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 そんなリアーヌの思いが伝わっているのか、ゼクスは笑いを堪えたようにもにゅもにゅと口を動かした後、軽く咳払いをして再びリアーヌに向かって口を開いた。


「……こちらのユリア嬢が、ぜひお茶会を――と言ってるんだけど……」

「そうなんですか……⁉︎」


(本気? 紹介されるまで話しかけちゃダメよルールを知らないのにお茶会開くとか言ってんのこの子……? ――フォルステル家の使用人さんたち……ご苦労様です!)


 リアーヌが(その話を断れば良いのかな?)などと考えていると、ゼクスがため息混じりに笑って話を続ける。


「ラッフィナート男爵家が開くことになるから、リアーヌの都合を確認しておきたくって」

「あ、男爵家で……――え?」


 リアーヌは思わずご令嬢の仮面を全て取り払い、ポカン……とした顔をゼクスに向ける。

 リアーヌは気がついていなかったが、その背後では再び静かな騒めきが巻き起こっていた。


(ぜひお茶会を! からの男爵家主催となると……――この子お茶会の催促しちゃったんだ……――時と場合、関係性にもよるけど……私も知らなかったけど、大概の場合「お茶会しましょう⁉︎ ぜひ誘ってくださいっ」とか「お茶会やる時は絶対に呼んでくださいね!」とかって挑発行為になっちゃうんだぜ……?)


 例外として、特に関係性が深い格上の貴族が、庇護下にある者たちに「あなたが開くお茶会ならば参加させてもらいたいわ?」と声をかけることくらいだろうか? これは「自分が参加して盛り上げてみせるから、安心して主催しなさい」という意味であり、この場合であれば歓迎される言葉だったのだが――……礼節を重んじる貴族社会において「参加してみたいからお茶会開いてくれ!」なんて物言いは、相手を軽んずる無礼な言葉としか取られなかった。


(……これを断るのか……いや、こんなの断る一択だけど――この子、無礼なことしてるって自覚ないだろうからなぁ……――角が立たない断り方、この子が納得するような……)


「――いつ頃のご予定でしょうか?」


(オリバーさんもう口角なんて気にしている余裕はありません! 私の第一ミッションはこの話を断ることなんでっ! だからちょっと変な対応してもヴァルムさんたちに言いつけないでねっ!)


 リアーヌは心の中でそう懇願しながら口元に手を添えさりげなく隠しながらユリアから少し顔を背ける。


(くっ……ドレスだったら扇子が使えたっていうのに……っ)


「リアーヌの予定はいつ頃空くのかな?」


 ゼクスの返答にリアーヌは心の中で断るのであれば……と付け加えながら困ったように眉を下げた。


「もう夏休みは……」

「あー……だよねぇ? リアーヌはクラス上がったからそっちの繋がりもできたもんねぇ?」

「はい。 それにザームのほうにも一緒に出席するようにと……」


 申し訳なさそうに首を傾げながら理由を付け足していくリアーヌ。

「あー……なるほどそっちもあったか……」


 ゼクスはわざとらしいほどに嘆いて見せてから肩を下げ、申し訳なさそうにユリアに向かって口を開く。


「わざわざ声をかけてもらったのに悪いけどこっちの都合がつかないみたいだ」


 そんなゼクスの返答にキョトンとしたユリアは首を傾げながらたずねる。


「……私はゼクス君とお話ししてみたいなって思ったんだよ? どうして彼女の予定がいっぱいだと無理になっちゃうの?」

「――彼女が俺の婚約者で君が女性だからだね」


 どことなく呆れを滲ませた顔に笑顔を貼り付けて答える。

 そんなゼクスをどう思ったのか、その返答にユリアはじわじわと顔を破顔させながら答える。


「――ぷっ、ふふっあはは! そんなこと誰も気にしないよー。 お茶会ってただお茶飲んでお話しするだけなんでしょ? ゼクス君てば意外に真面目なんだね」


 ユリアがそう答えた瞬間、背後ではもはや隠し切れないほどのざわめきが巻き起こり、クスクスと笑い続けるユリアに冷たい視線が数多く向けられた。


(……そう考えちゃう気持ちも分からなくはないけど……――じゃあお前が開いて、立派にホスト勤め上げて見せろよっ! 言っとくけど私だって、あらら? なお茶会に出席したら文句ぐらい言うんだからなっ! 私も出来ないし……とか容赦したりしないから! 出来ないなら開いちゃダメだし‼︎ そんなの身の程知らずだしっ‼︎)


 心の中で怒り狂いながらも、精一杯顔を取り繕い、笑顔を浮かべ続けるリアーヌ。

 笑われたゼクスも感情の読めない笑顔を貼り付けながらにこやかに話しかける。


「――申し訳ないけれど家名のほうで、ラフィナートと呼んでもらえるだろうか?」

「……どうして?」

「婚約者の前だし、君と私は友人でもなんでもないから、かな?」

「ぁ……あのね⁉︎ 私ゼクス君と仲良くなりたくて……だからっ」

「――ラフィナートと呼んでもらえる?」


 ゼクスはにこやかな態度で、しかし有無を言わさぬ態度で言葉を重ねた。

 そんなゼクスの対応に肩を下げたユリアはキッとリアーヌを睨みつけると嫌悪感をむき出しに言い捨てた。


「――名前も呼ばせないとか、あなたってずいぶん嫉妬深いのね」


(私が悪いんですかー⁉︎)


「ええと……?」


 ユリアの態度にリアーヌはご令嬢の仮面を取り落としながらも、必死に頭を回転させ、次に自分が取るべき言動を模索する。


(……個人的にはもう、主人公がどう呼ぼうと構わない気もするけど……――でもそれはボスハウト的にもラッフィナート的にもダメそう……――それに、ここで私が『名前で呼んでも良いですよー』とか言い出すの、絶対おかしいし……)

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