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「学院入学の話、ギフト持ちの方々の反応はどんな感じでした?」


 あらかたの話し合いが終わり、代表者たちが帰路に着いた後の集会場の中。

 残ったディーターに向かい、ゼクスはたずねる。


「――なんとも……すでに仕事を持っている者や家族のある者たちは、行く気はないのかと……」

「まぁ、そうなりますよねー……」


 渋い顔をしながら話しはじめたディーターに、ゼクスもつられるように渋い顔つきになりながら答える。


「まだ独身の者たちも『いまさら学校に通うのは……』という意見がほとんどで……」

「あー……そんな感じなんですね……?」


 ゼクスの常識としては学院に通うことにデメリットなど無いにも等しいのだが、この村の人たちにとっては、そうではないのだと、ようやく理解したようだった。


「――本人に行く気があっても家族が止めると言った場合も……」

「それは――金銭的な理由ではない、ってことですか?」

「男爵様のお人柄であれば、すでに分かっておりますが……学院ー王都には……」


 そこで言いにくそうに言葉を濁すディーター。

 しかしゼクスはそこまで聞いて、ディーターがなにを言いたいのか理解し、その続きを引き取った。


「――関わり合いになりたくないような貴族もいるだろう?」

「……はい。 三年もやきもきするくらいなら、ここにできる学校に通ってほしいと……」

「なるほどねぇ……?」


 ディーターの言葉に、ゼクスはなんと答えるべきか悩んだ。

 そもそもここに作る学校と学院の授業内容は月とスッポンほどに違いがある。

 学ぶ意欲があるならば断然学院に通うべきだったがー……学校を作ると決めた自分がそれを指摘してもいいものかどうか……そこを迷っていた。


「――ギフトは火魔法です」

「あー……それは結構危険だねぇ……?」

「……本人は卒業したら資格を取って、この村の警邏隊になるのだと言っているのですが……」

「……うまく立ち回らないと、村に帰って来れないかも……?」

「やはり……」


 ゼクスの言葉にディーターは神妙に頷きながら答えた。


「――うん。 魔法と付くギフトはいつの時代、どんな地域でも引く手数多だからね……?」


 困ったように肩をすくめながら答える。


 学院の専門学科に入学するつもりならばギフトの内容を秘匿することは不可能だ。

 そして、火魔法や氷、雷魔法といった攻撃性の高いギフトは、貴族たちの間で人気が高かった。

 ――つまり、その青年が王都に出るということは、数々の貴族たちに目をつけられるも同然のことだった。


(こりゃ、授業内容云々なんかどうでもよくなっちゃったなぁ……?)


「男爵様のお力でも、どうにもなりませんか……?」


 ディーターの探るようなすがるような視線にゼクスは肩をすくめながら口を開く。


「んー……――俺のいう通りに三年間生活できるなら守れると思いますし、牽制だってもちろんやりますけど……俺の知らないところで、本人が約束や契約を交わしちゃったら、俺でも口出しできなくなる場合が多いんですよね……」

「……ご実家の後ろ盾があってもなお、でしょうか?」

「あー……そうなったら場合で考えるなら、ラッフィナートにちょっかいかけられるほど大きなトコだと思うんで、やり合うのは厳しいかと……――あくまでうちは男爵家で実家は商家だからねぇ……」

「そうですか……」


 心底残念そうにディーターは肩を落とした。

 個人的にその青年に期待を寄せ、これからのこの村の守りの要となって欲しいと願っていたからなのかもしれない。


 そんな残念そうなディーターの様子や、貴重なギフト持ち――しかも火魔法の使い手をくすぶらせるのをもったいなく感じたゼクスは、少し考えを巡らせると、ある提案をディーターに持ちかけた。


「――その人の願いは、あくまでもこの村を守ること、なんですよね?」

「……本人はそう言っています」

「極論を言ってしまえば、資格がなくともこの村の警備や警護が出来れば不満は無い――と捉えても?」

「……だとしたら道が残されているんでしょうか?」


 正直なところ、ディーターはそこまで細かいことは把握しきれていなかったが、話だけでも聞きたいと、詳しい説明を促した。


「俺が雇って――この村に出向させる、って手段は残されてる。 この場合は男爵家の使用人ってことになるかな。 たとえ俺でも貴族に雇われるのか嫌ならラッフィナート商会に雇われて俺の下に付くって手もある……こっちだと、こいつらの後輩って感じ」


 ゼクスはそう言いながら後ろに控える護衛たちにチラリと視線を送った。


(おすすめは親父たちに横やり入れられにくい、男爵家の使用人のほうなんだけど……――家族が許さないかもなぁ……)


「……一度ラッフィナートに雇われなくてはいけない理由はなんなのでしょう?」

「うちの従業員なら、同じギフト持ってるやつが力の使い方を付きっきりで教えてやれるし、護衛たちにそういう仕事のやり方も仕込んでもらえる――まぁ、本人のやる気次第かな? この方法なら力の扱い方だけで言うなら、学院に通うのと同等かそれ以上の実力をつけられると思う」


 ゼクスの言葉を聞きディーターは喜びに顔を輝かせるが、そんなディーターの反応にゼクスは困ったように肩をすくめる。

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