256
「えっと……たとえば空き地に大きなテントとか貼って、そこに子供たちを集めて、本を読んであげたり遊ばせたり、年が大きい子は読み書きとか計算を教える所……と言いますか……」
(託児所って言って理解してくれたらどれだけ楽か……)
リアーヌは心の中でボヤくように付け加える。
「テントで遊ばせる……?」
「小さい子供を預けられる、預けておけば読み書き計算教えてくれる――ってなれば、多少の月謝を払ってでも利用する人はいるんじゃないかなって……?」
「月謝……」
「――で、そうなればおばちゃんたちが働きに出れる時間も増えるんじゃないかなって……」
「……井戸端会議の時間が長くなるだけじゃない?」
ゼクスは呆れたように、リアーヌにからかいの視線を向けながら言った。
「……――仕事しながら会議するんじゃないですかね⁇」
リアーヌはゼクスから視線を逸らしながら、とぼけるように答えた。
「――ま、空き地でテント……ってことなら、そこまで費用はかからないし、月謝を取るなら人を雇っても赤字にはならない可能性が高い……――悪くはない話かな? ゆくゆくは作る気でいたからね、その下地になってくれそうだ」
大きく頷きながら乗り気そうな様子のゼクスに、リアーヌは少し目を見開いていた。
(意外。 学校建てるより道を通す方が優先! 売れるもの作る方が優先! 金がかかるものより儲かる物‼︎ って考えなんだと思ってた……)
「……意外って顔してる?」
リアーヌの表情に、芝居がかったように顔をしかめ、拗ねたようにたずねた。
その言葉にリアーヌは苦笑いを浮かべながら口を開く。
「……もうちょっと後でもいいんじゃ……ってお考えなのかと……?」
そう答えながら、リアーヌはごまかすように前髪をいじりながら答えを濁した。
「――ま、俺ももう少し後でいいと思ってたんだけど……代官としてこの村で働きたがる人がねぇ……? 応募が無いわけじゃないんだけど、無能でも困るし、野心がありすぎても困る――で、今ちょっと難航しててね? この村の人間を育てるって話も出たんだけど、ディーターとディルク以外は、たとえ書類を介してでも貴族とやりとりすのは嫌だと言われている状態でね?」
「あー……」
(事情を考えれば無理もないと思うけど……)
「さすがに村長と代官を兼任はさせられないしさ……」
「むしろやり合う立場ですもんね?」
(村代表とラッフィナートの代弁者が同一人物は不味かろうて……)
「ね? 結果として、俺VS村の人々って構図になって……――もう代官置く意味無くなっちゃうだろ?」
疲れたように息をつきながら言うゼクスに、リアーヌは肯定するように苦笑いで肩をすくめるのだった。
「だったらまだこの村出身の代官の方がマシだよ」
「――結果は変わらないような……?」
(代官も巻き込んだゼクスVS村の人々になるんじゃない……?)
「そこはちゃんと仕事してくれる人を選ぶさ。 べつにこの村を虐げたいわけでも、搾取したいわけでもないんだ。 値切れるなら値切ってもらうけど、良好な関係ではいたいからね?」
ゼクスは首をすくめながら答える。
ゼクスが――ラッフィナート商会がこの村に望む一番のことは、道路補装のための労働力の提供だ。
名目は労働納税だろうが、純粋な労働だろうが、なんでも構わない。
しかしどちらにしろ良好な関係性でいたほうが、自分たちがやりやすいのは間違いない。
「――あ、じゃあこの村のギフト持ちの方々に、学院に通って頂くってのはどうでしょう?」
「……――来年入学のギフト持ちって……?」
そう言いながらゼクスは答えをたずねるようにリアーヌに向かって首を捻った。
「えっと……ギフト持ってる人って、無条件に学院への入学資格があるじゃないですか?」
「……だね?」
「ちょっとぐらい年齢が過ぎててもその資格は有効だったりしませんかね……?」
「――あー……」
ゼクスはリアーヌの言いたいことを理解して、ソファーに倒れ込むように背中を押しつけ、天井を見上げた。
「……入学しなかった時点で資格失ったりしますかね……?」
「いや……病気や家庭の事情で一、二年入学が遅れたって話は珍しくない――それが何年有効なのかは分からないけど……」
「――教養学科には、結構歳が離れてる人も入学したりしますけどね……?」
リアーヌは言いにくそうに口元を隠すように覆いながらそっと伝える。 『一年生時は護衛の同行を禁ずる』と言う校則の穴をつき、護衛やお付きを同行させようと思えば、同じ学年にその者たちを入学させる必要があるからなのだが――
それらの護衛たちが、入学生と年が離れすぎていることも、ままあることだった。
「うーん……言いたいことは分かるけど、それが丸々ギフト持ちに適応されるかどうか……――ギフト持ちは授業料も免除になる。 それらは全て国の予算で賄われていて……お役人ってのはその辺シビアだからねぇ?」
「むぅ……」
「王都に戻ったらすぐに問い合わせてみるよ――うちとボスハウト家の連名だったら、ちょっとは優遇してもらえるかも……?」
顔をしかめてしまったリアーヌを宥めるように、ゼクスは肩をすくめながら提案する。
「……ダメだって言われたら王家はケチだって――」
「うん、止めようね? 絶対ダメだからね⁇」
唇を尖らせるリアーヌを全力で止めるゼクス。




