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 帽子に付いたブローチを見つめながら、リアーヌは今度こそハッキリとため息をもらす。


(……これ落としでもしたらどうすんの……? 私の小物を無くすスキル。甘く見ないでもらいたいですね⁉︎ こんなブローチなんか、ストンッコロコロー……で一発なんだから! あれっ? って思った時にはもう無いね! 数多くのストラップや缶バッジを無くして来た私にこんなもの付けさせようとしないで! イヤリングや指輪ですら気が付かないうちに無くしてたのにっ!)


「お似合いですよ、お嬢様」

「本当! お綺麗ですわ」


 支度がすんだ合図として、口々に褒めそやし始めるカチヤさんたち。

 そんなお世辞の言葉に愛想笑いで答えながら、リアーヌはドレッサーの鏡越しのアンナに向かい真剣な表情で口を開いた。


「――万が一にも私がこれを落としてしまったら……必ず拾ってくださいね……?」

「まぁ! そこまでお気に召したんですね⁉︎」

「それはそうよ! とっても素敵なブローチですもの!」


 リアーヌの発言の意図を少々勘違いしたカチヤとコリアンナはキャイキャイと楽しそうな声で話し合う。

 ――が、アンナだけは至って真剣な表情のまま、ひとつ大きく頷いた。


「――ご安心を。 必ずお守りいたします」


(この分かってる感安心する……。 やっぱり頼りになるのはアンナさんなのよ……)




 ワンピースと似た色合いのジャケットをまとったゼクスと合流し、商船が多数止まっている船着場のあたりを散策していると、仕事中であろうテオとバッタリ出くわす。


「おーおー! そうしてっと、どっからどう見てもお嬢様だよなぁ? うちの真珠もよく似合ってる」

「ありがとうございます」


 豪快に笑いながら褒め言葉を口にするテオに、リアーヌはまんざらでもない様子で答えた。


「そりゃ俺の見立てですからぁ? 似合うのは当たり前でしょー。 ねー?」


 それなりの交流のあるゼクスは、普段よりも少しだけ砕けた様子でテオの軽口に答え、リアーヌに同意を求めた。


「すごく綺麗で気に入ってます!」


 ゼクスから送られたものは、大袈裟なほどに喜んでみせるのがマナーなのだと学んだリアーヌは、コクコクと大きく頷きながら嬉しそうにゼクスに笑いかける。

 目が合った二人はくすぐったそうにふふふっ笑い合い、また視線を絡ませ合うと、さらに微笑みを交わし合った。


「かー……甘酸っぱいねぇ……」


 そんな二人のやり取りに、テオが呆れた声をあげる。


「――やっかみとか、やめてもらえますー?」

「ケッ! オメェもさっさと結婚して尻に敷かれちまいな。 酢っぺぇ毎日が待ってるからよぉ」

「俺たちに待ってるのは甘いほうだけだからー」


 その言葉にリアーヌの指先がピクリと反応するが、リアーヌは微笑みながらその動きをごまかしてみせた。


(この程度の軽口――しかも、良くしてくれてるおっちゃんの言葉にまで、なんで反応しちゃうかなぁ……――結婚できるとか期待するのは一旦止めよう。 少なくとも主人公がルートを決めるまで様子見るのが良いって……)


「へーへー、そりゃご馳走さん」

「お粗末様でーす」


 リアーヌが少しの考え事をしている間に、テンポ良く進んでいた二人の会話は終わりを迎えていた。

 慌てて頭を下げるリアーヌにテオは愛想よく笑い「今度は米食わしてやっからな!」と声をかけ、リアーヌの輝かんばかりの笑顔を引き出すのだった。


「ドレスや宝石より喜んでるまであるな……?」


 隣から聞こえてきたゼクスの不満げな声に、リアーヌは慌てて首を振る。


「そんなこと⁉︎ このワンピースもベレー帽も、どれもお気に入りです!」


(――ただ装飾品たちを落とすかもって心配と不安が本当に苦痛なだけで!)


 必死にフォローしながらも心の中で本音を叫んだ。


「……(ぼん)、結婚はもうちょっと待ってやったらどうだ……?」

「子供じゃないから。 俺たち同い年! 美味しいものが好きなだけの普通の子なの!」

「そりゃ知ってるがよぉ……」

「さ、もう行こうねー? あ、あっちにも露店が並んでたよ⁇ なんか美味しいものあるといいねー?」

「美味しいもの⁉︎」

「――完全に色気より食い気じゃねぇか」


 そん二人のやりとりをテオにからかわれ、ブスくれた表情を浮かべるゼクス。

 テオの軽口に答えることなく、ズンズン歩いて再び港散策に戻っていく。


 ――そのまま船着場近くの露店を冷やかし――興味を惹かれた店でガッツリと買い物を楽しむ頃にはゼクスの機嫌はすっかり良くなっていた。

 そしてリアーヌの後ろにピッタリと張り付き生物対策をとっていたアンナに、何度も咳払いをされるほどには甘い空気を作り出しながら久々のデートを楽しんだのだった――


 ◇


 宿屋に帰りつき、寝支度を整えベッドに倒れ込んだリアーヌは、先ほどまで見ていたホワホワとした光たちを思い出し、ほぅ……と感嘆の吐息を漏らす。


 夕食後、ゼクスに食後の散歩に誘われたリアーヌ。

 そんな彼女の目にすぐに飛び込んできたのは、浜辺に漂う無数の蛍のようなイルミネーション。

 驚いてゼクスを見つめるリアーヌに、イタズラが成功したかのような笑顔を浮かべたゼクスは「約束しただろ?」と言いながら小さなウインクを送る。


 その趣向はある意味で大成功を、そしてある意味では少々の失敗をしていたのだが……リアーヌ的には大満足だったので、ゼクス的にも成功ではあったのだろう。

 

 ――ゼクスの誤算は二つあった。

 一つ目は、まだ早い時間ではあったのだが、すっかり日が暮れてしまったということと逃げ隠れができないような開けた場所だったことで、リアーヌと二人きりにはしてはもらえなかった。

 事前にオリバーたちには話を通していたのだが、現場の下見をしに行ったオリバーが「あの場にお嬢様を一人で送り出すことは難しい」と言い出してしまい、案内していた自分の護衛も「出来れば、俺たちも同行したいッスね……?」と言い出したのだ。

 そしてその原因こそが、ゼクスの誤算の二つ目だった――

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