアーヌに肩をすくめながら答えたのはビアンカだった。


「……発案者だもの。 仕方がないわよ」

「やめようって言ったじゃん⁉︎」

「止められてないんだから、やっぱり同罪よ」

「ぐぬぅ……」


 リアーヌとしては珍しくビアンカの言葉に反感を覚え、何か反論してやろうと頭を回転させ始めたが、その反論が見つかる前にビアンカが冷たい瞳で言い放った。


「――カタツムリを食べさせようとした罪は重くってよ」

「そ、れは……――でも普通、あの場で直でいこうとは思わないからね⁉︎」

「カタツムリ……」

「食べさせる……?」


 二人の言い合いを聞いていた、バラ園には同行しなかったお付きたちが、ポソリと呟きながら首を傾げあう。

 そんなお付きたちにクスクスと笑いながら楽しそうに説明を始める友人たち。


「バラの葉にカタツムリがいましたの」

「とても小さいのもいましたわね⁉︎ 初めて見ましたわカタツムリの赤ちゃん!」

「そうそう! そんな風に観察しながらおしゃべりしていましたらね?」

「――リアーヌが「それ焼いて食べたら美味しいのよ」って!」

「……私も聞こえていて、少し信じてしまいましたわ……?」

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