表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
241/517

241

 リアーヌは満足そうに庭を眺めているが、ヴァルムたちが禁止令を出した理由は“暗い場所が危険だから”という理由だけでは無い。

 どのようなパーティにおいても、庭というものは恋人たち――このような場所で火遊びを楽しむのは、未婚の若者たちではなく大人同士……既婚者たちや未亡人とその恋人……という場合がほとんどであったのだが――そんな者たちの語らいの場所であったからだ。


 ――今回は学園主催ということで、数少ない平民階級の生徒たちが、ロマンチックな庭散策を楽しんでいるようだったが。

 そんな生徒たちを眺めながら、ゼクスがいたずらっぽくリアーヌにたずねる。


「本当はもっと近くで見たかったけど……――それはまた今度かな?」


 パーティで庭を散策して問題が起こらないのは、婚姻関係にある者たち――つまりこの発言は、貴族的言い回しで考えるのであれば「早く結婚したいですね」と、捉えることができるのだが……――いまだにリアーヌにはそんな細かい知識は取得していなかった。


「えっ今度は連れてってくれるんですか⁉︎」

「ぇ、ぁ……ぅん?」

「楽しみです!」


 ニッコリと笑いかけるリアーヌにゼクスは「ぅん……」と珍しく口籠もりながら返事を返す。


「あー……――そうだ、セハの港で『イルミネーション』のギフト持ちを探してみようか?」


 軽く息をつき、気を取り直したようにリアーヌに笑顔で提案するゼクス。


「わぁ! 庭じゃなくて海でも絶対綺麗ですよね⁉︎」

「うん……でもそうだな、こういうのじゃなくて、もっと小さくてたくさん浮かべてもらおう」

「……星みたいな?」

「ふふ星も綺麗だけど、蛍みたいにふよふよ浮かんでる中を散歩しちゃうってのは?」

「――素敵⁉︎」

「――だろ?」


 そう言って意味ありげに微笑んだゼクスは、そっとリアーヌの手に自分の手を重ねながら、さらに語りかける。


「他に誰もいない海岸に蛍がたくさん飛んでる光景って、この庭より幻想的でロマンチックだと思わない?」

「ひぁ……」


 手を握り締められ、蠱惑的な眼差しに見つめられたリアーヌは、カチンと身体を硬くして奇妙な声を漏らすことしか出来なかった。


(あれ……? これはもしかして……そういう恋愛系のイベント的なお話をしている感じで……⁇)


 凍りつき、混乱するリアーヌの頬に、ゼクスの細く――しかし男性特有のゴツゴツとした指が添えられる――

 その感覚に、リアーヌはかつて無いほどの大混乱におちいっていた。


(おおお落ち着けリアーヌ! ええと……こういう時は――そう! 大きな声をあげて周囲の注意を……え、注意を? あ、違う⁉︎ これは不審者に絡まれた時の対処法‼︎)


「リアーヌ……」


 甘い声で紡がれる自分の名前に、リアーヌは自分の顔に血が集中したのが分かった。


(待って待って待って! 思い出すから、いま思い出すから‼︎)


 ゆっくりと近づいてくるゼクスの顔に気がついたリアーヌはギョッとして顔を背けながら、必死に頭を動かした。


(思い出せ思い出せ……――そう! さりげなく手を外して、何気なくを装って席を立つ! そして人気(ひとけ)の多い場所に移動‼︎)


 思い出したリアーヌが頬にかかるゼクスの手に自分の手を添えた瞬間、その耳元にゼクスが囁いた。


「今日の君はとっても魅力的だ……」

「ひぉ……」


 ビクリと身体を震わせたリアーヌが耳を引っ込めるように首を傾けながらそちらに視線を送る――

 するとそこには、ペロリと自分の唇を舐めたゼクスが不敵な笑みを浮かべていて、リアーヌはその光景に頭が真っ白になるほどの衝撃を受けた。


(――あかん。 顔が良すぎる……)


「ぁの……」


 どうにかそんな言葉だけ紡いでみるが、そんなリアーヌにクスリ……と笑ったゼクスは、またゆっくりとリアーヌにその顔を近づけ始めた。

 凍りついたようにその姿をジッと見つめていたリアーヌには、その瞳がチラチラと赤く光を放ち始めたのがよく見えて――


(――なんで今ギフトを使おうと思った⁉︎)


 本能的にギュッと目を閉ざしたリアーヌ。

 ゼクスのその吐息さえ感じるほど、その顔が近くにあると身を固くして――


「――何をなさっておいでですか?」


 その頭上から固く冷たいアンナの声が降り注いだ。


「アンナさん……」


 ホッとしたように息をつきながらその名前を呼ぶリアーヌ。

 そんなリアーヌにアンナは、ゼクスへ向けていた威圧的な表情をガラリと変えると、優しい笑顔で話しかけた。


「お嬢様ここは少々お寒うございますゆえ、会場の中に戻りませんか?」

「……えっと?」


 リアーヌはゼクスを丸っと無視したその意見に戸惑いつつも、いたずらがバレた子供のように気まずげな表情を浮かべるゼクスの顔を見て、意見を伺うように首を傾げる。


「――ラッフィナート男爵様もおよろしいですわね?」


 ゼクスが答える前にアンナが少々威圧を含む声でたずねる。


「はい……――行こっかリアーヌ?」

 

 アンナの問いに神妙に頷いたゼクスは、リアーヌに向かって肩をすくめるとさっさと立ち上がり、スッと手を差し伸べた。


「ど、どうも……」


 その手を見つめ、その手が頬に触れていたことを思い出したリアーヌは、視線を逸らしながらポソポソと答えながら、おずおずとその手を取った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ