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 そんなレジアンナの言葉にビクリと反応したリアーヌだったが、なにかを答える前に周りが「本当にあのネジは……」「リアーヌ様とてご承知ですとも……」と必死に宥めていた。

 リアーヌはビアンカと視線を交わし合いクスリと笑いながらまたパンを齧る。


(――通常、貴族階級の者がここまで我慢することはない……――ゲームの時も周りはこんなふうに我慢をしてた……? つまり婚約者たちは、嫉妬に狂っただけじゃなく、主人公の言動に心底腹が立っていた――……直接手を出してしまうほどに……? そこまで憎まれてたら気がつけよ主人公……まぁ、ゲームのキャラにそんなこと言ったって通用しないと思うけどー。 ……あれ? ってことはあのユリアは成り代わりってこともなく、ノーマルユリアなの……⁇)


「イミフ……」

「え?」

「あ、いや……」


 ボソリと呟い言葉を聞き咎められ、ごまかそうとするリアーヌだったが、その前にレジアンナが声高らかに宣言してしまった。


(わたくし)覚えてましてよ! 意味不明ってことでしたわよねっ!」

「…………」

「…………」

「…………」


 その瞬間、リアーヌたちに冷たく厳しい沈黙が襲いかかった。

 それは近くで話を聞いていた他のクラスメイトたちも同様だったようで、クラス中に嫌な沈黙の時間が流れた。


「――そうですわよね? あのネジったら本当に意味不明!」

「ええ、ええ! どうしてああなってしまったのか!」

「ネジですもの落としてしまったのかも」

「ネジですものねぇ!」


 リアーヌたちはほぼヤケクソのようにネジを連呼して今のレジアンナの発言を掻き消すように会話を続けた。


(この話の流れで意味不明(・・・・)は絶対に悪口なのよ……――このクラスでネジがなにを指しているかわからない人なんていないんだから……)


 むぅ……と顔をしかめたリアーヌだったが、このクラスでレジアンナ――ミストラル家とパラディール家を敵に回す人はいないだろう……と、楽観も少ししていた。


「――自分の発言が元でしょう? お気をつけなさい」

「イエス、マム」


 ビアンカに嗜められ、背筋を伸ばしたリアーヌだったが、その返事が気に入らなかったビアンカに睨まれ、すぐに首をすくめることになった。


「……それで――なにが、その……そう(・・)なんですの?」


 レジアンナは言葉をぼかしながらリアーヌに尋ねる。

 先ほどの意味不明と吐き捨てたリアーヌの真意が聞きたかった。


「あー……」


 レジアンナの質問の意図はすぐに分かったリアーヌだったが「ユリアが成り代わりなのかどうかが分からなくなっちゃって……」とは答えられなかったので、必死に頭を回転させて、それっぽい考えを捻り出す。


「――その……だって、ええと……そのネジってまだ一回しか使ってなくて、しかも……すごく限定的な使用だったでしょ? ……なのにみんな「凄い」「欲しい!」ってなってるの……その不思議(・・・)だなぁーと思って」


 リアーヌは多少覚束なくはあったが、自分一人で言葉をぼかし「一回しか使ってなくて、しかも守ったの国じゃなくて村じゃん?」という事実を告げ、その上で、先ほどの発言は「“意味不明”ではなく“不思議”という意味ですよ」と主張してみせた。


(――わりと上手にできたのでは⁉︎)


 リアーヌは少しその顔に自信をのぞかせながら隣に視線を流した。

 その視線を受けクスリと微かに笑いながら頷くビアンカ。

 ――こういったことを苦手としているリアーヌにとっては、完璧ともいえる返答だった。


「――そ、れは……」

「けれど……その、とても昔からある有名な――ネジ(・・)ですから、ね?」

「安心――は、しますわよね……?」


 友人たちが目配せしながら意見を言い合う。

 リアーヌの意見を聞いてジッと考え込んでいたレジアンナも重々しい仕草で頷きながら口を開いた。


「……その視点は盲点だったわ――けれど……私たちにはなんの決定権もないのが辛いですわね……」


 レジアンナはそう困ったように笑いながら、家の意向には逆らえないことを揶揄して肩をすくめた。


 この国の初代の国王がこの地に建国をした際、数々の外敵から王や仲間そして国そのものを守り続けたと伝えられている、守護のギフト――

 現在の王族でさえも求めるそのギフトは、たとえその持ち主の言動や態度に多少(・・)の難があったとしても、そう簡単に諦められるものではなかった。

 それゆえに現在、フォルステル家と距離を置く――つまり“『守護』のギフトの力を必要としない”と、明確に表明しているのはボスハウト家、ラッフィナート男爵家(・・・)そしてレオンが現在在籍しているとされるパトリオート家だけだった。

 ――ただし、ラッフィナート#商会__・__#は未だにフォルステル家と良好な関係を保っており、パトリオート家はレオンのために存在しているような家なので、完全に距離を取っているのはボスハウト家ただ一つであった。


(それなんだよねぇ……――レオンがこのまま王太子、そして国王を目指すんだったら、あのギフト無いとうちの国、隣国との戦争に負けちゃいそうな気がしてるんだけど……――あのエピソードってレオンルート以外の時、どういう扱いになるんだろう……? 主人公と結ばれて兄王子を刺激しなきゃ他国と通じることとかもないのかなぁ?)


 うーん……と、これからのことについて考えを巡らせていると、ザワザワザワッと廊下のほうが俄かに騒がしくなった。


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