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冬休暇明けにリアーヌから同じ話を聞いたビアンカも、素晴らしい考えだと感じ、レジアンナと同様の願いをリアーヌにしていた。
しかし、いざ両親に話を通し正式に稼働させようとした矢先――誰を責任者にするのか? と、ジェネラーレ子爵の部下と時期ジェネラーレ子爵の部下が水面下で争いを始め、分家の者たちまでもその話に加えろと横槍を入れはじめ――結果、ビアンカの実家ジェネラーレ領では時期尚早、という結論にたどりついていたのだった。
『……いい案だからと、急性に進めるものではないわね……――けれど、今から話と筋を通しておけば、兄が跡を継いだ何年か後には実現しそうよ』
とは、後日その騒動を語ったビアンカが漏らした言葉であった――
「……なるほど。 ――そうね、そうなってもおかしくないわね?」
ビアンカの説明で大方の事情を把握したレジアンナも困ったように笑いながら肩をすくめた。
自分の家でも、似たような騒動が起こることは間違いないと確信してしまったからなのだろう。
(まぁそうなるよねー……だってビアンカの家でダメだったんだし。 そこより遥かに大きいミストラル家じゃもっと無理でしょ……)
「……それだと家でも無理かしら……?」
クラリーチェも残念そうに呟き、その周りも眉を下げながら消極的に同意していた。
部屋の中には残念そうな沈黙が走り――
「――そんなことよりも今はあの方の話でしてよ⁉︎」
レジアンナが唐突にそう声を張り上げた。
(そう言えば……⁉︎ ――つーか、あの子の悪口とか、このメンツで話し合うのちょっとご遠慮したいんですけど⁉︎)
そんなリアーヌの願いも虚しく、ヒートアップしたレジアンナは興奮した様子で言葉を続ける。
「リアーヌは知らないようだから教えて差し上げますけど! あの方、あちこちに良い顔なさってるのよ⁉︎ 政策や立場的に対立している方々も関係無しに! 特別なギフトを持っていたらそんな恥知らずな行為まで許されますの⁉︎」
レジアンナの言葉に、勉強会に参加していた者たちの殆どが同意するように大きく頷きながら同意の言葉を口にする。
その様子に気をよくしたレジアンナはフンスッ! と大きく鼻を鳴らすと得意げな顔つきになってさらに言葉を重ねる。
「しかもね? あの方、殿方との距離がとぉーっても近いの! ベタベタベタベタ! ーーハレンチですわっ‼︎」
その言葉に、周りの者たちは大きく頷きながら不満を口にする。
「婚約者のいる前で腕を組もうとしたとか!」
「しかもその時の言い分が『婚約者がいるなんて知らなかったから』なんてものだったって話も聞きましたわ?」
「――けれどその方、フォルステル家と取引のある家の方だったそうよ?」
「……呆れた。 そんなことも分からずに入学してきたってことですの⁇」
(耳がいてぇよ……――私もほとんど知らずに入学してきちゃったよ……――まぁ、ゲーム知識はあったし、ヴァルムさんからの授業はうっすらと覚えてはいたけど……――あれ? そう考えると、私この世界の常識を覚えるまでイジメの標的になって遠巻きにされてたの、幸運だったのでは……? ――まぁ、それが事実だとしても感謝とかは絶対しないけど)
「大体、もう少し毅然とした態度であの方を拒否なさる方がいてもよろしいのに……」
「――本人の気持ちはともかく……やはり難しいのでは?」
「……守護のギフト持ちですものね?」
「――本人や婚約者が現状を訴えても、実家からの返事が「そのままどうにかツテを作れないのか?」なんて言われてしまうほどには魅力的ですわよね……?」
「あら、もしかしてあなたの家も⁇」
「……どこも一緒ですわねぇ?」
「――それで結局、あの方はどなたの派閥に入るんでしょうか……? それとも派閥をお作りに……⁇」
参加者たちが好き勝手話し合う中、クラリーチェが首をかしげながらおっとりと質問を口にした。
(――そう言えばゲームで貴族同士の派閥云々って出てきてないよね……? つまり、主人公は派閥に属さないし、作らない……――あ、それ絶対にダメなやつだ……)
「大方、それを餌に殿方を取っ替え引っ替えするつもりなんでしょう? ――派閥に属してしまえば近付き難くなる方も出てきますもの!」
憤慨したように顔をしかめながら、吐き捨てるようにレジアンナが言った。
(……そこに関しては、多分なんにも考えてないんだと思うけど……――でも、それって貴族的に相当NGな話なんだよねぇ……――繋がりやツテを大切にする貴族からすれば、派閥に属さずあっちをフラフラ、こっちをフラフラしている人ってそうとう面白く無い存在な訳で……でもあの子――ユリアはそれが許される。 守護のギフトを持っているから。 ……――理解はしてるけどやっぱり面白い話ではなくて――こうして不満ばかりが溜まっていくと……)
リアーヌは引きつった笑顔を浮かべながら参加者たちの様子をうかがう。
するとビアンカと目が合ったので、そっと眉を下げ困っていることを伝えた。
すぐさまビアンカからも同じような仕草が帰ってきて、リアーヌはビアンカもこの会話にあまり加わりたくないのだと言うことを理解した。
(……大体派閥云々の話はさぁ……――誰かが『お茶会とか主催したら? それが派閥を作るってことだよ!』って教えてあげないと……――きっとあの娘、そんな知識持ってないのよ……ゲームでだって派閥なんか持ってなかったんだから、あの娘絶対に自分の派閥なんて作らないんだって‼︎)




