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 ◇


「――どなたかネジの話をしませんこと?」


 昼休憩、教室で共にパンを食べていたレジアンナが、面白くなさそうに口を開いた。

 普段は学園内に併設されたレストランやカフェで昼食を取るレジアンナだったが、リアーヌたちから「カフェや食堂のパンも美味しいけど、購買部の惣菜パンも負けていない」と言われ、好奇心から本日の昼食は教室で購買部のパンを食べることになっていた。

 初めて購買部に行くということや、初めてものを買う(・・・・・)という行為を経験したレジアンナはいつになく上機嫌で、美味しそうにコロッケパンを頬張っていたのだが……

 今日も元気に教養学科へ現れ、ゼクスにちょっかいをかけるユリアの姿にその機嫌は一気にドン底まで落下してしまったようだった。


「逆にイライラが募るだけなんじゃ……?」


 リアーヌはお気に入りの鳥照りと卵パンを口に運びながら、小さく肩をすくめる。


「――リアーヌはいいわよね! ボスハウト家は明確に旗色を決めたんですものっ!」

「まごうことなき、ネジの話ですわね?」

「色々な旗印のネジがございますものね?」


 レジアンナに付き合いながら購買部でパンを買ったご友人たちは、頷き合いながらレジアンナの言葉に相槌を打ってその主語を隠す。


(……旗印付きのネジ……? フォローもだんだんおざなりになってきたな……――原因はハッキリしてるけどー)


 リアーヌはそう考えながら再びもしゃりとパンを一口齧った。


(本当、あのユリアって子……誰ルートに入りたい何狙いの子なのかと……)


 そこまで情報収集能力に長けているわけではないリアーヌの耳にも、ユリアの情報は一日に何回も飛び込んできていた。


(今年入学の弟属性眼鏡キャラ、アロイス君だけは直接の繋がりがないから、その子だけはあんまり詳しい話が入ってこないけど……それ以外の攻略対象には片っ端から声をかけまくってるのはもう事実。 ――あの女、第二保健所でも騒ぎを起こしてミヒャエリス先生に迷惑をかけたらしいしっ! ……つまりは追加キャラたちにも手当たり次第に声かけて、交流を持ってるんだと思う……――ただ……やっぱりどう見てもユリアの本名はレオン。 そしてキープはゼクス。 ……そんなシステムなったけどー)


 パンをゴクリと飲み込みながら、リアーヌはそっとため息をついた。


(お茶会お断りした日の放課後、うちで話し合って、ボスハウト家もラッフィナート家もユリアに――フォルステル家に対する苦情を正式に申し入れた――……にも関わらず、毎日毎日ゼクスに話しかけにおとずれている。 ほとんどの時間はレオンに費やしててゼクスのどこにくるのはそのついでみたいな感じだし、護衛さんたちのシャットアウトでゼクスのほうは今のところなんとかなってるけど――問題はレオン。 一年生で護衛はいないって建前がある以上、ユリアの対応は自分でしなきゃいけないからねぇ……――最近はフィリップが連れ出して色々なところに避難してるんだけど……なぜか(・・・)ことごとく後を追ってくるらしい……――恐るべしお助けキャラ)


 リアーヌはレオンの場所がユリアに筒抜けなのはユリアの親友である ベッティ・レーレン(お助けキャラ)のギフトの力だと察して苦笑いを浮かべる。


(――二人に執着を見せているのは、好きだからなのか“距離を置く”と明確に態度に出したからなのか……――でもそうするとエドガーの説明がつかないんだよねー……今だけボスハウト家の使用人なエドガーだって、ユリアとは明らかに距離をとってるのに……でもそこまで会うことはないって話だし……――じゃあやっぱり、単純に好みじゃないから……? ――ってか、あのゲーム逆ハーや同時攻略無理だったよね? ……じゃあ何の目的が……⁇)


 おそらくこの世界の元になっているであろうゲーム――

 そのゲームで主人公を操作できる期間は約二年間。

 主人公が入学した年から始まり、一歳年上の攻略対象者たち――ゼクスやフィリップたちが卒業する、その卒業パーティまでの間だけだった。

 その日までに、攻略相手に話しかけたりイベントをこなしたりしつつ好感度上げ、一定ライン以上になっていないとゲームとしてはバッドエンド――通称、友情エンド、と呼ばれる終わりを迎えることになる。


 ちなみにそのルートだと、卒業パーティーの直前に「やっぱり君とは出られない――」とドタキャンされ、そのままゲーム終了となる。

 だがその際、主人公に背中を向け、パーティー会場に入っていく攻略対象者のスチルが手に入る。


(――まさかのそれ狙い? ……確かにスチルフルコンプすると、コンプリート特典のスチルが手に入るけど……――いや、無い。 無いよ。 だってこの世界ゲーム機無いもん。 特典スチル貰ったところでだよ。 ――えー……? ゲームの主人公をプレイヤーが操作しなかったら、あんな残念なことになる……⁇ 確かに、今となっては主人公の言動ってアウトなことばっかりなんだよな……そもそも男性と二人っきりとか、みんなにバレたら相当酷いウワサ流されちゃうし……)


 周りの会話に曖昧な笑みを返しながら、チラリとゼクスの席に視線を送る。


(それにいきなり『ゼクス君!』とか絶対ダメ。 ゲームの中の主人公だってそんなこと言ってなかったし――しかも今のゼクスはすでに男爵になってるから、この学園で最もダメな生徒って言っても過言じゃない。 婚約してる私だって、こんな大勢の前であんな大声で呼んだらめっちゃ怒られる――ヴァルムさんやアンナさんに。 ……“様”をつけたとしても……現役男爵から見た伯爵家ご令嬢は格下だしなぁ……ここは“学校”だから入学したての平民階級の生徒が知らずに――とからな大目に見てもらえるけど、それでも注意はされるし、二回三回って続くようなら制裁を受けるハメになる)


「リアーヌだってそう思うでしょ⁉︎」

「っぅ?」

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