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 ゼクスは、先ほどの村人たちとの話し合いの最中に聞いたリアーヌの話を詳しく聞こうと話題を変える。


「はい。 村外れにある原っぱで子供たちに遊びを教えているようです。 様子を見に行ったディルクの話では、お嬢様を中心にたくさんの子どもたちが遊んでいると……」

「わー……目に浮かぶ……」


 弟がいるからなのか、元々子どもが好きなのか、リアーヌは子供の扱いに長けていた。


「それに、遊びに交えて数字を教えていくので、子供たちも楽しそうに学んでいるようです……――あの方はどんなことで楽しむ才能がおありですね」

「……それに関しては天才的でしょうね?」


 ゼクスたちは、ご令嬢らしからぬ態度で大きく口を開け、楽しそうに笑うリアーヌの姿を思い浮かべながら優しい表情で頷き合う。


「――さーてと、今日の予定はあらかた片付いたし……俺も学校の視察に行こうかなぁー?」


 大きく伸びをしながらそう言ったゼクスは、どこかソワソワしながら立ち上がる。


「――お手すきならば……」


 そう言いながら手元の書類に視線を落とすディーターにゼクスは慌てて声をかける。


「いやいやいや! それは明日やりましょ? 俺ここに来てリアーヌと全然話せてないんですよ⁇ そろそろ俺の顔忘れられちゃいますよー……」


 肩を落とし、情けない声を上げるゼクスに、クスリと笑ったディーターは肩をすくめながら言う。


「――まぁ、視察も大切ですね。 ……お供いたします」


 そう答えた理由は、視察後に打ち合わせがしたいからなのか、リアーヌの授業を見てみたかったからなのか……


 ◇


「あ、男爵様だ!」

「男爵様ー!」


 そんな子供たちの声に、リアーヌはチラリと視線を上げ、その視界にゼクスとディーターを入れたリアーヌは、どこか期待のこもった眼差しをアンナに向ける。

 ――が、アンナはジッと時計の針に視線を落とし続けるだけだった。


(ゼクスが来たのに⁉︎ ここは『お勉強は一旦中止してお茶にいたしましょうか』の場面じゃないの⁉︎)


 微動だしなかったアンナに恨めしそうな視線を送ったリアーヌは再びノートに視線を落とし、記憶だけを頼りにガリガリと文字を書きこんでいく。


(子供たちは一から十まで数えられたらご褒美のお菓子だったのに! 私もやれって子供たちに言われたから、ノリノリで十まで数えるつもりでいたのにっ! なんで私だけレポート書かされてるの⁉︎)


 リアーヌが心の中で不満をぶちまけていると、ゼクスたちがすぐそばまでやってきて、リアーヌを取り囲んでいる子供たちに声をかけた。


「やぁ、みんな。 こんにちは」


 ゼクスの言葉に子供たちは、元気よく手をあげて挨拶を返していく。


「こんにちはー!」

「ちわーっ!」

「おーみんな元気だね? 勉強はどう? 楽しい⁇」


 ゼクスは子供たちに、にこやかに返事を返しながら、必死になにかを書き続けているリアーヌにチラリと視線を流す。

 

「楽しいよ!」

「あのね、十まで数えられたからお菓子もらったの!」

「すっごく美味しいの!」

「白くてサクサクなの!」

「周りの粉が甘いんだよっ!」

「――ほぼお菓子の感想だぁ……?」


 困ったように笑いながら、ゼクスはアンナやオリバーに視線を移した。

 アンナは時計の針から視線を動かすことは無かったのだが、オリバーはゼクスに向かい困ったように笑うと、ヒョイっと肩をすくめて見せる。

 その態度からどちらも自分に説明するつもりが無いのだと理解したゼクスは、子供たちから話を聞こうと、膝を曲げて視線を子供たちに近づける。


「楽しく学べてるならそれに越したことはないよねー。 ――……それで、リアーヌがあそこでなにをしてるのか、みんなは知ってる?」

「お姉ちゃんもお勉強なの!」

「リアーヌ姉は大きいからちゃんと優を取らなきゃお菓子無しなんだって」

「早く終わらせないと優じゃ無くなっちゃうんだって!」

「あとねー? 間違ってもダメなんだよー?」


 子どもたちが口々に説明する言葉で、ゼクスはリアーヌが本当に課題に取り組んでいることを知り、そしておそらくはお菓子のためにこんなに必死になっているであろうことを察した。


「――リアーヌお菓子大好きだねぇ……?」


 呆れたようなからかうようなその言葉に、リアーヌはぐぬぬっと顔をしかめるが、ふー……と大きく息を吐き出し、再び視線をノートに戻し、ガリガリと書き込み始める。


「本気じゃん……」


 ゼクスの呟きを拾ったリアーヌは、手を動かしながら心の中で叫ぶ。


(あったりまえでしょ⁉︎ 今日のおやつはアンナさん特製のスノーボールクッキーなんだからっ! 砕いたアーモンドがアンセントになってて、でも口の中でほろほろって崩れて! 私あれ大好きなんだからっ‼︎ ――絶対に優取ってやるんだから……!)


 フンスッと穴息も荒くノートと向き合うリアーヌに、ゼクスはその邪魔をしないようそっと近づき、ノートに書かれた文字に視線を落とす。


「――半世紀戦争における我が国の役割とその後の法整備について……――えリアーヌ、マジで難しいトコやってるんだね⁉︎ すごいな……」

「――ちょっと、今、しゃべってる、余裕は、無いです……」


 ゼクスに褒められたことが誇らしいリアーヌだったが、レポート提出を遅らせるわけにはいかないと、必死に文字を書き連ねながら答える。

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