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 そんな二人のやり取りに、サロン内の空気が柔らかくなる。

 ぐぬぅ……と顔をしかめているリアーヌに、おずおずと声をかけるレジアンナ。


「リアーヌ、気を悪くしまして……?」


 その言葉で、リアーヌはようやくレジアンナが自分を傷つけていないかどうかを心配しているのだと気がついた。


「え……――あー、ちょっといたたまれない気持ちになったけど……でもそれは自業自得だし……――私としてはそれを鼻で笑ったビアンカの方がヒドイと思ってる」


 後半部分は声をひそめ、口元に手を添えてヒソヒソと話すが、ビアンカに話の内容を隠すつもりはさらさらなかった。


「あら、フォローでしたのに……」

「ふぉろぉー?」


 リアーヌはビアンカの言葉を聞き、イヤそうに顔をしかめながら同じ言葉を繰り返す。


「……そんな顔してると、またすぐに言いつけられるわよ」


 ビアンカはニヤッと笑いながら、視線をリアーヌの後ろ、オリバーのほうに流す。


「あ、それはダメ」


 シャキン! と音がするほどに素早く、背筋を伸ばしたリアーヌは、すぐさまその顔にも笑顔を浮かべて見せる。

 しかしその後ろでは、オリバーが小さく首を振っていたので、今回もきちんとした報告(・・)がなされるようだった。


「――その点、ボスハウト家の教育は完璧ですわね」


 肩をすくめながらクスクス笑うビアンカを横目に、レジアンナは不安そうな瞳でリアーヌを見続けている。


「リアーヌ、あのね……?」

「――気になんてしてないってば! ……そんな顔してるとレジアンナもお家の人に言いつけられちゃうよ?」


 リアーヌは揶揄うような視線で答える。

 そんなリアーヌに、ようやく安心したのか、レジアンナもニマリ……と笑顔を浮かべ、急にシャキン! と背筋を伸ばした。


「――それはイヤ!」

「おやおや……」


 そんな態度のレジアンナにフィリップだけではなく、他の者たちもクスリ……と微笑ましいそうに笑みを漏らすのだった――



 会話がひと段落つき、皆が次の話題を探り始めた頃、ゼクスがリアーヌに向かってたずねていた。


「――リアーヌはどう思う? 彼女教養学科入れそうかな?」

「……入れそう、ですよね?」


 リアーヌは心の中で(だってゲームでは二年から教養学科に編入してたし……)と続けながら答える。


「……そう思う理由とかある?」


(理由? 理由――そういうシナリオなんで。 とは言えないから……)


「……私でも頑張れたから……?」

「あー……ね?」

「……どうして私はあなたより成績が悪いのかしら……」


 リアーヌの言葉にゼクスが答えにくそうに言葉を濁し、ビアンカは深いため息とともに項垂れた。


「ビアンカ気をしっかり……」


 隣ではビアンカを気づかうようにパトリックがその背中に手を添え、元気づけようとしており……

 リアーヌはそんな二人のやり取りを見て、面白くなさそうに顔をしかめた。


「頑張った結果だもの……」


 そんなリアーヌに、ゼクスは少し遠慮がちに声をかける。


「……あの子、リアーヌみたいに頑張り屋さんだと思う?」

「さぁ……? でも教養学科には入れる気が……」


(普通にゲームで編入してたし……)


「――そう、なのかな……?」


 リアーヌの言葉にあごに手を当てなにやら思案顔のゼクス。


「――無理だと?」


 そんなゼクスに、フィリップはカップを傾けながら視線すら投げずに質問をぶつける。

 そしてゼクスのほうもフィリップを一瞥すらしもうともせずに、そのままの態勢で答えた。


「彼女には(・・)そのツテも、おそらく手段も無いでしょう」


 平民であり、これまでに大した教育を受けずに入学してきたユリア。

 教養学科に入るためには、全ての知識が不足しているという情報をゼクスは掴んでいた。

 それを覆すのであればかなり高位の者が動かなくてはならなかったのだが……

 そんな存在と彼女が接触したという情報は、憶測やウワサのレベルですら聞いたことがなかった。


「……教養学科を目指すつもりはあるのに寮生活を選んだんですのね……」


 パトリックの優しい気づかいにより、そのメンタルを回復させたビアンカ。

 不可解そうに眉をひそめながら言う。


 マナーや立ち振る舞いなどの知識を学習するならば、フォルステル家が所有する邸から学院に通ったほうが、誰がどう考えても効率的だった。


(私だってそのほうがいいとは思うけど……――その辺はねぇ……? シナリオでそう決まっちゃってるから。 あの子の私物とかが盗まれたり、部屋が荒らされないと進まないストーリーがあるから……――まさかご令嬢たちをフォルステル邸に忍び込ませるわけにはいかないし……)


「――それも専門学科の生徒に貸し出されている、ずいぶんとコンパクト――その、一般的な部屋のようだ」

「……ではダンスの練習は全くなさらない……?」


 レオンの言葉にクラリーチェが反応する。

 教養学科に入るならば社交ダンスも必須科目であった。


「……だが、彼女は教養学科に入る――可能性が高い」


 フィリップはチラリとリアーヌに視線を向けた後、重々しくそう言った。


(――ん、待って? 待って待って? え、これ入るみたいな空気になってるの私が入るって言ったから? 嘘でしょ……? ――え、最初にウワサだけどとか、勘ですけどとか付け加えなかったから、ボスハウト家がなにか情報を持ってると思われたってこと⁉︎)


 慌てて訂正しようとするリアーヌだったが、リアーヌが動きを見せるよりも前にレジアンナが思い切り顔をしかめながらイヤそうに口を開いた。

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