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「――リアーヌ嬢のスキルは、平面のもの以外も複製出来てしまうのでしょうか?」
ウソを見抜けるギフトを持つイザークが、ニコリと微笑みながらたずねる。
「平面?」
「例えば――この食器を食器としてそのままコピーしてしまえる――とか?」
「あー! それは無理ですねぇ。 どんなものに写しても絵のようにしかなりません……」
リアーヌは残念そうに眉を下げながら首をすくめた。
(子供の頃お菓子や食べ物がコピー出来ていたなら……! ――兄弟喧嘩のほとんどの原因がお菓子だったもんなぁ……)
「――では、物体ではなく……『ギフト』自体、なんてものは写せてしまうのかな?」
フィリップが手に持つカップを傾け、中身の紅茶が作る波紋に視線を落としつつ、チラリとリアーヌを盗み見ながら言う。
その言葉でフィリップの真意をようやく理解したビアンカは、いつもの綺麗な微笑みを驚愕の表情で崩して、リアーヌの横顔を凝視した。
「ギフトを、ですか……?」
少し眉をひそめながらも、フィリップの質問に可能性があるのかを考え込む。
しかしすぐに息を吐き、小さく肩をすくめるとあっさりと答えを口にした。
「無理じゃないですか? そりゃ試したこともありませんけど……――だってそんな話、聞いたことありませんし」
(そんなチートスキルがあったなら、絶対ゲームに出てきてたでしょー。 それこそ最後の黒幕とかが持ってそうなギフトじゃん……)
「――一度試してみては? 幸いリアーヌ嬢はラルフのギフトを気に入ったご様子でしたし……」
「ええ……?」
パトリックの言葉にリアーヌは小さな戸惑いの声を上げる。
(試せって言われたって……一体何をどうすればいいのよ……?)
「……とりあえず試してみて、ムリならムリと言えばいいのよ。 お遊びのようなものなのだから」
困惑するリアーヌにビアンカが優しく声をかけながら、チラリとフィリップやパトリックたちに鋭い視線を投げつける。
――ビアンカの実家であるジェネラーレ家は、その立地的にパラディール家の不興を買うわけにはいかない。
……いかないのだが、このような騙し討ちのように招待客を隠した茶会に友人を連れてこなくてはならず、イタズラなどという言葉ではすまされないレベルのやり取りを仕掛けられ、腹の中で怒りの炎が渦巻いていた。
(リアーヌのギフトを未来の側近たちに見せ、今後取り込むかどうかを決める――程度のことだと思っていましたのに……まさか招待客を尋問しようだなんて! なにをさせたいのか知りませんけれど――私の友人と知っていながら随分な対応をしますわねぇ……? 我が家ならばこの程度のこと飲み込むだろうと――舐められているのかしら……?)
「とりあえず……?」
そんな周りの思惑など、全く見えていないリアーヌは突然湧いて出た無茶振りとも呼べる提案に眉を寄せながら、一人苦戦を強いられていた。
(――いつもコピーする時は、ジッと見て写す場所に手をかざす。 ……氷の花を出すところはしっかり見てたんだから、写せるならばもう写せる状態……? じゃあギフトのコピー先は? ……私自身⁇)
そこまで考えたリアーヌは(――ま、頑張ったところできっとムリなんだけどねっ!)と、多少のヤケを起こしながらも、目を閉じ頭の中でラルフがギフトを発動させた場面をしっかりと思い返しながら、自分のお腹に両手を置いて、ギフトを自分に写しとるイメージを強く想像しながら力を発動させようとした。
「んんんんーっ⁇」
しばらくの間、息を吸うことも忘れてギフトを発動させようと頑張ったリアーヌだったが、その力が発動することはなく、限界を迎えたリアーヌが大きく息を吸い込むと同時に、ギフトのイメージや集中力が体の外へと漏れ出てしまうのを感じていた。
そして軽い酸欠状になりながら、肩で大きく息をつきフィリアたちに向かって苦笑を浮かべる。
「――やっぱり無理みたいです」
少しバツが悪そうに眉を下げるリアーヌにフィリップは少し残念そうに答えた。
「そうですか……」
しかし次の瞬間にはにこやかな笑顔を貼り付け、リアーヌの身体を気づかって見せるのだった――
それからのお茶会は、リアーヌとっては楽しいお茶会だったが、それ以外の者にとっては上辺だけ取り繕った、舞台上で芝居しているかのような、そんなお茶会となった。




