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◇
「――は……?」
もはや恒例行事となったパラディール家主催のお茶会。
レオンとクラリーチェも参加しており、この二人は固定メンバーとしてこれからも参加するのだろう――
そんなお茶会のホストであるフィリップは、およそ貴族階級の者としては不適切な声を発し、その原因となったゼクスをポカン……と見つめていた。
「だからぁ……」
対するゼクスの方も、普段社交界では決してしないであろう口調で話し始める――
これらのことに対し、他の参加者たちもなにも言わないどころか、気の毒そうにゼクスに同情の眼差しを向けている。
それほどまでに、ゼクスが受けた行為は屈辱感なものだったようだ。
「代理人って名乗る子がやって来たと思ったら、挨拶もそこそこに「手違いで出席出来なくなっちゃったみたいで……すみませんでした!」って伝言を貰ったんですぅー」
よほど呆れているのか、言葉づかいも態度も社交としては不適切としか言いようがないものだったが――犬猿の仲であるフィリップですらそれを指摘しようとは思わない程度には衝撃的な発言だったようだ。
「……本当なの?」
あまりのことに、小声でその場に同席していたであろうリアーヌにたずねるビアンカ。
この行為も褒められたものではないのだが、確認せずにはいられないほどには、ユリアの対応は無礼極まりない対応だった。
「……まぁ……?」
なにかを含みまくっているリアーヌの答えに、ビアンカの眉間にシワが寄る。
「……違いますの?」
「……違いはしないんだけど、ね……?」
そう答えながらリアーヌは助けを求めるようにゼクスに視線を向ける。
しかしゼクスの反応は、投げやりな態度で肩をすくめるのみだった。
(――それは、詳しく話してもいいってほうですか⁉︎ それとも詳しいことはボカしとこう? のほうですか⁉︎)
「――どうなんだ?」
そのやりとりを見ていたフィリップが、見かねたようにゼクスに向かって質問する。
その言葉に大きなため息をつき、ゼクスは投げやりな態度のまま口を開いた。
「その代理人、その伝言を伝えたあとも帰る気配が全く無くて? 仕方がないからその子ともお茶したら「次は必ず連れて来ますから!」って宣言されて⁇ ――あいさつもそこそこに帰って行かれましたぁー」
(……――多分この「挨拶もそこそこ」っての“礼儀知らずな挨拶”って意味で使ってるんだろうなぁ……――私から見てのそこそこの出来だったんだから、ゼクスから見たらそこそこ以下だろうしー……)
「――それはなんとも……」
話を聞いたフィリップは、居心地が悪そうにそう返すと、ゼクスに憐憫の眼差しを向ける。
――これはフィリップが初めてゼクスに向けた気づかいだった。
「ははっ……――俺が男爵だからってナメてんのかね? ……こちとら現役だっつの……」
一際低いゼクスの声がサロン内に響く。
たしなめる者はおろか、視線を向ける者ですら少人に留まった。
「……ごめんなさい」
シュン……と肩を落としてながら呟くリアーヌに、ビアンカの瞳がこれでもかというほど大きく見開いた。
「――あなたなにやりましたの?」
「……席、勧めたの私だから……」
リアーヌの小さな呟きに、ゼクスは困ったように笑うと、気づかうように優しい声で話しかける。
「……あれはしょうがないよ。 あそこでこっちから「ではお帰り下さい」とは言いづらいし……――次の約束と貸し1押し付けられたんだから、悪くはない結果だったと思うよ?」
「……はい」
「――気にしないのー」
ゼクスは浮かない顔のリアーヌを元気付けようと、くすぐるようにリアーヌの頬を撫でた。
リアーヌが顔を上げ、目が合うとすぐさま「リアーヌには怒ってませんー」と冗談めかして伝える。
(――あ、ユリアかあの娘には怒ってるんですね……?)
そう考えながら顔を引きつらせたリアーヌをどう思ったのか、ゼクスはビアンカに視線を向け質問を投げかけた。
「――もしビアンカ嬢ならば、代理人が伝言を伝えた後も、その場にずっと立っていたらどうなさいます?」
「……それは、まぁ「お疲れでしょうから、お茶でもいかが?」……とかでしょうか?」
ビアンカは迷いながらも、そんな場面でかけるべき答えを探す――
だが、心の中では(そんな代理人がいるのだろうか?)と疑問に思いながらも。




