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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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 お茶会帰りの廊下を、リアーヌとビアンカは並んで歩いて行く。


「騙すような真似してごめんなさいね?」


 ビアンカは隣を歩くリアーヌに向かい、気まずそうにソッと謝罪した。


「あー……そりゃ最初はビックリしちゃったけど、なんの問題も起こらなかったし、それにあんな綺麗な氷の花も見せてもらったし……――私、今日初めて「お茶会って意外に楽しいのかも」って思えたから……今日連れてきてもらえて、よかったと思ってるよ?」


 リアーヌは少し言葉を選びつつ、しかし本心からそう答えた。


「――今日の主催者のパトリック様はうちの隣の領土のご嫡男で……パラディール様の側近候補なのよ。 うちとしてもパラディール家との関係を悪くするわけにもいかなくて……」

「――でもビアンカは派閥とかに入ってないよね……?」


 派閥に入っているわけでもないビアンカが、どうしてパラディール家との関係を気にするのかが理解出来ず、大きく首を傾げながらビアンカの横顔を見つめた。


「――パラディール様の派閥には入ってはいないつもりよ? ……でも私が他の派閥に入るわけにもいかないの。 ――どう言い繕ったって、うちはパラディール家からの庇護を失うわけにはいかないから……」

「……でも国境を守る貴族は大体一つ分くらい爵位が上の扱いを受けるんでしょ……?」

「……上の扱いを受けられても子爵だということに変わりはないし――我が領土で重大な問題があったら……王家よりもパラディール家に助けを求めるほうが早くて確実なのよ」

「あー……」


(それは簡単に逆らえなさそう……――っていうか、その状況下でなんで派閥に入っていないの……?)


 その顔をチラリと見ただけで、リアーヌの疑問が手に取るようにわかったビアンカはため息をつきながら肩をすくめた。


「入っていようがいまいが……他に入ったら家に迷惑をかけることになるもの。 ――お誘いを受けず、勝手にさせてもらってるほうが私としては気楽だから……出来ることなら卒業までこの立ち位置を守りたいわ」

「――なんか……優しいんだか恐ろしいんだかよく分かんない対応だね……?」


(派閥に入らなくても嫌がらせするわけじゃないけど、よそに入ったらお家を巻き込んだ嫌がらせ……? どんな思考回路でその考えに至るんだ? ……でも、ビアンカは今のままがいいわけで……じゃあ、フィリップは正解の対応をしてくれている……?)


「――正しく私たちの相性を理解しているのでしょうね。 馴れ合うには反りが合わず、かといって離れるわけにもいかない――」


 そう言ってビアンカは大きくか首をすくめながら苦々しく笑った。

 初めて見る歪んだ笑顔だったが、リアーヌは(その笑顔の方がビアンカっぽいなぁ……)と話とは関係ないことを思っていた。


「……――え、反り合わないの?」


 違うことを考えていたリアーヌはワンテンポ遅れて理解したビアンカの言葉にギョッと目を剥く。


「――嫌いなのよね。 自分が世界を回せると(おご)ってる男って」

「――侯爵家嫡男だもんねぇ……?」


(実際、一瞬とかなら回せちゃうくらいの権力者よね……⁇)


 リアーヌの相槌にビアンカは忌々しそうにフンッと大きく鼻を鳴らした。


(――本気で嫌いじゃん……)


 珍しく感情をむき出しにするビアンカに驚きながらも(ここまで気を抜いてくれるってことは、ある程度は信用されてる……ってことじゃなーい?)と考えたリアーヌは、ニヨニヨと歪みそうになる唇をグッと噛み締めながら、手で前髪や襟元をいじったり、庭を見るようにしつつ、そのニヤケ顔を隠すように廊下を歩いてゆく。

 しかし自分たちが歩いて行く通路に少しずつ他の生徒の姿が見えてきたところで、リアーヌはいまだに不機嫌オーラ全開のビアンカを少しでもなだめようと、楽しい話題を振った。


「――さっきの……ラルフ様? の氷の花綺麗だったねぇー?」

「……ベルグング様よ。 許可をもらってないのに勝手に下の名前で呼んではいけないし、そもそも殿方の名前を軽々しく呼ぶのもよろしくはないわ」

「――え、マジ……?」

「……――分かりやすく答えるなら、大マジ」


 ビアンカは目をグルリと回しながら、わざと乱れた言葉づかいで答えた。

 いちいち指摘していては話が前に進まないと判断したのかもしれない。


(……えっ本当に? ――だって主人公はルートに入ってない攻略対象者の名前でも、普通に呼んでたけど……しかも呼び捨てで――あれ……? もしかしてあの主人公の評判って実はあんまり良くなかったり……⁇ ――いや、そもそもこの世界がゲームの世界と全く同じではない説?)


「……確かに、あの花だけは素晴らしかったわね」


 神妙な顔つきで俯いてしまったリアーヌが、自分の指摘で落ち込んでしまったと勘違いしたビアンカは、少しだけ気まずそうにリアーヌの最初の話題に対しての答えを返した。


「――え……あっ、だよね⁉︎」


 この世界の根本について考え込んでいたリアーヌはビアンカの言葉に慌てて同意しながら、その考えを一時停止させる。

 今考えるよりも家でゆっくりと考えた方がいいと判断したようだった。


「いいなぁ……」

「あらコピーを持ってるのに、あちらの方がよろしいの?」

「だって綺麗なのもそうだけど……これからどんどん暑くなるじゃん?」

「……まさか」


 隣を歩くリアーヌの発言にある程度の察しがついてしまったビアンカは少しだけ歩みを遅くしながら、片眉を引き上げてリアーヌの顔を見つめた。


「あの力があったらかき氷食べ放題だし、いつでもどこでも涼みたい放題だよ?」

「思った以上のぶっ飛んだ意見だったわね……教会の関係者に聞かれたら大問題よ……」


 そう言いながらビアンカは急に襲ってきた頭痛に耐えるように額を押さえた。


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