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「え……? 働き口がない……⁇」
次の日も暇を持て余したリアーヌが自主視察に勤しんで、ご婦人方との井戸端会議をしていると、その中の一人から思いもよらない話を出され目を丸くする。
「無いってことは……ねぇ?」
その話を始めた女性は言葉を濁しながらも同意を求めるように周りに視線を投げかける。
「無い……んだけどねー?」
一人の女性がそう同意したのを皮切りに、みんなが口々に不満を口にし始めた。
「うちはまだ子供に手がかかるから……」
「うちもそうよぉ!」
「でも暇な時間だってあるのよ?」
「そうそう! なのにそれだけじゃ……って!」
「前は雇ってもらえたのにねぇ……?」
彼女たちの話をまとめると、朝から晩まで――つまりはフルタイムでの働き手は引く手数多なのだが、それに反比例するようにパートタイムでの仕事がほぼ無くなってしまっている状態だった。
「そりゃあね? 村に人が増えて、みんな仕事も見つけられて、良いことだとは思うのよ?」
「そうよね? ようやく家族全員で暮らせるようになったお宅も多いしね?」
「おめでたい話よ」
「それに農園や炭屋の仕事は、肉体労働だからで、男が優先されるってのも……まぁ理解は出来るわ?」
「あたしらはどうしたって子供や家のこと優先になっちまうからねぇ……?」
「ただ――……」
そこでご婦人方はきょろりと周囲を見回し、ジリジリとその輪をさらに小さくすると、ヒソヒソと声をひそめて続きを話し始めた。
「……前はともかく、いまじゃどの店も儲かってるって話だろ?」
「だったら、あたしらの働き口だってあったって良いんじゃないかねぇ?」
「なにも楽な仕事を回せって言ってんじゃないんだよ。 男どもに混じったって構わないさ。 ――ただ、夕飯の準備までには帰りたいってだけで……」
その話を静かに聞いていたリアーヌは、うーん……と唸りながら、頭を捻らせる。
(……つまり、フルタイムで働くのは立場上ムリ。 ……この村の保育園も託児所も無いからそりゃそうなるとして――それでも以前は仕事があったのに、みんな仕事が増えて忙しくしているくせに、自分達の仕事だけがなくなってしまった。 私たちだって前みたいに働きたいんだけど! って話だよね? ――まぁ、雇う側からしたら人手が足りないんだから、欲しいのはフルタイムで働いてくれる人になっちゃう……――でもこの村、学校すら無いのに、お母さんがフルタイムは……――保育園や幼稚園とか、多分この国にも存在してないんだろうな……)
――事実、この国には保育園も幼稚園も存在していなかった。
それもそのはず。
この国の半数以上の人間は学校などには通わずに働きに出る。
それゆえ自分の名前や暮らしに必要な単語が読める程度の語学力と、買い物をするときにごまかされない程度の計算力ぐらいしか持っていなかった。
裕福な領地ならば領主が学校を作り領民を通わせることもあったが、それは塾のように有料である上、その領土の領民でなければ通えないものだった。
(……ゼクスは学校作ってくれなさそうだよねぇ……? ――おばちゃんたちんとこの子がギフト持ちなら、レーシェンド学院に通えるけど……――王都の学校、通わせる気あるかなぁ……? なんかこの村の人たちってギフト使って働く気、皆無っぽいんだよねぇ……)
リアーヌはそんな、この村に流れる空気を思い出し、目の前のご婦人方には気がつかれないようにこっそりとため息を漏らした。
(元々がギフト持ってるってこと隠してた人たちだし、力の使い方も上手ってわけじゃ無さそうだし……全部私が、勝手に思ってることだけど……――多分間違って無いと思うんだよなぁー。 ……――ええ、そうですね。 悪いことはいつもそいつが原因。 安定の前領主がまたやらかしてんの! 使えそうなギフト持ちだって分かると、ひたすら粘着され、そして言いがかりのような理由をこねくり回されて借金まみれにされた挙句、肩代わりを条件に他の貴族のところで働かされたりしてたらしい。 もちろん前領主はその貴族から高額報酬貰ってポッケに無い無いしてさ! ……もうさ、そいつの顔と名前と悪行の数々をビラにコピーしまくって、国中にばら撒いてやろうかな? ――まぁ? その辺りからしっぽ掴まれて、税金五割だなんてとんでもないことやらかしてるってバレて、はい排除。 ってなったらしいんだけど……――この村の人たちにとっては、それがついこの間の話だから「ギフト使って働いたほうがお給料上がるよ⁉︎」とか、あんわり気軽に言えないんだよねぇ……)
一人考え込むリアーヌをよそに、ご婦人方は、話題を変えて井戸端会議を盛り上げている。
そんな姿をぼんやり見つめながら、リアーヌはさらに考えを巡らせる。
(ギフト持ってるってバレたくなくて、資格があったのに学院に通わなかった人もいるみたいだし――もったいない。 ……今からでも学院に通うことって出来ないのかな? あの学校の卒業生って肩書き、絶対持ってたほうが就職活動に有利だと思うんだけど……――あ、王都にこの村専用の寮みたいなの作ったら働き口増えそうじゃない⁉︎ ご飯作って、共有スペースの管理とかだけなら、パートのおばちゃん一人とかでも十分間に合いそうだし――って無理だわ。 職場が王都じゃ通えないんだわ。 ……でも、そんな所を格安で借りられます! ってなったら学院に通うハードル、ずいぶん低くなる気がするけど……――そもそもギフト持ちの入学資格っていつまで有効なんだろう⁇ あとでゼクスに聞いてみよ。 ――……って違うよ。 パート増やそうって話だった……――女の人のパート……バイト――内職? 家事の合間に出来そうなこと……――どうしよう写本ぐらいしか思い浮かばないんだけど……――あ、母さんが縫い物の仕事家でやってたことあったな? ――それなら良いんじゃない⁉︎ 肉体労働が多いならその分、ここちょっと縫ってほしい……とか、ここ破けちゃったから直してほしい……とか多そうだし!)




