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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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 ◇


(わたくし)あの方キライ!」


 新しいクラスでの生活にも慣れ始めた頃、勉強会に誘われてやって来たミストラル家、そしてレジアンナの自室――


 リアーヌとビアンカはそんなレジアンナの大声に苦笑いを浮かべながらお互いに視線を交わし合って小さく肩をすくめた。

 本日のレジアンナは、最初から不機嫌なことを隠そうともしておらず、お茶の用意を整えたメイドたちが部屋を出て行ったのを確認するとすぐさま声を荒げていた。


「……あの方になにかされた?」


 リアーヌはそう声をかけながら、視界の端で今回初参加のクラリーチェが目を丸くし身体をこわばらせているのを気の毒に思っていた。


「リアーヌはなんとも思わないの⁉︎」

「……え? ――あの方ってあの方で合ってる?」

「――あの方って言ったらあの方よ! ユリア・フォルステル‼︎」

「……なんでなのか理由を聞いても?」

「なんでなのか⁉︎ リアーヌあの方がどんな方か知りませんの⁉︎」

「……守護のギフト持ってる?」

「……まぁ、そうね?」


 リアーヌの答えに急に勢いを失い、面白くなさそうに相槌(あいずち)を打つレジアンナ。

 その様子でいま返した答えがレジアンナの求める答えでは無かったと、理解したリアーヌは首を捻りながら再び理由を推測する。


(それでも「ゲームの主人公!」とは答えられないから……――そもそもなんで、レジアンナはすでに主人公を嫌ってるの……? もしかしてフィリップと接触した? ――まさか目立つから、とか……?)


「……一部の方々には人気がある?」

「あんなの! みな様あの方のギフトの(ちから)に群がってるだけですわ!」


 リアーヌの答えに手に持っていたセンスパチリッを自分の手のひらに打ち付ける。

 憤ってはいるが『目立つから』という理由はほぼ正解だったようで、他の参加者がレジアンナの怒りに同調するように、こぞって声を上げ始める。


「いくら入学する歳だったとはいえ……――今年の入学は……ねぇ?」

「見合わせるべきだったと……」

「皆様もそう思いまして⁉︎」


 同意を得られたことに気をよくしたのか、レジアンナは前のめりになり、その様子に周りは何度も大きく頷くのだった。


 その様子からウソをついているようには見えないが、やはりレジアンナの機嫌を損ねたくないという思いが強いように見受けられた。


「――まぁ……あの態度は少々……」

「そうですわね……――ツテを作りたいのでしょうけれど……」

「あのやりようは……ねぇ?」


 目を丸めていたはずのクラリーチェも、そのそばに座っていたご令嬢たちと一緒に苦々しく笑いながら肩をすくめ合っている。


(……え、主人公なにしたの⁉︎ 入学式から一ヶ月程度しか経って無いのにここまでヘイト貯める⁉︎ ……――はっ⁉︎ まさか派閥入りか? 『そういうの興味ないんで……』とでも答えたのか⁉︎)


 いまいち事情を把握できないリアーヌは助けを求めるようにビアンカに視線を流す。


「――品はよろしくありませんわ」


 ビアンカは紅茶を飲みながら肩をすくめる。

 その姿はレジアンナに気を遣っているというより、心底呆れているもので……

 そんな態度にリアーヌは「ええ……?」と戸惑いの声を上げ、ほかの参加者たちはクスリと笑いを漏らしながら仕草で同意して見せた。

 

「――あら? リアーヌはそう思わないの?」


 面白くなさそうにレジアンナはリアーヌを軽く睨みつけながらたずねた。


「え、えぇと……」


(……いや、正直関わり合いにはなりたくないんだけど……――ただ、誰のルート選ぶにしたってレジアンナやクラリーチェ、その周りがあの子に嫌がらせするのは絶対ダメなんだよなぁ⁉︎)


 なんと答えるべきか迷うリアーヌに、焦れたレジアンナの視線がスッと細められ――そこでフォローを入れるようにビアンカが間に入った。


「……この方、最近ゼクス様とデート三昧で、校内のことなんか目に入ってないわよ?」

「デ、デートじゃ……お手伝いですぅー!」

「はいはい。 そうでしたねー?」


 その気やすいやりとりに、毒気を抜かれるレジアンナたち。

 呆れたように……しかし、からかいを含んだ視線でリアーヌたちの会話を聞いている。


「……リアーヌはもうラッフィナート家のお手伝いをしているの?」

「あー……手伝いっていっても、一緒に物件見に行って「ここより前のところの方が良さそうですねー?」とか「日当たり良くて気持ちいいお庭ですね」とか、好きにいってるだけだし、ラッフィナートはラッフィナートでも男爵家(・・・)のほうね?」

「サンドバルからいらっしゃる方々の宿舎を探してるんでしたわね?」


 リアーヌの説明不足を補うようにビアンカがたずね、その言葉にリアーヌは胸を張って大きく頷いた。


「うん! っていってもカフェの従業員と学院に通う生徒用だから、本当小さな宿舎なんだけどね?」

「学院に通う生徒……」


 勉強会参加者の誰かから漏れた声に、リアーヌはニコニコと説明を続けた。


「はい。 ギフト持ちや将来の役人候補を育てる計画なんだそうです。 ……まだちょっとだけ問題がある村なので、学費免除でも乗り気になってくれる人少なくて……――だったら次は家賃の一部負担かなって……」


(――もうこれでダメなら最後は交通費支給よ……――ま、お金だけの問題じゃないんだけどさー)


「――本当に学業に力を入れるつもりなんですのね……」


 レジアンナが感心したように呟いた。

 ――貴族が、たとえ一部とはいえ金銭を負担してまで、領民に知識を授けようというこの試みは、リアーヌが考えている以上に画期的なものだった。

 サンドバルの事情を知っている者たちは、領民に対するご機嫌伺い――などと揶揄する者もいたが、結果的にゼクスの、ひいてはラッフィナート商会の名前を上げるものとなっていて、ゼクスはより一層リアーヌの思いつき(・・・・)を聞きたがる――というサイクルが出来上がっていた。


「ゆうてゼクス様の領土小さいからね? ラッフィナート商会も付いてるし……だからそこまでの負担じゃないんじゃない? ――家賃の一部は負担してもらうしさ」


 リアーヌの説明に納得したように何度も頷く参加者たち。


「……でも、サンドバルの人たちにとったら“同じ村の人が一緒にいる”ってのが一番大きくなると思う――引越しだけだって戸惑うのに、それが山奥から王都だもん」

「そうよねぇ……――それうちでもやって良い⁉︎」


 よぼと宿舎のシステムを気に入ったのか、レジアンナが瞳をキラキラさせながらねだるように言う。

 その言葉を聞いたリアーヌは「あー……」と言葉を濁しながら経験者でもある(・・・・・・・)ビアンカに意見を求める。


「ビアンカさん、ご意見をどうぞ」

「――うちの家では現時点での運用は見合わせましたわ」

「どうしてですの⁉︎」

「……お恥ずかしながら、うちの家の中が一枚岩では無いから――ですわね」


 そう言ったビアンカは、ヒョイっと肩をすくめながら困ったように笑った。

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