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「……普通の歌劇じゃないんですか?」
話の内容にいまいちピンときていなかったリアーヌが(なんでお肉⁇)と疑問を浮かべながら首を傾げた。
「食事をとりながら劇が見られる店なんだよ」
「――なるほど!」
(ディナーショー的なやつか! え、ちょっと面白そう……)
そんな考えが顔に出たのか、ゼクスはすぐさまリアーヌに向かい誘いの言葉をかけた。
「――俺たちも今度行ってみようね?」
「……でも、私のプレゼントはこれで……」
両親やヴァルムたちの前ということもあり、リアーヌは困ったように手元の小包に視線を落とした。
(――本当は行きたいけど……)
「お祝いそれだけど、こっちは普通のデートのお誘いだよ? ――俺と行ってくれないの?」
「……デート?」
イタズラっぽい視線で見つめられ、リアーヌは照れるように首をかしげながらたずね返す。
「……イヤ?」
「とんでもない!」
途端に悲しそうに顔を歪めたゼクスにリアーヌは慌てて首を振りながら否定した。
「――そっか? じゃあ……決まり?」
「……決まり、ですかね⁇」
慌てるリアーヌにニヤリと笑って見せたゼクスは揶揄うような視線を向けながら確認を取る。
からかわれた自覚のあるリアーヌだったが、その表情に怒りも憤りの色も見られず、嬉しさをごまかすようにわざとソッポを向きながら答えた。
「――そんで姉ちゃんはなに貰ったんだ?」
ザームがそう言いながらリアーヌの手元の小包に視線を落とす。
「あ……」
「開けてみて?」
ゼクスに促され、リアーヌは丁寧に小包を開けていく。
「――これ!」
リアーヌは顔を輝かせながらゼクスと手元の本を交互に見つめる。
それはリアーヌが特に気に入っていて「続きが気になる……」とぼやいていた本の続編だったのだ。
「欲しがってた本で合ってる?」
「はい! ありがとうございます!」
「どういたしましてー」
やったぁ……と呟きながら本の表紙を撫でるリアーヌにゼクスは嬉しそうに笑顔を深め、食べ物でも面白そうなものでもないと判断したザームは早々に興味を無くし、テーブルに並び始めたご馳走に目を移した。
「――旦那様」
やがて用意が整ったのか、ヴァルムがサージュに向かい軽く頭を下げながら合図を送る。
その言葉にサージュは頷き、たわいのない会話をしていたリアーヌたちもスッと姿勢を正してサージュに注目した。
「んむ。 では2人の前途を祝し、さらなるボスハウト家の繁栄に――乾杯!」
その言葉にテーブルに着いていた一同は一斉にグラスを掲げる。
そして「乾杯!」と声をそろえた。
――危なげなく美しい所作め食事を食べ始めたリアーヌは、もうすぐやってくる新学年へ思いを馳せる。
リアーヌにとって、これからやってくるのは、ただの新しい一年ではない。
万が一が起これば家族にまで被害が及ぶかもしれない騒動に巻き込まれるかもしれない一年なのだ。
(春の休暇が終わればすぐに入学式……――そしてその日が、『ギフト』というゲームがスタートする日……)
その日を睨みつけるように、何もない空中をに険しい顔を向けるリアーヌ。
そして気合いを入れるためなのか、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「そんなに食いたかったのかよ?」
その様子をどう捉えたのか、ザームが呆れたように声をかける。
「――え?」
「……あんだけあるんだぞ? いくら俺だって食いきれねぇって……」
呆れたようにザームが見つめる視線の先には、飴にコーティングされ、艶やかに光を反射しているプチシュータワーがそびえ立っていて――
「……――ちがっ⁉︎」
(シュータワーを前に生唾飲み込んでたわけじゃないもん⁉︎ 確かに美味しそうだけど! 早く食べたいけどっ! でも今のはちゃんとシリアスやってた結果ですけど⁉︎)
「――遠慮しないでたくさん食べなさいね?」
しかしザームの言葉で大いに勘違いをしてしまった両親や使用人たち、ゼクスまでもが、リアーヌに生ぬるい笑顔を向け、みんなの気持ちを代償するかのように言葉を紡いだ母の姿にリアーヌはさらに「だから違うって!」と否定の言葉を口にするが、その言葉は他の誰の心にも響かなかったようだ。
そのことに気がついたリアーヌは少々投げやりな笑顔を浮かべると、少々乱暴に目の前のご馳走にフォークを突き立て、少々豪快に頬張って見せる。
(いいもん……食べてやるもん! 本当は違うけど食い尽くしてやるもん! 私食べるの好きだもんっ! ――だけど本当にさっきのはそういう感情じゃなかったんだからーっ‼︎ ――あ、これすごく美味しい……)
無言で食べ進めるリアーヌは、その食事と美味しさに徐々に機嫌を回復させていき、デザートに手をつける頃には、かなりの上機嫌になっていた。
そんな姿に両親や使用人たち、そしてゼクスまでもが苦笑いを浮かべていた――




