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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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「……もう少し考えてから口を開きなさい?」

「すみませぬ……」

 

 微妙になってしまった空気の中、ゼクスにも聞こえるような声でやんわりとたしなめるビアンカの言葉に、リアーヌはションボリ……と肩を落とした。


「……あちらでしょう?」


 ビアンカは呆れた顔をリアーヌに向けると、ゼクスにチラリと視線を流した。

 その視線に釣られるようにゼクスを見たリアーヌは、面白くなさそうな顔つきで自分たちを見ているゼクスと目があう。


「あ、あの……」


(――考えてみれば、婚約者が婚約者に向かって「あのお茶会、お見合いだったんです?」ってとんでもないな……⁇)


「――反省したんですかぁー?」


 チラチラと自分を見つめてくるリアーヌに、ゼクスは不機嫌であることを隠そうともせず声をかけた。


「はい……」


 神妙に頷いたリアーヌだけは気がついていなかったが、ゼクス口元は歪んでいてニヨニヨと笑いそうになるのを堪えていてるのが他の参加者からは丸見えだった。

 ゼクスがオロオロと戸惑っているリアーヌを見て溜飲を下げていることを理解した彼らは、あまり褒められた行為ではないその対応に、呆れたように肩をすくめ合っていた。



「本当?」

「はい」

「――今日デートしてくれたら許してあげてもいいけど?」

「今日⁉︎」

「明日じゃ許してあげなーい」

「ええ……」


 困惑した声を出しながら、リアーヌはオリバーのほうをチラリと振り返る。

 オリバーは困ったように笑いながらコクリと小さく頷いた。


(……その頷きは「行ってもいいよ」ってことですよね……?)


 その視線を追うようにオリバーが頷くのを見ていたゼクスは、不機嫌そうな顔つきを取り繕いながら、リアーヌに声をかける。


「――行く?」

「……はい!」


 元気よく返事をしたリアーヌの笑顔に少しドキッとしてしまったゼクスは、それをごまかすためにリアーヌからそっと視線を外した。


(――えっ⁉︎ この返事じゃないの⁉︎ ……一言なのがいけなかった……?)


「……楽しみです?」


 自分の反応を伺うように言葉を続けたリアーヌに、少しの意地悪心が芽生えてしまったゼクスはもう少し様子を見ようと、リアーヌからの言葉を待つことを決めた。


「…………う、うれしいなぁー⁇」


 視線を揺らしながら喜んで見せるリアーヌに、ゼクスは口元や鼻をいじるふりでその口元を隠し、によによと歪む口元をごまかした。


(――え、なに⁉︎ ゼクスは一体なんてを言って欲しいの⁉︎ ……喜んでますってのが伝われば良い訳ではない……? いやでも他にかける言葉なんて予想もつかないし……――ゼクスが喜んでるのをマネしたら、嬉しいって気持ちが伝わったり……⁇)


「……や、やった!」


 リアーヌは小さな握り拳を作りながら、はにかむように笑って見せる。


 それがリアーヌにとって、ゼクスが今までに見せた『嬉しい』を表現する表情だったのだが――


 リアーヌがそう言った瞬間、背後から「ぐふっ!」と、思わず吹き出してしまったかのような声が聞こえ、そちらに視線を向ける。

 しかし、その後音が聞こえた場所にはゼクスの護衛が素知らぬ顔で立っているだけだった。


(……え、今のが聞き間違いってことは無いよね? だって他の人たちだって反応してたし……)


 キョトンと目を丸くするリアーヌの耳に、不機嫌そうなゼクスの声が聞こえて来た。


「――もしかして、いまのって俺のマネだったりする?」


 初めはそのことに気がつかなかったゼクスだが、護衛の反応を見てリアーヌの仕草や言い方に心当たりがあったようだった。


「……――まさか?」


 ゼクスの不機嫌そうな様子に(あ、これじゃなかったわ……)と察したリアーヌは咄嗟に素知らぬ顔を作ってウソをつく。

 しかしその仕草は、ごまかしています! と全力で主張するもので……白々しい……と、ゼクスは目を細めた。


「ふぅーん?」

「……本当デスヨ?」

「へぇー⁇」

「……ウソじゃないもん……」


 その二人のやり取りが、そろそろ貴族の茶会には不釣り合いになって来た頃、フィリップが肩をすくめながら口を開いた。


「いやいや、仲睦まじいことだ。 こちらまで当てられてしまいそうだよ」

「どの口で……」


 フィリップの言葉に、ゼクスは顔を背けながらごくごく小さな声で非難の言葉を口にする。


「紳士たるもの、淑女を困らせるものではないと思うがね?」


 少々人の悪い微笑みでからかうように言うフィリップに、ゼクスはヘラリと笑みを貼り付け、気の抜けたような態度で返した。


「そうですねー」


 ゼクスのおざなりな返事に、ギリリッと手を握りしめるフィリップだったが、が、すぐさま気を取り直し、隣に座るレオンに向かって話しかけた。


「ラフィナートが降りると言うなら、我々の勝率も上がったんじゃないか?」


 その言葉にレジアンナが不服そうに眉を跳ね上げる。

 しかし、レジアンナが口を開くよりも先にレオンがその言葉をやんわりと否定した。


「――いえ、私にも過ぎた力でしょうから……」


 その発言に、誰よりも先に反応を見せたのはクラリーチェだった。


「レオン様⁉︎」

「――いいんだクラリーチェ」

「けれど‼︎」


 なおも言葉を重ねようとするクラリーチェの手にそっと自分の手を重ね、ジッと瞳を合わせたまま、レオンはもう一度「いいんだ……」と口にした。

 そしてフィリップに視線を移し、キッパリと宣言する。


「――もうすでに友好関係……に近い関係性を築けていると思います。 ……現状は維持しますが、これ以上の関係性を私は求めておりません」

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