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 ――相手は『豪運』のスキル持ち。

 あり得ないこととは思いながらも、たとえ冗談であっても、このデリケートな時期に実行に移すのは勇気が足りなかった。


「――そこはほら、ご縁的な意味合いで合同な感じで……?」


 そしてリアーヌもまた、一人Aクラスに取り残されてなるものかと、打てる手は全て打っておきたいらしく、ねだるような視線をゼクスに向けながら口を開く。


「――私、来年はゼクス様と同じクラスになりたいな……?」

「さっきの今でそのセリフは恐怖しか感じないよ……?」

「でもゼクス様が一緒に鍵かけようって!」

「言ったよねぇ……? ――次は来年にしよっか⁇」

「ひどぅい⁉︎」

「ヒドくはありませーん。 どっちかって言うと、ヒドイのはリアーヌのほうでーす」

「ヒドくないですもん! 私はちょっとした願掛けしようって誘ってるだけですもんっ! ――もちろんSクラス入り出来るように努力してますし⁉︎」

「リアーヌの努力は分かってるし、一緒に鍵かけることも望んでるけど……――俺が望んでるのはそういう関係性じゃねぇんだよなぁ?」

「元々Sクラスの人とのほうがご利益ありそうじゃないですか!」

「俺にとってはリスキー過ぎる⁉︎ しかもリアーヌ、言ってるほど“ちょっとしたー”とか思ってないよね⁉︎」

「――……全然? ただの願掛けですよ⁇」

「ウソがヘタ過ぎる……」


 そんな会話で言い合っていた二人は、馬車がすでにボスハウト邸に着いていたことにも、外まで出迎えに来ていたヴァルムがドアの外にずっと控えていたことにも気が付かなかった。



(――だからって、いきなりドアを開けるのは……心臓飛び出るほどビックリするから二度としないでほしい。 思わず悲鳴あげちゃったじゃん! ――……え? ノックはした⁇ ――いつの間に)


 ◇


「守護のギフトが……」

「フォルステル伯爵領……」

「テラサヌの娘――」

「オーロラを見たって!」


 授業と授業の合間の少しの休憩時間、クラスの中や廊下を歩く生徒たちの会話は一つの事件で持ちきりだった。


「――ここ最近、ずっとこの話題ですわね」

「……だねー?」


 自分の席に座り、淡々と次の授業の準備をしながら呆れたように肩をすくめるビアンカに、リアーヌも合わせるように愛想笑いで相槌を打ちながら頷く。


(とうとうこの時がやってきた……ゲームの物語が始まった――主人公が守護ののギフトを授かって村を救った……――つまり、来年から主人公がこの学園に入学するってことだ……。 ――あの馬車の中、ゼクスと話し合った日から決めたことがある。 ――ちゃんと信じる。 ……信じれる限りゼクスを信じたい……)


 リアーヌは我ながらあやふやな自分の考えに思わずクスリと苦笑いを浮かべ、軽く息をつきながら次の授業の準備を続けた。


(――自分でも自分のハッキリしなさ具合に頭をかけるむしりたくなっちゃうけど……でも信じるつもり! ――「信じてる」って言ってる間に悪役令嬢にされてポイされるとかは絶対にイヤだから、場合によっちゃ全力で疑うだろうし、信じきれない時も出てきちゃうだろうけど……――私、どうしてもあの時のゼクスを信じたいんだよねぇ……「やった!」って嬉しそうに笑ったあの笑顔をさ。 だから信じれる限りは信じたい――たとえ……主人公がゼクスのルートを選んだとしても)


「――ですがリアーヌにとっては、どうでもいいことですわね?」

「いや、どうでもいいとは……」


 考え中に話しかけられ、リアーヌはいつもの調子で言葉を返そうとしたが、その視線の先にあったビアンカの顔は、ゾッとするほどに冷ややかなものだった。


「――いまの貴女にSクラスに上がる以上に重要なことがあって?」

「いいえ、ございません……」


 顔を引きつらせながら答えたリアーヌは全力で首を横に振った。


 ――なぜこんなにもビアンカの機嫌が悪いのかというと……


(うん。 そうだね……もう分かってるかな? ――花園での願掛けが『ビアンカと私は大親友だから、ずっと一緒だよ! 私がSクラスに上がれなかったらビアンカもAクラス残留で!』だったってことがバレたからだねっ! ――あのトリプルデートのあと、レディアンナとの話の中で「次にまた三組で遊びに行った時は、私も願掛けに協力してあげてもよろしいわよ?」とチラチラされた時、なんの疑いも躊躇もなく「え、Aクラスに落ちちゃうかもだけどいいの?」って素直に答えてたよねー……息をするように、とぅるんとお口から出てたよねー……)


 その当時のことを思い出し、遠い瞳をしながら窓の外に視線を移した。


(で、隣に座ってたビアンカには当然その言葉が聞こえていて……――そこからお話し合いですよ……あれ、本当に怖かったな……。 軽い気持ちや一瞬の安堵のために、あんなことするんじゃなかった……「Sクラスに上がれなかったら絶交でしてよ⁉︎」とか宣言されちゃったし……絶交は絶対ムリだし、クラスが別れるのだって拒否だから……頑張るけど。 ――頑張るけど! ……分かってるよ! 私が死ぬ気で頑張ればいいって話してるんでしょ⁉︎ 頑張ってるよ! 私だってクラス離れたくないもんっ! ……――奇跡よ再び! 私の手元にっ! ……だから今回の座学だけ以前の勉強法解禁にしよう……ちょっとでも点数取りに行こう……)


 進級試験を目前に控えたリアーヌは、大きく息をつきながら、ノートを持つ手に力を込め、仄暗い覚悟を決めたのだった――

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