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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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 ――思いのほか、浜辺に人が集まり過ぎてしまったのだ。

 ゼクスたちの旅行がお忍びであったことも悪く作用し、住民や他の観光客がなんの躊躇もなく美しく飾り立てられた浜辺へと押しかけてしまった。

 一応は縄を張り、招かれざる客が寄ってきてもリアーヌたちが自由に散策できるようにしてあったのだが、壁があるわけでも目隠しがあるわけでもない浜辺で、縄が貼ってあるからと帰る者はおらず、数多くのギャラリーに見つめながらの散策となってしまったのだ。

 そんな状況下で護衛たちが護衛対象の側を離れるような判断を下せるわけがなく――……

 結果として、大人数が押しかける浜辺で、護衛たちと共にしばらくの時間イルミネーションの中を散策する――という、いまいちロマンチックに欠けるものになってしまったのだった。


 重ねていうが、リアーヌはそれでも満足していた。

 初めは大勢押しかけたギャラリーたちに気後れしていたリアーヌだったが、イルミネーションの中を少し散策するだけで、その顔には微笑みが浮かび、きょときょとと楽しげに辺りを見回していた。

 ゼクスもそんなリアーヌの様子にそれなりには楽しむこともできたのだが、全くと言っていいほど、なんの進展も見られなかったリアーヌとの関係に、ガッカリと肩を落としたのだった――



「栗だぁぁぁぁ!」

「――お嬢様?」

「……わぁ、可愛らしいケーキ。 とても美味しそう」


 サンドバルの村に着いたリアーヌたちは、荷解きもそこそこに村人たちからの接待を受けていた。


 ――というのも、サンドバルへと向かう馬車の中、ゼクスが村からの手紙に書いてあったことをリアーヌに話して聞かせたことがきっかけだった。


「なんでも村の者たちで、冬にも食べられるショートケーキを作ってるそうだよ?」

「――冬……?」


(あ、そうか。 フルーツで作ってたんだから、普通は冬には作らなくなるものなんだ……この世界、クリスマスケーキもクロカンブッシュにブッシュドノエルだったわ。 ……じゃあ冬のショートケーキってなんケーキになるの? ……ジャムを使う? それとも――あ、シロップ漬けの果物だったり⁉︎)


「楽しみだねぇ?」

「――ですね!」


 ――という会話の(のち)、目の前に出されたケーキに乗っていたのは、甘く味付けされ黄色く色づいた栗だった。


「お嬢様に喜んでいただけるよう、皆で考えたんです」


 村長の息子であるディルクが、にこやかに言った言葉に、リアーヌの顔がぱあぁぁぁっと明るく輝く。


「私のためのケーキ⁉︎」


(実はちょっと憧れてたんだよね! 私のために作られたケーキとか最高じゃん! しかもこんなに美味しそうだしっ!)


「じゃあ……早速一口どうですか、お嬢様?」


 ゼクスはそう言いながら自分の前に置かれたケーキを一口すくってリアーヌの前に差し出した。

 なんの躊躇もなくそれを口に入れ、瞳を輝かせるリアーヌ。


「――これ、中にもトロトロの栗が入ってます! 美味しい!」


 リアーヌの言葉にホッと胸を撫で下ろすディルク。

 そして嬉しそうに微笑みながらリアーヌが食べている姿を眺めている。


「俺も食べたいな?」

「はい、どうぞ」


 ねだるようなゼクスの視線に、やはりリアーヌはなんの躊躇も見せずに、自分ケーキを掬うとゼクスに向かって差し出す――

 二人の関係性はゼクスが思っている以上に深まってきているようだ。


「……うん。 美味しいね?」

「はい! これもカフェに置いていいですか⁉︎」


 リアーヌはディルクのほうを向きながらたずね、その質問にすぐさま「もちろんでございますとも!」と二つ返事が返ってくる。


「いいですよね?」


 その返事に笑顔を浮かべたリアーヌはゼクスに向かって首を傾げる。

 言葉ではたずねているものの、その本心では断られることなど万に一つもないと信じきっている様子だ。


「もちろん。 とっても美味しいし……リアーヌのケーキだからね?」


 ゼクスとしても当然断るつもりなどなく、上機嫌なリアーヌをニコニコと見つめながら答えた。


「えへへー。 またカフェのメニューが増えますね!」

「だね? たくさん増やそうね⁇」

「はい!」


 リアーヌたちがそんな会話をしつつ、ケーキに舌鼓を打っていると、応接室のドアの向こうが、ガヤガヤと騒がしくなり始めた。

 そして少しの時間を置いて、村長のディーターが応接室の中にやってくる。


「各代表が集まりましたので、お二方の宜しい時に会議を始められます」


(――え、もう会議を始めるの? これって『新しいケーキ作ったから食べてみてください!』ってだけの場じゃなかったんだ⁉︎)


「分かった。 ……リアーヌまた相談役になってくれるかい?」

「えっと……」


 迷うそぶりをみせるリアーヌにゼクスはすぐさま言い募った。


「前みたいに思いつくまま、自由に喋ってくれて構わないからさ?」


(なら簡単そうだけど……――そろそろ『言う通りにしたのにうまくいかない!』って苦情とか出てきそうで怖いんだけど……?)

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