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(ここは教室で、周りにクラスメイトたちもいるから大っぴらに文句言えないのは分かるけど……――回りくどく言おうが、その意味が殆ど理解できなかろうが……怖いもんは怖いって……――その虫は絶対に主人公でしかないじゃん……)


 学園内、学生といえども貴族階級の者たちが、こんな公の場所で他人の悪口を言って笑っていた――などという不名誉なウワサを流されるわけにはいかない。

 けれどもそれはそれとして……ウワサ話も社交の、そして大切な情報収集のひとつだった。

 言葉をごまかし自分の真意を相手に伝えるすでを習得できなければ、この社交界で生きていくのは難しくなる。


(……なんとなくは理解できてるけど……――いやこの速さで喋られると理解するのが間に合わない……――ここはお口チャックの術でしのごう……――不用意に頷かないことだけしっかり心がけてればなんとかなる! ――ま、今ここに集まってる人たちは大丈夫だと思うけどねー……ただ何事も訓練! 日ごろの練習が社交界でのスキルとなるのです――ってヴァルムさん達も言ってたし! ちゃんと守りますともっ! ……それに主人公が毎日毎日教養学科に現れちゃう原因について……私には心当たりがあったりする訳で……)


 リアーヌはそんなことを考えながら、その顔に穏やかな笑顔を貼り付ける。

 そして心の中では盛大なため息を吐き出した。


 ――この世界がゲームのシナリオに沿って進んでいるのは明白であり……もはや事実だと言えよう。

 リアーヌの動きによって多少の変化はあれど、ゲームに登場していた者たちの行動理念に変化は見られない。

 ――つまり休み時間や放課後など、ゲームの中で主人公が攻略キャラクターの元に訪れるのが当たり前(・・・・)という考えを主人公が持っているのであれば、主人公はその考えの通りに動くのだ。

 ……それが例え、各攻略対象たちの事情が少しずつ変化した現在であっても――


(……ねぇ、なんでみんな毎日毎日自分の教室に留まってるの……? みんなが中庭とか校舎裏の林とか校舎の端っこの教室とか……ちゃんとそれぞれの出現場所にいてあげないから、主人公が毎日毎日教養学科の教室にやってくる――っていう異常事態になってるんじゃんっ!)


 心の中で叫びながら窓の外の穏やかな青い空を見つめ、そっと息をもらした。


(――てか、あのお助けキャラのギフトってすごかったんだなぁ……)


 リアーヌはゲームの中でかなりお世話になったキャラクター、ベッティ・レーレンのことを思い出していた。


 ――このベッティ・レーレンというキャラクターは『情報収集』というギフトが使える、いわゆるお助けキャラだ。

 大きめの丸メガネにチョコレートブラウンの髪の毛を三つ編みおさげにして、少しだけそばかすがある少女。

 彼女がメインの二次創作では、眼鏡を取って化粧したら美少女という設定が覇権をとっていた。

 ゲーム内では一日に三回、主人公が知りたい情報を教えてくれるというキャラで、攻略対象たちがどこに出現するかや、現在の好感度等を教えてくれる存在だった。


(……ただ、これって実際現実になると、どういう扱いになってるんだろう……? 主人公がここに現れてるってことは、居場所は分かってるんだろうけど――このリアルな世界での好感度って……数値化できるもの……? それとも情報収集のギフトがあればそれもなんとなく分かるのかなぁ? ――私が使えるギフトだって、なんでなのかなんか全くわからなくても、そういうもんだって理解出来ちゃうものは多いし……――ギフトなんてそんなもんなのかな?)


「――あら……ウワサをすれば」


 ビアンカの声が聞こえ、みんなが一斉にビアンカの視線の先を見つめた。

 ――教室と廊下を隔てる壁、そしてそこに付いた窓――その窓越しに見えたのは話題の人物であるユリアで……レジアンナやその後友人たちは一斉に口元や前髪に手をやって、顔が歪むのをごまかした。


(……こんな時、社交界でのセンスって便利だよね? すぐに顔を隠せるもん。 ……私なんかずっと装備してたいぐらいだもん……)


 そう考えながらも、リアーヌも思わずしかめそうになった眉に力を込め、下がりそうになった口角を気合で持ち上げた。


 チラチラとガラス越しに様子を伺っていると、ユリアは廊下の出入り口付近にいた生徒に声をかけ、ペコペコと頭を下げている。

 声をかけられた生徒は渋々……といった態度で、ある人物に近づいて行った――


「……ぇ?」


 リアーヌが戸惑いの声をもらす中、その生徒は言いにくそうに声をかける。


「――ラフィナート男爵、お客人です」

「――……わざわざありがとう。 ごめんねぇ?」

「……いえ」


 そんなやりとりのあと、ゆっくり席から立ち上がるゼクス。


(――これはつまり……ユリア、攻略相手を変えた……?)


 リアーヌが呆然とその行動を見つめていると、それに気がついたゼクスが困ったように眉を下げながらピラピラと手を振った。


「っ……!」


 そんなゼクスの行動に思わず顔を背けてしまうリアーヌ。

 盗み見していたのに気がつかれて、気まずい思いがあったからなのかもしれない。


「……あからさま過ぎよ?」


 リアーヌの態度をたしなめるようにビアンカが肩をすくめる。


「や、なんか……咄嗟に、マズい⁉︎ って思っちゃって……」

「……仕方がない部分ばあるとは思いますけれど――あなたはシャンと胸を張っていなさい? あなたが婚約者。 相手はそれを知りながらちょっかいをかけてきている(やから)でしてよ。 あなたが引く理由なんてどこにもないわ」

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