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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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 しかしゼクスからは、ゆっくりと口角を引き上げたアンナの姿がよく見えたので、クスクスと笑いをこぼしながらもフォローを入れる。


「ほらほらそんな顔しないのー。 このお好み焼きってのに入ってるツナマヨっての? 美味しいよ? はいあーん」

「――あーん!」


(ツナマヨのお好み焼き、好き!)


「あらぁー、若いっていいわねぇ?」

「あんなイケメンに食べさせてもらったら、そりゃ美味しいわよねぇー?」


 二人のやりとりを見ていたご婦人たちがニヤニヤと楽しそうに言葉を交わし始めるが、もきゅもきゅとお好み焼きを咀嚼することに集中しているリアーヌの耳には届いていないようだった。


「うっまぁー!」


 満足そうなリアーヌの笑顔に今度は近くにいた男性陣がコソコソと言葉を交わし合う。


「……ありゃ“餌付け”って言わねぇか?」

「俺んとこのガキもあんな顔して飯食ってんぞ……?」


 そんな会話も、テーブルの上に並べられた数々の料理に目を奪われているリアーヌの耳には届かないようだった。


(たこ焼きにお好み焼きに、だし巻き卵に焼きとうもろこし――そしてここにあら汁が加わる……! ……もしかしてご飯もあったりする⁉︎ まぁ、今は大丈夫なんだけどー。 でもお味噌汁と言ったらご飯だよね⁉︎ ――あとでテオさんに聞いてみよーっと!)


 テーブルに並べられた料理に舌鼓を打ちながらも、そんなことを心に決めるリアーヌ。

 しかし、米は食べ方が難しいとの理由からこの国ではあまり出回っておらず、この港で米を手に入れることは出来ないと分かったのは、リアーヌが痛く気に入ってバクバク食べていた炙ったサーモン、実はほとんど生だということがアンナたちにばれ、大騒動が巻き起こった後だった――


(……無念。 しかも、いつお米と出会ってもいいように、味噌だけでも買って帰ろうとしたのに、アンナさんに「臭いがよろしくありません」って却下されちゃったし……お味噌は臭くないもん。 あれは発酵の匂いだもん……――炙ったホタテも食べたかったなぁ……)


 ◇


「噂には聞いておりましたが、男爵のお見立ては流石でございますねぇ……」

「本当に! お嬢様にぴったりですわ!」


 セハの港の宿屋の中、ゼクスから送られた洋服を纏ったリアーヌの準備を手伝いながら感嘆の声を漏らすのは、今回の旅から正式にリアーヌ付きとなったメイドのカチヤと、コリアンナだった。


 リアーヌより年上といっても、2歳しか違わないまだまだ歳若い者たちだったが、ヴァルムやオリバーのお眼鏡に適った、将来有望な者たちだった。

 オリバーの遠い親戚筋に当たる少女たちであり、幼い頃より王族の血筋に支える教育を施されているエリートでもあった。


(――この二人ってオリバーさんの親戚なのに、血筋が遠すぎてこれまで一回も会ったことないって話だったけど……この国の人たちって、そこまで関係性の薄い人は親戚とみなすのが普通なんだろうか……? ――いや、血がつながってるなら親戚だとは思うけど……――ま、ヴァルムさんが雇うって決めたんだから、優秀ってことに間違いはないんだろうけど!)


「――悔しいけれどお似合いです、お嬢様」


 鏡の前に立つリアーヌを見つめながら、アンナが少し面白くなさそうに口を開いた。


 ゼクスが送った、落ち着いたオレンジ色のワンピースドレス。

 その形はどことなくクリスマスパーティで着たシンデレラのドレスのシルエットと似ている部分があり、シンプルなデザインであったのだが、そのボタンや飾りに使われているいくつもの真珠たちが一際強く存在感を放つものだった。


「――私はアンナさんたちが選んでくれる服も好きですよ……?」


 鏡越しにアンナを見つめたリアーヌは気づかうように話しかける。

 心の中で(こんなに本物の真珠が付いてるワンピースなんか、恐れ多すぎて既に脱いでしまいたいぐらいなのですが……?)と、嘆きながら。


「まぁ……! なんて嬉しいお言葉かしら!」

「そうですわね? アンナ様のお見立てだってさすがですもの!」


 嬉しそうに、コロコロと笑い合うカチヤたち。


 ワンピースの丈などに問題が無いことを確認すると、リアーヌはドレッサーの前に座らされ、メイクやアクセサリーなどを付けてもらう。


(――お金持ちの旅行って荷物が多いとは思ってたんだけどさぁ……? 鏡やドレッサーまで持ってのお出かけだからなんだなぁ……――そりゃ荷物も多くなるよ。 家だろうが出先だろうが、身だしなみのほとんどをメイドさんにお任せしてるのよ? 世の中のお嬢様が可愛らしくあれるのは、絶対にメイドさんたちのおかげ……!)


 そんなことを考えながら、リアーヌは次々と自身に飾られていくアクセサリーを見つめていた。

 今日のリアーヌの服装品は全てゼクスが用意したもので、ラッフィナート家の財力を誇示するかの如く豪華なものばかりだった。


(なんだよこのデカさは……これネックレスなんだよね? 付け襟とかじゃないんでしょ? ――重い! デカい! ネックレスの域を超えている‼︎)


 リアーヌの首を飾るそれは、大きさが微妙に違う真珠が5連に連なっているものだ。

 一粒一粒がとんでもなく大きいので、首元から胸元までを覆うほどのボリュームを誇っている。


(――これが全部本物とか信じたくない……いや、この輝きは本物よ……私、ちゃんとそういうの見分ける勉強もしてるもん。 そしてこの世界、あんまり技術が発達してないから偽物の輝きはすぐに分かっちゃうし……だから私にだって本物だって分かっちゃうんだけど……――だからこそ恐ろしいのですが⁉︎)


 心の中でため息をつきながら、リアーヌは鏡に映る自分の頭にチラリと視線を送る。

 そこにはワンピースと同じ素材で作られたベレー帽と、その帽子を飾る豪華なブローチがあった。


(こっちはバロックパールと……その周りのキラッキラした石は――きっと宝石だよなぁ……? これでガラスですってことはないし……――ここまでキラッキラしてるなら万が一天然石であったとしても絶対に高いヤツじゃん……)

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