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 フィリップたちとて、すぐに信じたわけでも現在この説を信じ切っているわけでもなかった。

 ――しかしほかの仮説では説明がつかないのもまた事実であった。


「豪運……」

「ビアンカ嬢の話では、子爵はギフトの力のみで社交をこなしていらっしゃるらしい」

「――運だけで社交を……?」


 疑わしげなレオンにフィリップは困ったように首をすくめた。

 どれだけ質問を重ねられたところでフィリップの答えは変わらない。


「ごく稀に存在する『アクティブ型』と呼ばれるギフトの持ち主なのではないかと結論づけたが……真実がどうなのかまでは、な?」

「アクティブ型……――常にギフトの力を使い続けている……?」

「豪運を常に、だ」

「それは……」

「恐ろしいことだとは思わないか? 子爵に『あいつは邪魔だ』などと思われた日にはどんな目にあうか……」

「――それが真実だとして……ラフィナートはよく無事でいられたな……?」

「……よほどの条件を出したんだろう。 ――およそ他の貴族では飲み込めないような条件を……」


 どことなく不機嫌そうになったフィリップに戸惑いながらも、レオンは疑問を口にする。


「なにか聞いているのか?」


 レオンの言葉に、フィリップはチラリとパトリックに視線を送る。

 その視線に気がつき、軽く頷くとレオンに向かって静かに口を開いた。


「私の婚約者、ビアンカはリアーヌ嬢と仲が良く、そこから得た情報です。 ですがことがことですので、ビアンカもあまり詳しくは聞いておらず、そしてまた私に詳しく話すことも良しとしておりませんので、あくまでも予測(・・)なのですが……」

「構わない。 聞かせてくれ」

「社交は最低限、しかもリアーヌ嬢の同意が必要。 実家訪問は自由――などの条件は入っているかと……」

「実家ははともかく社交は……」


 無理だろう? と言外に問いかけるレオンにフィリップは肩をすくめながら答える。


「――男爵という立場をフルに利用するつもりだろう」

「――男爵……なるほど?」


 この国では、騎士や平民から男爵に叙勲される者が少なくはなかった。

 そのため男爵家の社交において、とあるルールが法律により定められていた。


『全ての社交場において、男爵家の奥方に限りその同行を強要してはならない』


 ――これは夫の叙勲により急に貴族の知識を身につけなくてはならなくなった奥方への配慮でもあり、確実につけいられるであろう奥方を遠ざけることにより、出来たばかりの男爵家を不埒な輩から守るためでもあった。

 

「だがそれは……建前に過ぎない」


 レオンが眉をひそめるながら言う。

 ――この法律があることは事実だが、この法律を盾に社交場を辞退した男爵家の存在を、レオンは聞いたことがなかった。


「……だが法律は法律だ。 それにアイツにとって――いやラッフィナートにとって男爵家は、あくまでも本家ラッフィナート商会への風除けだ」

「……つまり?」

「潰されるなら潰されるで構わないのさ。 ――目的は果たしたんだろうからな」

「……だから社交などしなくとも――か?」

「ああ……――ボスハウト家はそれを良しとした……悔しいがこの条件では食い込めん」

「潰しても構わない家だからこそ、か……――ラッフィナートの目的は後ろ盾か?」

「だろうな。 王家からのヘイトを逸らす目的もあっただろうが……――一番は手を組んめて、ある程度の肩書を持つ家……」

「ボスハウトならば申し分ない……」

「……忌々しいが、すでにラッフィナート本家が貴族になろうとも、大きく揺らぐことはあるまい。 すでに来たる日に備え金を蓄えている真っ最中だろうさ」

「国中に販路を持つ商会が貴族……――厄介なことですね」


 顔をしかめるレオンにフィリップも同意するように大きく息をつく。


「――そうなると分かっているんだ。 せいぜい今から、むしり取る算段でも始めようじゃないか」

「……これはこれは、将来は立派な狸に化けられそうですね?」


 フィリップの言葉を茶化すようにレオンは笑う。

 そんなレオンにフィリップもクツクツと笑いながら冗談めかして返した。


「おや、これは嬉しいことを。 私も古狸と罵られるほど、長く王城で活躍したもしたいものでございますとも」

「――それは同意だ」


 レオンはやけに真面目な顔でフィリップに答え――可笑しそうに笑い出す。

 その笑いはフィリップ、そして二人の会話を聞いていた友人たちにまで広がり、サロン内には楽しげな笑い声で満ちたのだった――

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