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 そんなビアンカの言葉にレジアンナを始めとした友人たちも同意するように力強く頷く。


「……うん」


 リアーヌはそう答えると、シャキンッ! と背筋を伸ばした。

 そして少し迷うようにビアンカにたずねる。


「……ずっと見てたらお行儀悪い?」

「……それは、そうねぇ?」


 ビアンカは言いにくそうに頷いた。


「ー気にはなりますけれどね?」

「……でもこんなことで悪評をたてられても……ね?」


 ビアンカと同じように苦笑いを浮かべながら同意する友人たち。

 リアーヌの気持ちもわかるし自分たちだって見ていたい……けれど、それをやるには場所も相手も悪い――と、彼女たちも理解していた。


「こう、ふーっと教室全体を見回す感じでそれとなく……」

「やめておきなさい? あなたにそれが出来るとは思えなくてよ」


 リアーヌの提案を即座に切り捨てたビアンカはそう言いながら肩をすくめる。


「――そっすね?」


 その答えとともに脱力したリアーヌは、ガクリと大きく肩を下ろし、シュン……と猫背になって唇を尖らせる。


「まぁリアーヌったら……」


 あまりの態度にレジアンナは目を丸めなて驚き、そしてクスクスと笑い出した。

 ――それに釣られるようにその場ににた者たち全員がクスクスと口元を押さえ初め――全員が、この場をなんとか和ませてくれようとしているのがリアーヌにも理解できた。


(……なんか友達って良いなぁ)


 リアーヌの心がじんわりと暖かくなり、へにょりと照れ臭そうに笑うリアーヌ。

 ――そんなリアーヌにゼクスが申し訳なさそうに声をかけた。


「リアーヌちょっといいかな?」

「――はい?」


 リアーヌは(このメンツで集まってる時に声をかけてくるなんて珍しいな?)と思いながらもゼクスのほうに向き直る。


「ごめんね、盛り上がってたのに……」


 困ったように肩をすくめたゼクスにいち早く言葉を返したのはレジアンナだった。


「まったくですわ? ……すぐに返して下さいませ?」

「もちろんです。 すぐに済ませますので……」


 そう言ってリアーヌに腕を差し出すゼクス。

 略式でもみんなに席を外す時の挨拶しやきゃ……と頭を回転させ始めたリアーヌに、レジアンナがさらに言葉をかける。


「いってらっしゃいな」

「……うん?」


 その言葉に戸惑いながらもゼクスの腕に手を伸ばし立ち上がるリアーヌ。

 このレジアンナの言動を言葉に直すのならば「挨拶なんていいからすぐに行って? ――負けちゃダメよっ⁉︎」となったのだろう。


 ――レジアンナや友人たちからは、教室の入り口に立ち、こちらを――リアーヌを挑戦的に見つめているユリアの姿がハッキリと見えていた。


「…………」

「…………」


 ゼクスの手を借りて席から立ち上がったリアーヌをビアンカが無言でジッと見つめる。

 その視線を受け戸惑うリアーヌだったが、すぐに先ほどの会話を思い出しシャキンッ! と背筋を伸ばし胸を張った。


「分かればいいのよ」

「うっす!」

「野蛮な返事はやめて」

「……はい」


 そんな二人のやり取りにクスクスという笑い声が漏れ、ゼクスもにこやかに笑いながらリアーヌの背中に手を回した。


「――断ってね」


 手を引かれながら耳元で囁かれた言葉に動揺しながらも小さく頷き返すリアーヌ。


(……よく分かんないけど私のミッションは、なにかを断ることっぽい!)


「お待たせしましたね。 ユリア譲」

「全然気にしてないよ!」


 ニコリと笑って答えるユリアにピクリと反応を見せるゼクス。

 触れ合っているリアーヌにはその反応がよく伝わってきた。


 ゼクスはユリアが貴族のご令嬢だからと礼をつくしているのに、向こうからは平民同士でやりとりをするような言葉、それも敬う気持ちのカケラもないような対応をされ、機嫌を大きく損ねているようだった。


「……こちらは私の婚約者、リアーヌ・ボスハウト様でございます。 リアーヌこちらは……」


 と、ゼクスがユリアよ紹介を始めようと手で差した瞬間、ユリアがズイッと一歩前に踏み出てリアーヌを見据えたまま、よく通る明るい声で言い放った。


「ユリア・フォレステルと申します!」


 直後に背後から感じた騒めきは、素知らぬ態度でこのやり取りに耳を澄ませていたクラスメイトたちのものなのだろう。


(……あれ? これ厳密には私紹介され終わってないような……? ――いやでもここでグジグジ言うのもなんか性格悪いとか思われそう……よし! すっ飛ばそう!)


 貴族階級の者たちには“知らない相手に話しかけてはいけない”という絶対的な常識が存在した。

 もちろんこれは建前であり、もっと人目の少ない場所や仮面舞踏会などでは無いにも等しい常識だったが、こんな場所で間に入ったゼクスがいたにも関わらず自分で名乗りをあげてしまったユリアに、リアーヌは一般的(・・・)な対応をすぐさま諦めた。


(えーと……相手が先に名乗っちゃって、でもこっちは精一杯の礼を尽くしたんですよアピールがしたい時は……――まず首を少し傾けて、口角を引き上げる――歯は見せない! そして軽く膝を折ってちょっとだけ頭を下げてからのキープッ!)


「わざわざご丁寧に恐れ入ります。 リアーヌ・ボスハウトでございます」


(1、2、3! 膝伸ばして胸も張る、頭も戻して……口角は上げるっ‼︎ ――どう⁉︎ 我ながら完璧な対処だったと思うけど⁉︎)

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