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「……私そんなつもりじゃ」
レオンの言葉に、視線を揺らしながらふるふると首をふるクラリーチェ。
数日前にユリアのことで意見したのが原因だと考えたようだった。
それは自分の気持ちに折り合いをつけるため、そしてレオンとデートすることが目的だったのだが、そのことが原因でレオンがこんなことを言い出したのでは……? と心を痛めていた。
「――それだけが原因じゃない。 しかしあの時、婚姻やそれに酷似した関係性を提示されて分かったんだ。 ……私は彼女といま以上の関係を築くつもりは無いんだと。 ――私の未来は君と共にあるものだ。 そこに他の女性は必要ない」
クラリーチェの手に重ねていた手に力を込めながらレオンは真摯な態度で説明の言葉を紡いでゆく。
「レオン様……」
そろりと視線を上げたクラリーチェに優しく微笑みかけ大きく頷く。
そんなレオンの態度に、クラリーチェは大きく息を吸い込み、覚悟を決めたかのように力強く頷き返すのだった――
「――本気なのかい……?」
そんな二人のやりとりにフィリップは戸惑った声でレオンに声をかけた。
(……まぁ、大丈夫なんじゃない? 他ルートや友情エンドでもレオンが王太子になってるっぽいよね! って意見めっちゃ多かったし……オタクの願望かもだけど……)
「――私は彼女と恋仲になるつもりはない。 今の関係性で充分に満足だ」
スッキリとしたようなレオンの言葉をなかなか受け入れられないのか、フィリップは目を瞑りながら軽く頭を振った。
「……参ったね。 レオンにはもうしばらく彼女を繋ぎ止めておいて欲しかったんだが……」
弱りきったフィリップの言葉に、レジオンが面白くなさそうに目を細め、フンッと、小さく鼻を鳴らした。
「……レジアンナ分かって欲しい、これは政治なんだ。 ――あの力をよそには渡せないんだ」
フィリップはレジアンナに向かい、優しく語りかけるが、その言葉にいち早く答えたのはレオンだった。
「そうは言いますがね……――彼女に“レオン君”などと呼ばれる私の身にもなっていただきたい……」
「――……それは、まぁ……」
フィリップはレオンの言葉に、返す言葉が見つからず、言葉を濁すことしか出来なかった。
「――なんて、ずうずうしい方! 大っ嫌い‼︎」
「こらえておくれ、レジアンナ……」
とうとう怒りの感情を隠そうともしなくなったレジアンナを、フィリップは困りきった様子で嗜める。
しかしそんなフィリップの言葉にも、レジアンナはツンッ! と、そっぽを向いて、どうにも怒りが収まらない様子だ。
「――しかし……さすがにそのような態度をほっておいては、ゆくゆくはパトリオート家とフォルステル家間で問題が起きてしまうのでは……?」
言い争いを始めそうな二人にむかい、パトリックは、話題を変えるように疑問を投げかける。
レジアンナもその話題は気になったのか、いまだにそっぽは向いたままであるものの、チラチラと他の参加者たちの顔を盗み見て、答えを待っているようだ。
「――フォルステル家としては、かのギフトを最大限に使うと思いますが……」
パトリックの投げかけた話題に最初に乗ったのは婚約者であるビアンカだった。
自分の意見を出しながら、視線で他の参加者の答えを促す。
「……――だとすれば、なぜフォルステル家は彼女を私に近づける……?」
どこか警戒したようなレオンの言葉に、参加者たちの間に緊張が走る。
(――あ、そっか。 なんかもう周りのほとんどがそう認識してるから忘れがちだけど、この人王子だってこと隠して生活してる人だったわ。 ……つまりレオンたちはユリアが――フォルステル家が――レオンが王子だって知ってて接触して来ている、と疑ってるってことか……――そんなの絶対勘違いで、好感度稼いで恋愛ルート行きたいだけだと思うけどー……――あれ? ユリアって……もうスクラップブック隠されたの……?)
リアーヌはレオンルートのシナリオを思い返しながら首をしきりに傾げていると、こちらを見つめているビアンカとパチリと目があった。
そしてビアンカはリアーヌの目を見つめたまま口を開いた。
「――案外、人手が足りない――などという理由かもしれませんわよ?」
(――なぜ私を見てそれを言ったんだね? 人手が足りないのは護衛関係だけの問題で、ヴァルムさんたちはちゃんと教育してくれたんだから! ……私がちょっとズルしただけで……ーーちゃんと教育はちゃんとしてくれてたんだからっ!)
ビアンカの言葉にブッスリと頬を膨らませたリアーヌの表情に、クスクスと忍び笑いが聞こえ、ピリついていたサロン内の空気が柔らかいものになった。
「――あー……ウワサ程度の情報ですが……」
軽く手を上げながら、ゼクスが言った。
「……なにか情報が?」
ピクリと反応を見せたフィリップが、探るような視線でゼクスを見つめた。
「あくまでウワサ程度ですが……」
「――お聞きしたいわ?」
あくまで“ウワサ”だというスタンスを崩さないゼクスに、瞳を輝かせたレジアンナが話の続きを促した。
(レジアンナって意外にゴシップ……っていうか、ウワサ話好きだよねぇ……――私も嫌いじゃないけどー)
「同級生の話では、彼女自身が断った、と言っていたそうです」
「……断る? つまり――フォルステル家が付けようとした……――専門学科に入学できるメイドか護衛、ということですわよね……?」
レジアンナは戸惑いながら確認するように質問を口にする。




