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「……お嬢様?」
「ブスくれなんていませんっ!」
アンナの呼びかけにシャキンッと背筋を伸ばしたリアーヌ、条件反射のように弁明の言葉を口にする。
そのことにアンナが小言を飛ばす前に、苦笑いを浮かべたゼクスがリアーヌを庇うように口を開いた。
「じゃあお茶会は決まりかな? ――ご一緒していただけますかレディ?」
「――ぜひ」
ゼクスのが差し出した手に手を重ねながら、リアーヌは気合を入れながら口角を引き上げる――
そして二人きりのお茶会が、子供たちやディーターに見守られながら開催されたのだった。
(――……私基準だけど、結構上手く行ったのでは? ちょっと失敗しちゃったけど、ちゃんとごまかせたと思うし、ゼクスも笑って許してくれたし。 ――失敗ダメ絶対って気を張らなくて良かったのか、楽しくおしゃべりして、お菓子も美味しく食べられた。 今までで一番楽しいお茶会だったかもしれない……子供たちにはガン見されて気まずかったけどー。 後から集まって来ちゃった大人たちからも生暖かい視線で見守られて……――人のことジロジロ見ちゃいけないってマナー、これからマジ大切にしていこう……超大切にしていこう……――だからね子供たち? お茶会ごっことかいう遊びを今すぐやめなさい⁉︎ やるならせめて普通のにして⁉︎ お菓子をこぼしてごまかすところばっかりマネしなくて良いから⁉︎ お茶会ってそういう遊びじゃ無いからっ! ――あと、みんな揃えたように小指立ててるのはどうしてなの? ……え、まさかそれも私のマネですか? ――え、私お茶飲む時、あんなガッツリ小指立てるの⁉︎)
リアーヌの願いも虚しく、お茶会ごっこはこの村の子供たちの間で流行りの遊びとなってしまい、リアーヌは何度もその光景を目にしていたたまれない気持ちになるのだった。
――そして、小指のことをゼクスにやんわりとたずねたところ「――あそこまでじゃないけど時々……」という回答をもらい、愕然とした表情を浮かべることにもなるのだった――
◇
「見つけましたわ⁉︎」
そう言いながらトトトっとかけ出したレジアンナに「おやおや……」と言いながらもだらしない笑みを浮かべたフィリップが小走りで着いていく。
「まぁぁぁっ! なんて可愛いお花かしら⁉︎」
「喜んでもらえてなによりでーす」
花園の花壇に咲くリンゼルを見つけ、嬉しそうにしているレジアンナの背中に、リアーヌは声をかけた。
学院が始まり数日、リンゼルの花壇完成の話を受け、リアーヌとゼクス、レジアンナとフィリップ、そしてビアンカとパトリックの三組の婚約者たちは、花園へとトリプルデートにやってきていた。
――本来はリアーヌとゼクスの久々のデートだったのだが、どこからかリンゼルの話を聞きつけたレジアンナが、どうしてもフィリップともう一つのベルを見つけるのだと同行を熱望し、ビアンカたちがそれに巻き込まれる形になっていた。
(最初の「私も早く見つけたい! だからリアーヌ場所を教えて!」って言われた時「答えを聞いて探すなんて、カンニングと一緒ですわー? オホホホホー」とか意地悪なこと言わなきゃ良かった……――でもうちの大切な恋愛スポット強化キャンペーンの一環だし……レジアンナさんってばお取り巻きが多くていらっしゃるし……)
「リアーヌ! これでしょう⁉︎」
そう言われてレジアンナに視線を向けたリアーヌは、その無邪気な笑顔を見て(――なんだかんだ楽しいからいっか……?)と、苦笑を浮かべるながらレジアンナがいる花壇に向かって歩いていった。
「私が一人で見つけましたのよ⁉︎」
「ちょっ、レジアンナ声抑えて……!」
(この花を見つけるのが楽しみなんだからっ! 探してたであろうお客さんたちがこぞってこっちに来ちゃってますからね⁉︎ ……まぁ、みんなワクワクした顔つきだから苦情は来ないと思うけどさぁ……)
リアーヌがレジアンナと共に唇の前に人差し指を立て合いながら「シーッ!」と言っているのを横目に、ビアンカは身をかがめてリンゼルに花に顔を近づけて顔を綻ばせる。
「可愛い花……」
「リンゼル、と言うらしいよ」
ビアンカの隣にいたパトリックが、花壇近くに立っている看板を見つめながら答えた。
「リンゼル! 名前も可愛いわ⁉︎」
「でしょう? あ、あっちにお土産屋さんも作ったの。 たくさん買ってってねー」
息を吸うようにものを進めるリアーヌだったが、レジアンナはそんなリアーヌの言葉に少しだけ顔を曇らせた。
「……どうかした?」
「――先程チラリと見に行っだけど……」
言いにくそうに言葉を濁すレジアンナに、リアーヌの顔も不安そうに曇っていく。
「――リンゼルの花のガラスのアクセサリーとか、結構可愛く出来てると思ったけど……ダメだった?」
(ガラスなのがダメだったり……? 結構安価で買えちゃうからなぁ……――あ、壊れたら危ないからイヤなのかも⁇)
「……だってこの花はこんなに真っ白で綺麗なのに、あそこのは透明のものばかりで……――白いのをたくさん作った方が良かったと思うわ?」
そんなレジアンナの言葉にリアーヌはニヤリと意味ありげな笑顔を浮かべ、できるだけもったいぶりながらゆっくりと口を開く。




