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「リアーヌは頑張り屋さんだね?」

「そんなこと……」


 笑顔で褒められ、リアーヌはまんざらでもなさそうに頬を緩める。


「――そういえば、冬休暇のサンドバル行きの許可はもらえそうかな……?」


 ゼクスは声をひそめ、リアーヌの耳元で囁くようにたずねた。

 領地視察の同行とはいえ、婚前旅行とも取られかねないような発言に対する配慮でもあったのだが――……その瞳はいたずらっぽく輝いていて、配慮だけではない感情が紛れていることは明白だった。


(顔が近いが⁉︎ ――あ、良い香りがする……)


 ゼクスの行動に動揺したリアーヌはステップを踏み間違えてしまったが、クスクスと楽しそうに笑うゼクスはいとも簡単にフォローして、立て直させてみせた。

 そして顔を赤く染めながらキョドキョドと視線を揺らすリアーヌに、視線だけで「それでどうなの?」と問いかける。


「あ、えっと……」


 その視線から少しのからかい(・・・・)を感じ取ったリアーヌは、深呼吸するように大きく息を吸い込むとお腹に力を込め、冷静になるよう自分自身に暗示をかけながら口を開いた。


「えっと……――父さんとヴァルムさんが、もうすぐメイドさんたちの教育が終わる予定だから、それを待ってもらえるなら……みたいな話はしてました」

「ああ、その話は聞いてる。 休暇まではもう少しあるし、多少の日にちならズラせるから……」


 そこで言葉を切ったゼクスは、問いかけるようにリアーヌの瞳を覗き込む。

 そんなゼクスの行動を、グッと背中を逸らし顔を離すことで交わしたリアーヌは、少しの動揺を見せつつも「また一緒に行けますね……?」とハニカミながら答えた。


「――楽しみだね?」

「はい……」


 クスクスと笑いながら蠱惑的な笑顔を浮かべるゼクスの色気に、冷静を装っているリアーヌの頬はどんどん赤くなっていく。


 うわついた空気の流れるこの会場の空気に引っ張られるように、二人の間にも気恥ずかしいほどの甘い空気がゆったりと流れていた。


「……リアーヌ暑い?」

「あ、いや……?」

「でも顔が赤いよ?」

「それは、その……」


(分かってて言ってらっしゃいますよねぇ⁉︎ そのニヤケ顔やめろ!)


「ちょっと休憩しよっか?」

「ぇ……?」


 ゼクスはそう言うと、ダンスをしながらリアーヌを誘導し、スイスイと人と人の間をくぐり抜けてゆく。


(――何この技⁉︎ 私もみんなも踊ってるのに、誰にもぶつからずに輪から抜け出したけど⁉︎ ……曲が終わらなくてもこんなスマートに抜けられる方法が存在するんだ……)


 そんなエスコートにリアーヌは目を丸くして、ゼクスに促されるままに進んでいく。


 そしてあれよあれよと言う間にダンスフロアから抜け出たリアーヌは、狐につままれたような表情で先程で居たフロアといま自分が立っている場所を交互に眺める。


「――お手をどうぞ、お嬢様?」


 ポカンとした表情のリアーヌに上機嫌なゼクスは、芝居がかった仕草でお辞儀をし手を差し出した。

 そんなゼクスの態度にまんざらでもないリアーヌはニマニマっと頬を緩めると無言でその手に自分の手を重ねる。

 手を取り合った二人はクスクスと忍び笑いを漏らしながらパーティ会場を抜け出し、会場前のホールを抜けてすぐの廊下に来ていた。


(暗い学校も初めてだけど、会場から見える庭もライトアップされてて……――全然知らないところみたい……)


 そんなことを考えながら、目の前の幻想的な光で飾り立てられた庭を眺めていたリアーヌの肩にファサリ……と、ゼクスのタキシードがかけられる。


「え……?」

「涼みに来たわけだけど、さすがに今の季節半袖はね?」


 会場付近であれば空調管理がされているのだが、外ともなればそうはいかない。


「でも……ゼクス様だって……」


(タキシード脱いじゃったらシャツ一枚じゃん……?)


「――こんな時、男は痩せ我慢するもんなの」


 リアーヌの指摘に、ゼクスは困ったように肩をすくめながら答える。

 その様子と答えが可笑しくて、リアーヌはクスリと笑いながら言った。


「痩せ我慢、ですか?」

「まぁね?」


 そして見つめあった二人はどちらからともなく吹き出し、ケラケラと笑い合う。


 ひとしきり笑い合った二人は少しだけ廊下を進み、庭が眺められるベンチに移動していた。

 そしてその庭を眺めながらポツポツと話し合う。


「――ライトアップされてるとこんなに印象が変わるんだね?」

「ですねー。 すごく綺麗……」


(ギフトの灯で飾られてる庭とか、こんな近くて見られないと思ってたから、ちょっと得した気分!)


 この世界には光を自由自在に生み出すギフトも存在している。

 この庭を彩る光を作り出しているのも、そんなギフトの力だった。。

 ギフトで作る光はその色や形も自由自在に変えられる。

 今日庭を彩っているのは、同じ色の光で大小様々な球体ばかりだったが、王城で開かれるような大きなパーティになると、複雑でカラフル――さらには動き回るような光がパーティの脇を彩ることもあった。

 ゲームのスチルにも描かれていた、そのライトアップを間近で見られる! と喜んでいたリアーヌだったのだが、ヴァルムたちから、例え学園主催であっても、そのように暗い場所に立ち入ってはいけない、と禁止令を出され、ガッカリしていたところだったのだ。


(その点、ここは庭じゃないし、廊下の明かりは明るいし! でもこんなに近くで見られてラッキー!)

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