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「――頑張れ?」


 その様子から、必死さが充分に伝わったのか、ゼクスはリアーヌの気を散らさないよう、静かにと身体を離すと、ディーターと顔を見合わせ困ったように肩をすくめた。




「――出来ました!」


 しばらくリアーヌを見守ること数分。

 原っぱにリアーヌの声が響きわたった。

 その言葉にアンナは時計から目を離すと「失礼いたします……」と軽く頭を下げながらリアーヌからノートを受け取る。

 そして素早く視線を走らせ、その内容を細かく確認していく。

 リアーヌはそれを祈るような気持ちで――いや実際に手を組みアンナに向かって祈りのポーズを取りつつ、合否の言葉を待った。


(――お願い! もうこの際、クッキーが食べられるなら優が欲しいとか言わないからっ! ……あ、でもいっぱい頑張ったから、おまけでも優にしてもらえるなら、優が良いです……!)


 そんなリアーヌの願いが天に届いたのか、必死の形相で自分を見つめているリアーヌにクスリと笑みを漏らしたアンナの口がニコリと綺麗な弧を描いた。


「――よろしいかと。 優でございます」

「え、本当に……?」

「はい。 素早く簡潔に、しかしきちんと要点がまとめられておいでですよ」

「や……やったー!」


 リアーヌは両手を突き上げながら、全力で喜びを表現する。

 そのことにアンナが口をすぼめ、オリバーが困ったように肩をすくめるが、全力で喜ぶリアーヌにはそれが見えていないようで、周りに集まってきた子どもたちとハイタッチを交わしながら、ご褒美が貰える喜びを噛み締めていた。


「優? ねぇ優だったの⁇」

「お姉ちゃん優取った?」

「取ったよー!」

「すごーい!」

「うん! すげぇ!」

「やったじゃんっ!」

「やだぁー、褒めすぎだよぉー」


 子どもたちの言葉に、リアーヌはくねくねと身を捩らせながら頬を抑える。


「――おめでと」

「あ……ゼクス様。 ……あの、ありがとうございます――あとさっきは……」


 ごめんなさい……と、モゴモゴと喋るリアーヌの隣に、ゼクスは腰を下ろしながらクスクスと笑い「気にしてないよ」と声をかける。


「――でも本当に凄いね? 本当に覚えちゃったんだ⁇」


 以前のリアーヌの勉強法を知っているゼクスは、感心したようにリアーヌを褒めた。


「……まだ完璧じゃ無いですけど……今回もギリギリまで参考書読んじゃいましたし……」


 ゼクスの言葉に、リアーヌはふるふると頭を振りながら謙遜するように答えた。


「それでもこれを書くときは何も見なかったんだろ? ちゃんと覚えられてるってことだよ! ――もしかしたら今度の進級試験、本当にひょっとするかもよ?」

「……――でも座学の点数は元々……?」

「あ、そっか……?」


 間違いなくリアーヌ自身には知識がついてきていたのだが、それは置いておいて、リアーヌの座学の点数は元々Sクラスの生徒に匹敵するほど高かった。


「だけど、立ち振る舞いだってマナーの授業だって、最近は一人でこなせてるって話だろ?」

「それは……まぁ……?」


(確かに先生やビアンカにはそう褒められてるんだけど――多分それって最低限のことって言うか……当たり前のことって言うか……――まぁ出来なかったことが出来るようになったのは本当なんだけどさ……?)


「ここ数日で俺も気がついたんだけど、リアーヌ、失敗した時もすぐ自分で気がつくようになっただろ? あれすっごい進歩だと思うよ」

「……失敗しちゃってますし、それを周りに勘付かれちゃってますが……?」


 ゼクスの言葉に、からかわれたのだと思ったリアーヌは思い切り顔をしかめる。


「それはそうなんだけど…………――でもそれってリアーヌの中に明確な正解があるってことだろ?」

「――そう、なんですかね……?」


 思いもよらなかったことを言われ、リアーヌは視線を揺らしながら答えた。


「そうさ。 ――だから大丈夫。 リアーヌはちゃんとマナーを身につけてきてるよ」


 そう言われながらニコリと優しく微笑まれたリアーヌは、赤くなった頬を隠すように顔を伏せながら、ごまかすように首を傾げる。


「だ、だと良いんですけどねー? どうなんですかねぇー⁇」


 そんなリアーヌの様子にクスリと笑ったゼクスは「自信持ちなってー」と口にしながら身をかがめ、リアーヌの顔を覗き込む。

 そんなゼクスの視線から逃れるようにリアーヌも顔を背け――

 少しの間、顔を見ようとするゼクスと見せまいとするリアーヌの攻防が繰り広げられた。




「――いっそお茶会にお招きしてみてはいかがでしょうか?」


 リアーヌの顔から赤みが消え、ようやく二人の攻防が終息を迎えた頃、お菓子とお茶の準備をしていたアンナが、リアーヌに声をかけた。


「え……?」

「即席ではございますが、今からこちらで男爵様をお茶会にご招待し、お嬢様のご成長を披露してみては……と」


 口では提案している風のことを言っているアンナだったが、リアーヌがなにも答えないうちに、テーブル代わりにしていたトランクに布をかぶせ、小さな花びんに花を1輪いけたものを飾り、正式なカトラリーまで用意しはじてめおり、アンナの中ではすでにお茶会を開くのは決定しているようだった。


「……ご褒美のクッキーなんだから普通に食べたいなって……?」

「――お嬢様が身につけられるべき普通(・・)は、マナーに則った食べ方であるべきかと……」

「ええー……」


 心底嫌そうな声を上げるリアーヌに、ゼクスはクスクスと笑いながら声をかけた。


「いいじゃないか、練習練習ー」

「ぶぅ……」


 ゼクスが同意したことでお茶会をすることが決定したと理解したリアーヌは、頬を膨らませながら不満であることを全力でアピールした。

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