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「んー……――ちゃんと理由はあるんだけど……でも今日は晴れてるからなぁー? 次は雨の日にデートしたら分かるかも⁇」
「まぁ! また隠し事ね⁉︎ リアーヌひどいわ!」
「えー⁉︎ フィリップ様とまたデートしたら? って言ったのに、それをひどいって……レジアンナの方がフィリップ様にヒドイことを言ってない?」
「えっ⁉︎ あ、あの……私、違っ⁉︎」
リアーヌの軽口に乗せられてしまったレジアンナはギョッとしながらフィリップに向かいふるふると首を横に振る。
「ちゃんと分かってるとも。 ――今度のデートは雨の日か……――明日雨が降ったらきいのに」
「フィリップ様……♡」
「レジアンナ……♡」
花壇の前、互いに手に手を取り合い見つめ合う恋人たちを前に、ゼクスとリアーヌは肩をすくめ合う。
「……ホットココア飲みに行こっか?」
「ぜひ。 やっぱり休憩所作って正解でしたねー」
なんのしがらみもなく、スタスタと歩き出したリアーヌたちの背中を見つめながら、ビアンカとパトリックは気まずげに視線を交わし合った。
「……お声ぐらいは?」
「――だね? お誘いして聞こえないようなら僕たちも……」
「ここは寒いですものね……?」
そう言い合いながら頷き合う二人。
晴れているとはいえ、雪の残る花園は、お世辞にも暖かいとは言えなかった。
「マシュマロがベルの形をしているわ⁉︎」
「レジアンナのご要望通り、真っ白なリンゼルだよー。 ……まぁ、溶けてなくなっちゃうんだけどー」
「ビアンカ、今日のリアーヌはちょっと私非意地悪すぎるわ⁉︎」
「――そうですね? リアーヌ謝って」
「理不尽⁉︎」
リンゼルの花壇近くに新しく立てられたみやげ物屋の中、そこに作られた少しのカフェスペースで、三組のカップルは仲良くホットココアを飲んでいた。
――と言っても楽しそうに話しているのは主にリアーヌたちだけであり、ゼクスたちはその会話に耳を傾け、たまに肩をすくめる程度に反応するだけだったが。
「そういえば、また鐘の丘の鍵が一段と増えていましたわね?」
「あー……あれねぇ? 当初の予定では一年毎に鍵の付いてる柵ごと他の場所に移動させて保管――って話だったんだけど……」
ビアンカの言葉にリアーヌは肩をすくめながら答えた。
「……柵以外に付けられた鍵もありましたわよね?」
レジアンナが首を傾げながら放った言葉に、リアーヌは困ったように頷きながら「ねー……?」と言葉を濁した。
(そのトラブルが後を絶たないんだよねぇ……鍵付ける場所が見当たらなかったからーとか言って、関係ない場所に勝手に付けてっちゃって……――とんでもないヤツは木に付けたりするし……――イタズラなのか嫉妬なのか、鍵壊して回る奴も出たって報告もあったらしいし……)
「やっぱり、期間じゃなく柵がいっぱいになり次第移動にすべきなんじゃないかな……?」
ゼクスがやんわりとした言葉で提案するが、その内心では全力でその提案を受け入れてほしいと願っていた。
「でも……」
その言葉に答えを濁すリアーヌ。
その提案が現実的であることは理解出来ていたが、その方法が公平性に欠けている気がしてと、どうしても納得することができなかった。
「満杯になったら移動させることになったら、期間にバラ付きが出ちゃうじゃないですか? 友達は一ヶ月で私は一週間――なんて話、聞いたら、なんだそれ不公平じゃないか! って思われそう……」
「……そこは、貴族も平民もみんな平等に満杯になったら移動、ってことにしようよ」
ゼクスのそれらしい説得に不満げではあったものの、一応の納得を見せるリアーヌ。
そんなリアーヌにゼクスはさらに説得しようと言葉を重ねる。
「それにこのまま移動させないでおくと、あそこが柵だらけになって、カギと柵の迷路が出来上がってしまうよ?」
「――そ、れは……ちょっと面白そうですね?」
そう言って瞳をキラキラと輝かせるリアーヌに慌てて待ったをかける。
「いやいやいや! お城からすぐに苦情が来るよ? 迷路なんて、人が隠れやすい上に、捕まったって簡単に言い訳ができちゃうだろ?」
「あー、確かに……」
途端につまらなそうな顔つきになったリアーヌにビアンカはクスリと笑いながら声をかけた。
「ご両親も交えてもう一度よく話し合ったら? 案外いい案が思いつくかもしれませんわよ?」
「……かも?」
(不公平な感じがして、反対一択だったけど、話してみたら納得できるのかも……? ――さっきのゼクスの言い分もある意味では公平なわけだし……――大体うちの両親が、花園の評判を下げるような案を採用するわけないんだから、そこまで心配しなくてもいいのかも……?)
「――あ、鍵で思い出した! ビアンカ後で鍵に名前書いて? 私が買うから」
「……は?」
急に話題を変えたリアーヌに対する戸惑いと、その言葉の内容の意図が理解できず、少々ご令嬢らしからぬ声を発してしまうビアンカ。
「――えぇと……?」
すぐに自分の失態に気がついたビアンカは、軽く咳払いをしながら直前の声を無かったものとして扱うと、言葉の真意をたずねる為に視線で疑問を投げつけた。
そんな視線に気がついたリアーヌは少し拗ねたように顔をしかめながら、ズビシッとビアンカに人差し指を突きつけながら口を開く。
「私、先生に聞いたんだから! ビアンカのSクラス入りは確実だって!」
そんなリアーヌの人差し指を叩き落としながら「指をささない」と眉を跳ね上げるビアンカ。




