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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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 ザームやオリバーは呆れたように肩をすくめ、ヴァルムやアンナは目だけ笑っていない笑顔をゼクスに向け、父サージュは面白くなさそうにキュッと顔をしかめていた。


「……おうリアーヌ、お前の祝いの菓子はどうするんだ?」


 父からの質問にリアーヌはさらに顔を輝かせてパッとゼクスから離れると、嬉しそうに人差し指を立てながら元気よく答える。


「ショートケーキ! あ、でもたこ焼きとお刺身も食べたい‼︎」


 ここぞとばかりに希望を出すリアーヌにアンナがすぐさま口を開く。


「お刺身はございません」

「……好きなものなんでも……」

生物(なまもの)はいけません」


 ピシャリと言われ、ショボンと肩を落とすリアーヌにオリバーが苦笑いを浮かべながら代替え案を出す。


「焼き鳥はいかがです?」

「――つくね! 軟骨入りで‼︎」

「かしこまりました」


 すぐさま上機嫌になったリアーヌにオリバーは笑いを噛み殺しながら頭を下げた。


「――ちょっとやるんだからから、俺にもよこせよ?」


 すぐさま、つくねを一人で食うなと釘を刺すザーム。


「……じゃあ、一番上のトコ私のね?」

「はぁ⁉︎ てっぺんは俺のに決まってんだろ⁉︎」


「ズルい!」「ズルくねぇ!」と言い合いを始めた姉弟に、その話の内容がいまいち理解できなかったゼクスは不思議そうに首をかしげなぎら声をかける。


「上のやつは特別製なの?」

「うちのプチシュータワーは上から飴がかかってるんで、そこが一番カリカリなんですよ!」


(口の中で飴のカリカリとシューのサクサクとクリームのとろーりが一度に味わえちゃうんだから! サクとろだけでも十分美味しいけど、そこにカリカリが加わると幸福度跳ね上がるからねー。 ここは譲れない戦いなんですよ……!)


「一番うめぇトコは俺んだろ。 俺の(・・)祝いの菓子なんだから」

「そんなん横暴だし!」


 また言い合いを始めてしまった二人を見兼ね、メイドの一人が声をかける。


「本日はお祝いの特別製ですから、シェフがはりきって全てのシューを飴でコーティングしておりましたよ」


 その言葉にリアーヌたちは目を丸くして見つめ合い、ほとんど同じタイミングでメイドをバッと振り返る。

 そして確認をするように質問を投げかける。


「――全部?」

「はい」

「……全部って全部⁇」

「はい」


 子供のようなその反応にメイドは口元を若干もにゅもにゅと動かしながらも、にこやかな笑顔で答えていく。

 そしてその返事に顔を見合わせた姉弟は、瞳を輝かせながら同時に口を開き「ふおぉぉぉぉぉっ⁉︎」と全く同じ奇声を発した。


「ぶはっ――さすがは姉弟」


 思わずゼクスが吹き出してしまうのと「お嬢様!」「坊っちゃん!」という叱咤の声が飛ぶのは同時だった。


「あらあら……」

「ははっ。 まだまだガキンチョだなぁ?」


 子供たちの様子に肩をすくめ合う夫妻だったが、サージュはそれ以上にどことなく嬉しそうな様子だ。


「――でも、全部飴がけは嬉しいわね? 私もちょっと食べてみたかったの。 てっぺんのヤツ」

「……だよな?」


 そうクスクスと笑いあう夫妻の会話で、今後のボスハウト邸で出されるプチシュータワーでは、少なくとも家族全員分の全コーティングのプチシューが用意されることが決定した瞬間だった――




「二人ともおめでとう」


 豪華な夕飯の準備が進められる中、ゼクスは改めてリアーヌとザームに祝福の言葉を送った。


「ありがとうございます!」

「……アリガトウゴザイマス」


 元気に答えるリアーヌと途端にカクカクと不自然な動きになるザーム。

 どうやらきちんとしなくてはいけないという思いが働くと、今のようなカタコトになってしまうようだった。


「これ、ささやかなものだけど……」


 そう言いながら封筒のようなものをザームに、そして小包をリアーヌに向かって差し出した。


「え、いいんですか……?」

「うん。 お祝の品だから受け取ってほしい」

「……でも、ゼクス様だってSクラスだったのに私何も用意してない……」


 困ったように眉を下げるリアーヌにゼクスはクスリと笑いながら声をかけた。


「気になって今日押しかけちゃったのは俺のほうだし、この日に来ておいてお祝いの品を持ってこないのも変な話だろ?」

「……そう、ですか?」

「――結果が出る今日、わざわざその結果を確認しにくるやつが祝いの品用意してなかったら、それ相当感じ悪いでしょ?」

「それは……――まぁ?」


 曖昧な態度で同意するリアーヌにゼクスも肩をすくめて答え、再度祝いの品を二人の前に差し出した。


「……手紙?」


 先に贈り物に手を出したのはザームのほうで、首をかしげながらその中身を確認している。


「最近出来た、歌劇の店の予約席だよ。 多少の日にちは融通が利くから、ソフィーナ嬢の楽しんできたらどうかな、と思って」

「……歌劇ぃ?」


 贈り物が好みとは少々離れていたのか、ザームはニュッと口を尖らせながら封筒の中の チケットを眺めている。


「あれ? リアーヌから行きたがってるって話を聞いてたんだけど……――美味いローストビーフを出すって話題の店なんだけど……」

「ーー最近出来たうめぇ肉の店⁉︎」


 ゼクスの説明に、途端に瞳を輝かせるザームと、その後ろから「せめてお肉と……」と言いながら頭を抱えるオリバー。


「お肉!」

「――ええ……もうそれで」


 素直に言い直したザームだったが、オリバーの頭を覆う手は、外れる様子が一向に見られなかった。

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